side 王子~俺は挑むぜ最難関ダンジョンに
カーナ神国。
西にある小国で元は王国だったが、百年以上前に王家が腐敗して崩れ、神人と呼ばれるハイヒューマンを象徴とする共和制の国になったところだ。
首都の地下に巨大な迷宮ダンジョンがあり、何とランクは世界最難関のSSS、トリプルSという恐ろしさ。
そして最奥には世界最強の生物、“魔王”がいる。
「お、王子ぃ。マジで大丈夫ですか? 単独踏破なんて無謀なことやめましょうよー」
「ポイントごとに地上に戻る転移スポットがあるとはいえ……」
「平気平気。魔物もそんな出ないらしいし、奥まで行って帰ってくるだけだから!」
挑むぜ俺は最難関ダンジョンに!
そう言い残して、エドアルド王子はカーナ神国首都、王宮跡地から地下ダンジョンへと降りていくのだった。
側近の騎士たちは心配で仕方がない。一緒に行きたかったが、このダンジョンは別名『試練の道』と呼ばれていて、ソロでなければ入れないのだ。
一応、現地の冒険者ギルドにダンジョン入りの連絡は入れてある。
いざとなれば現地の冒険者たちが救難に協力してくれるそうだが……。
そして案の定、エドアルド王子は数日ですぐ戻ってきた。
「ヤベエ。油断してるとマジで魂持ってかれる」
ガクブルしながら戻ってきて、ひとまず宿屋で体勢を立て直すことにした。
「王子、食事はどうされますか。宿でも出せるけど、近くの庶民向けの屋台広場のクオリティ高いらしいですよ」
「屋台? いいね、行ってみようか!」
タイアド王国の王都の下町にもあって、よくお忍びで兄と出かけたものだった。
シャワーを浴びて数日間の汚れを落とし仮眠を取るともう夜だった。
着替えて側近たちと町に繰り出した。
カーナ神国は小さな国だが、王都は活気があった。
最難関ダンジョンに挑む冒険者たちが集まるのと、神人を祀る神殿への参拝客で潤ってるのだ。
「トウモロコシの粉で作った皮包みなんかが美味いらしいですよー」
「タコスだな。ここは小麦の皮で具を包んだブリトーも美味かったはず」
現地ガイドをパラ見しながら側近たちが屋台を指差している。
屋台広場は20店舗ほどの屋台がひしめき合う雑多な空間だった。
確か今日はまだ平日のはずだが、地元の人や観光客でごった返している。
「あ……」
立ち食いスペースの奥の、冬なので暖房用の魔導具が設置されているテーブル席の並ぶ辺りに、見覚えのある顔を見つけた。
「どうしました? 王子。……あ」
側近たちが王子の見ている方向を見ると、そこには一足先にカーナ神国に向かっていたはずのマリオン一行が。
マリオン本人に遠縁の魔力使いの金髪と藍色の髪の姉妹。そして知り合いらしき青銀の髪の若い青年が歓談しながら夕食を取っていた。
「た、タコスだっけ? おすすめを食べようか!」
「あっ、王子!?」
慌てて視線を逸らせて屋台に向かう王子を側近たちが追いかける。
「おい、あっち見てみろよ」
「わ、気づかれたなー」
王子が背を向けるなり、マリオンがじーっと水色の瞳でその背中を見つめていることに気づいた。
「わあ。両方気づいてるのに声もかけないとか」
「甘酸っぱいスねえ。青春だなあー」
「オレ、ちょっとあっちに王子の宿の連絡先を教えてくるっス!」
フットワークの軽い者がさささっとマリオンたちのいるテーブルまで行って、一言二言話してすぐ戻って来た。
「北東地区の知り合いの家に皆で泊まってるそうです」
「おーし、よくやった!」
食事を注文しに行った王子と付き添いはまだ屋台の列に並んでいる。
「なんか可哀想ですよねえ。お互い悪いことなーんもしてないのに、王妃が余計なことしたせいで拗れちまって」
側近たちは、エドアルド王子が他国の魔導具師の幼馴染みが大好きなことはもちろん知っていた。
急に発生したお野菜モンスター討伐任務のせいでマリオンに会えず残念がっていた姿も間近で見ている。
「オレたちの誰か一人でも、王子の代理でマリオン殿に面会に行ってれば良かったよな……」
「でも王子も会えてないのに抜け駆けになっちゃうかもって」
「変な遠慮なんかしなきゃ良かったね……」
エドアルド王子のダンジョン探索に許された期間は、3月までの約3ヶ月。
さすがにそれ以上、個人的な理由で王族の彼が本国を離れることは国王が許可しなかった。
「タイアド王国に戻るまでには、いろいろ問題が片付いてるといいよね……」
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