「エド君に最後の試練だ!」
翌日、嫌な予感がしながらも、完全回復したエドアルド王子は夕方より少し早い時間に冒険者ギルドを訪ねた。
建物の3階、ギルマスの執務室に通され出迎えたのは、案の定の冒険者ギルドのお偉いさん、マリオンの祖父ダリオンだ。
「おう、エド君。わしの可愛いマリオンちゃんから伝言だぜ。『西のカーナ神国で会おう』だと」
「カーナ神国? 何でそんなとこに……」
いや、理由は何となくわかる。
西の小国には、マリオンにルミナスになった孵化前の卵を授けた聖剣持ちのハイヒューマンがいる。
「マリオンは昨日のうちに出立したぞ。ルミナスに乗って飛んでったからもう追いつけねえ」
まだ仔竜のルミナスでは長距離は飛べないはずだった。
だが飛行を補う補助ブースターになる魔石を例の姉妹が持っていたため、三人一緒にルミナスに乗って飛んでいってしまったのだ。
「な、なら早く追いかけないと!」
「まあ待てよ、エド君」
踵を返そうとした王子の騎士服の襟首を掴んで引き止めた。
「ぐえ」
「わしも姉ちゃんたちも、まあルミナスもか? いろいろ意地悪して悪かったよ。ミスラル銀とオリハルコン、マリオンのやつ喜んでたぜ」
試練と称してマリオンの代わりにエドアルド王子に過大……でもなかったが、慰謝料を吹っかけたことだ。
「マリオンはもうとっくにお前さんを許してる。そもそも、自分を研究学園で虐げたのが偽王子だって知った時点で恨みも霧散しちまってるんだ」
「……はい」
「だからこれ以上は、外野のわしたちがあれこれ余計な口出しするのはやめる。マリオンを追いなよ、王子様」
「は、はい!」
ではさっそく、とギルマスの執務室を出て行こうとした王子を、ダリオンは再び襟首を掴んで引き止めた。
「ぐえ。じ、じいちゃん、締まってる、締まってるからあああ!」
「まあそんなわけで、最後の試練だ。エド君や」
「まだやるの!? もう口出ししないって言ったじゃん!」
「だからこれで最後だ。やらないならブルー男爵家とアケロニア王家から正式にタイアド王家に対して、お前さんのマリオンへの接近禁止令を出す」
ぴたりとエドアルド王子の抵抗が止まった。
「試練ってどんな? やっぱり黄金龍の鱗と一角獣の角持ってこないとダメとか?」
「それはいろいろヤバいことになるから忘れていいぞ。……わしからの最後の試練は、マリオンが向かったカーナ神国の最難関ダンジョンに入って、最奥まで行って帰ってくることだ」
西の小国、カーナ神国。
かつて百年ほど前に、とあるハイヒューマンが作り出した脅威の踏破難易度
「特に素材の採集やボス討伐は必要ない。中に入って一番奥まで行って戻ってくるだけだ」
「カーナ神国のトリプルエスダンジョン……」
騎士ランクと冒険者ランクが最低でもSでようやく生還できると言われている場所だ。
エドアルド王子はダリオンたちの試練で、この短期間でランクBからAまで上がった。
まだ18歳の男子としてはあり得ない昇格スピードだった。
だが、最難関の
というより、ランクAとSの間には実力の断層があって、努力だけでは上がれない境地なのだ。
「生きて帰って来れたら、わしはお前さんを認めよう」
何をか?
(わしの可愛い孫ちゃんに告白するのをな!)
交際を許可するなんて誰も言ってない。
言ってないったら言ってない。
だが、エドアルド王子はそんなダリオンの詭弁に誤魔化されてくれたようだ。ちょろい。
「わかった。その試練、受けてみせよう。そしたらマリオンに……マリオンに、今度こそ……!」
決意した男の顔でエドアルド王子は王宮に帰っていった。
「ダリオンさん。ヤバいですって、カーナ神国のトリプルエスダンジョンは……」
そうここは執務室。空気になってダリオンとエドアルド王子の話を聞いていた、冒険者ギルドのギルマスが冷や汗をかいている。
「あそこ、魔物は意外と少ねえのよ。一番奥の奥にヤバいのがいるだけで」
「ダンジョンボスは魔王でしょ? ダリオンさんは遭ったことあるんで?」
「ああ、うん、まあな……」
ダリオンは言葉を濁した。
「と、とりあえずだな、あのダンジョンには世界最強の生物がいるんだ。別に戦えって言ってるわけじゃねえ。最奥まで行ってそいつをチラ見して即帰還すりゃいいだけだからな」
「魔王に遭遇して逃げられるもんですかね?」
ギルマスが首を傾げている。
「逃げられなかったら、わしの可愛い孫ちゃんに二度と会えなくなるだけだろ。余計な虫退治もできて一石二鳥」
「うわ、鬼だ。鬼がここにいる……っ。……あれ? でも一石二鳥ってことはメリットのもうひとつは何なんです?」
「そりゃ決まってんだろ」
エドアルド王子の剣聖の素質の、完全覚醒だ。
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