ついに二人は会えたけど

 寝室で寝込んでいるエドアルド王子は全身包帯だらけだ。

 腕も骨折して、どうやら脚まで折れている。


「何でこんな大怪我を?」

「弟は剣聖に覚醒しかけててね。ダンジョンの魔物と対決したとき、身体から噴き出す魔力を制御できなかったのと、手持ちの武器が自分の魔力に耐えきれなかったせいでこの有様だ」

「ピュウッピュイッ!」(聖なる魔力を持ってるなら、武器は聖なる武具じゃないと壊れちゃうんだよ)


 マリオンにルミナスを与えてくれた西の小国のハイヒューマンも聖剣持ちだ。


「聖剣か。……そっか」


(ならエドは僕のことに構ってないで、聖剣探索の旅に出るべきだね)


「エド。ちゃんと起きてるときに会いたかったな。僕はもう行くよ。元気になったら追いかけてきてね」


 ちゅ、と血の気を失った頬に口づけて身を起こした。


「クリス殿下、これエドに飲ませてあげてください」


 マリオンは魔導具師のローブの内側のポケットから小指サイズの小さな瓶を取り出して王太子に渡した。


「これ、まさかエリクサーかい!?」

「お世話になってる方から賜ったものなんです。僕の国だと特級ポーションと言ってますけどタイアド王国にはないですよね」


 万能治療薬エリクサーは、命さえあればどんな怪我や病も癒す。

 さすがに肉体の欠損などは、欠損部位が消失しておらず残っていなければ戻せないが、それでも破格の効果だ。


「この怪我なら半瓶で足りるはず。残りはエドに渡してあげてください。……できたら服用させるのは僕が帰った後にしてもらえたらと」

「よーし、エド。マリオン君からの慈悲だぞーこぼさず飲もうなー」

「あー!」

「ピュー!」(言ってるそばからー!)


 王太子がエリクサーの蓋を開けて、エドアルド王子の口の中に中身を突っ込んだ。


 ごくん、と飲み込む音がした。

 マリオンもルミナスも、そして兄のクリストファー王太子も固唾を飲んで見守っていると。


「あれ? ここ、どこ……?」

「エド!」

「おお……エリクサー様々だなあ」


 さすがの即効性だ。すぐにエドアルド王子は意識を回復した。


「何だこれ、口の中がすごくおいしい?」

「ピュイッピー!」(神人の血入りだからね、とうぜん!)

「ルミナス!? ということは……痛ぁっ!」


 勢いよく寝台から起き上がったが、エリクサーで骨がくっついたとはいえ、さすがに治癒したての患部に無理をさせると痛みが出る。


「ま、マリオン……?」

「えーと。この間も鉱山の町で会ったね。王子様」

「うそ、じゃあ俺のこと気づいてたの!?」


 もう身体が痛むなんてことは言ってられない。

 寝台から降りてマリオンに抱きつこうとしたが。


 もふっ


 瞬時に大型化した綿毛竜コットンドラゴンのルミナスの分厚い羽毛に遮られて、叶わなかった。


「どいてくれー!」

「ギャーウッ!」(やなこったー!)

「ま、マリオン。ほんとにマリオンだああっ」

「ギャーーースーーー!」(うちのマリオンにおさわり禁止!)


 可愛らしい綿毛竜コットンドラゴンのルミナスだが、成竜でなくともさすがに竜種は強かった。

 ふわふわ~の両前脚でぽふっとエドアルド王子を寝台に押し返して、ついでに上掛けのお布団を掛け直してやった。

 ルミナスの羽毛でもふもふのお手々は案外器用なのだ。


「うう、全身が痛いいい……っ」

「エド。エリクサーを飲ませたから一日も経てば痛いのもちゃんと取れるよ」

「ほんと……?」


 マリオンは魔導具の眼鏡を外して、素顔で微笑んだ。


「マリオン……」


 可憐なマリオンの顔に見惚れて、エドアルド王子がポーっとなっていると。


「本当に酷い目に遭ったよ、エド」


 すぐに眼鏡を戻して、ピシャッと冷や水を浴びせた。


「そ、その、その件は本当にごめんなさい! ごめんなさい!」


 せっかくルミナスが寝かしつけた寝台からまた降りて土下座しようとした王子を、マリオンはそっと押し留めてまた布団の中に戻してやった。


「エド。僕は冒険者ギルドにいる。今日はもう安静にしてちゃんと怪我を治して。そしたら明日の夕方、ギルドまで来て。待ってるから」

「マリオン……」


 ぽんぽん、と布団の上から肩の辺りを軽く叩いて、マリオンはエドアルド王子に背を向けた。


「マリオン。本当? ほんとに俺を待っててくれる?」


 心細そうな声に応えることはせず、マリオンは王子の寝室から出て行った。




「マリオン君。これ、慰謝料その2ね」


 エドアルド王子の私室を出たところで、クリストファー王子が小さな箱を投げてきた。


「ピュンッ」


 すかさずルミナスが口でぱくっとキャッチして、すぐマリオンに渡した。

 中を見ると、眩く輝く黄金の塊が入っている。


「え。これ、オリハルコンですか!?」

「きっかり100グラム、精製済みだ。遠慮なく持っていって」

「これってまさか」


 エドアルド王子はこれを得るためダンジョンに潜って大怪我したのだろう。


「頂戴します。では僕はもう失礼します」

「ああ。ダリオン殿によろしくー」


 さあて、これから忙しい。

 早く荷造りしなければ。



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