新聞記事『魔導具師マリオンの激白』
「王都の郊外や地方で大繁殖してたお野菜モンスターの原因、やっと突き止めました! こいつ、こいつです! マンドラゴラの亜種で、こいつが畑や野生の野菜を魔物化させてたみたいで」
オルルルルルーン……
荷車の中からエドアルド王子が細長い薄茶色の根を掴み上げると、それは一際、悍ましくも物悲しい悲鳴をあげた。
「ヒッ!? そ、そのような穢らわしいものを王宮に持ち込むなど何を考えているのですか、第二王子!」
「おや、王妃殿下。ご機嫌麗しゅう! 大丈夫、これらは顔があるだけの野菜ですから問題ありません! 後で厨房に下げ渡すので今日の夕餉に堪能できますよ! 楽しみですね!」
「そそそ、そんなもの口にできるわけないでしょう!?」
王妃とエドアルド王子は、王子の母親の側室が亡くなっている現在は義理の親子だが、仲は良くない。
というより一方的に王妃が王子を嫌っている。
「そんなことより聞いてください! 新聞に俺の幼馴染みのマリオンが載ってるんです。ついに我がタイアド王国でもマリオンの時代が来た! そう思っていたらですね……」
そして真紅の騎士服の懐から新聞を取り出して開き、張りのある声で朗読した。
「見てください、一面のこんなに大きな見出しで『魔導具師マリオン』の文字が!」
その記事は『魔導具師マリオンの激白!?』の大見出しで始まっている。
『拝啓 タイアド王国王都新聞社 御中
突然のお手紙をお許しください。
私はアケロニア王国出身の魔導具師マリオン・ブルーと申します。
実家はブルー男爵家、ブルー商会を運営しております。
今年の春から研究学園に講師として招聘され教鞭を取る予定だったのですが、何やら不可解な出来事に巻き込まれ、ついには追放されるに至りました。
どこのどなたにこの現状を訴えればよいかわからず途方に暮れていたところ、新聞社に告発文を送ってみてはどうかと助言があり、こうして手紙をしたためております』
タイアド王国の王都新聞は日刊で、毎朝一回の発行だ。
国の施策の発表から王家や王族の公務や行事予定、発行地域の訃報などが網羅された総合メディアとなっている。
その一面を飾るとは由々しき出来事である。
『魔導具師マリオンの激白』の大見出しで始まるその記事には、他国出身の魔導具師がこの国で体験した、とんでもない出来事が時系列に沿って被害者のマリオン本人の手紙として掲載されていた。
『春、3月下旬にタイアド王国に到着。
当日中に研究学園を訪ねるも学園長は学会参加で長期不在と言われ面会できず。
代わりに副学園長と生徒会長のエドアルド第二王子殿下が応対してくれるも「ここに貴様の居場所はない。居座るなら好きにすればいいが一切の支援はないものと思え』と言われる。
……私はエドアルド王子とは幼馴染みなのですが、彼はまるで私を見知らぬ他人どころか、道端のゴミを見るような目で見てきました。
思えばこの時点ですぐ学園を出て祖国に帰れば良かったのですね』
「3月下旬といえば、俺が父上から討伐任務を言い渡されて出立した後のことですよね。事態は急を要するからって、慌ただしく任務の通達を受けてすぐ王都を出たんだ」
「………………」
先に国王たちと謁見していたのはマリオンの祖父ダリオンだが、ダリオンは後から来たエドアルド王子に場を譲って、事態を静観していた。
恐らく王子が訴えたいことと、ダリオンが憤慨することの中身は同じのはず。
「まだまだありますよ」
『故郷でエドアルド王子から受け取った手紙では、私は特別講師として学園の上級客室を準備して受け入れてくれるとの話になっていました。
ところが王子は私にその上級客室の利用を却下し、ならばと学生寮に入ろうとするもそれすら阻止して、私は行き場がなくなってしまいました。
仕方がないので敷地内で不用品の倉庫になっていた崩れかけの小屋を修繕して、そこを滞在中の宿としました。
倉庫なので水道も手洗い場もなく、夜間に用足ししたいときは学園に忍び込むしかないという状況でした。さすがに己の不憫さに涙がこぼれ落ちたものです』
とそんな感じで延々と、エドアルド王子と研究学園側によるマリオンへの虐げ実態が新聞に掲載されていたわけだ。
この時点でもうマリオンの祖父ダリオンのこみかみには青筋が浮かんでいる。
既に孫からの手紙で知っている内容だが、改めて他人の口から聞き直すと更に怒りが込み上げてくる。
他には支援金が支給されていないこと、本来支払われるべき毎月の報酬もなかったことなどが綴られている。
『私が開発した魔導具の設計書も、学園側に提出しても何の音沙汰もありませんでした。
気づいたら街中で私の発明品の紛い物が販売されており、これはさすがに魔導具師として許せることではありません。
本件は魔導具師ギルドの本部宛に盗作の訴えを起こす予定です』
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