ウンジツを使って会話しよう!

ちびまるフォイ

ウンジツが求められるポジション

「ごめん……好きな人ができたんだ」


「好きな人なんてそんなセリフ嘘でしょ!

 本当のことを言って!!」


「お前は第2希望だったんだけど、

 やっぱり第1希望の彼女と結婚することにした」


「なんてひどい真実を言うの!!

 別れ際に追い打ちをかけるなんてひどい!!」


「じゃあどうしろって言うんだよ!

 本当のことを話したら傷つけるし、

 嘘をついても嘘を言うなと怒るじゃないか!」


「嘘でも真実でもない、"ウンジツ"で言ってよ!!!」


のちに聞いたところ、こういう謎構文をあみだすところが別れる理由だったらしい。


「はあ、本当に最低なカレシだったわ。

 どうして日本の男はみんなああなのかしら」


SNSで自分の境遇をしたためて、

同情でも集めようかと思ったがやってくる返信は辛辣なものばかり。


「なんで私が批判されなくちゃいけないのよ! もう!」


気遣ってくれる言葉を期待したのに、

やってきたのは理詰めでお前が悪いと火の玉ストレートばかり。


「はあ、真実を話せば批判されるし、

 嘘で私がかわいそうって感じにしても怒られる。

 なんでこんなにこの国は生きづらいのかしら……」


そこでもう最初から「真実」でも「嘘」でもない。

"ウンジツ"であるという前提のもとに書き込みを行った。


別れ話のウンジツはまたたくまに拡散された。


批判する人も「もし嘘だったら自分が恥ずかしい」と、

振り上げていた正義の刃をひっこめる。


かといって嘘とも言えないので、

同情する人たちは嘘かもしれないのを承知でねぎらってくれる。


「す、すごい! こんなに優しいメッセージがいっぱい!

 みんな真実に疲れていたのね!!」


これから全国へウンジツが蔓延するきっかけとなった。

いまとなってはみんながウンジツをラフに扱い始めている。


「ウンジツなんだけど、昨日ご飯食べてたら~~……」


「ウンジツなんだけど、うちの子本当に賢くて……」


「聞いてくれよ。ウンジツだけど、うちの会社が……」


辞書にもウンジツが記載され、

流行語大賞も受賞するほど浸透したウンジツ。


真実を話せば自慢だと受け取られかねない。

嘘を話せばみじめなかまってちゃん。


でもウンジツなら話はちがう。


本当かもしれないし嘘かもしれない。

嘘の部分もありつつ真実が含まれているかも。


そういう曖昧さが会話のハードルをぐっと下げ、

統計によると日本人の対話頻度は700%ほど向上したらしい。


最初こそ"ウンジツだけど"という切り出しをしていたが、

日常的に使われるうち、ウンジツであることは当たり前となり

"ウンジツだけど"は省略されて会話されるようになった。


「前に超いいカフェ見つけたの」

「俺彼女できたんだ」

「実は左利きもできちゃうんだ」

「私、守護霊が見えるの」


世界はウンジツのオブラートで守られ、

誰もが周りの批判を気にせずに自分の話したいことが話せるようになった。


気がつけばウンジツを最初に使った私は、

すっかりこの国の代表として祭り上げられるまで神格化した。


「ウンジツ!」

「ウンジツ!」

「ウンジツ!!」


「みなさん、このたび大総統選挙に立候補しました

 "ウンジツはこの国を面白くする党"略して「UNKOゆーえぬけーおー党」です!

 私が当選したあかつきには、ウンジツを公用語として

 より世界の発展を推し進めたいと思います!!」


「UNKO!」

「UNKO!」

「UNKO!!」


万雷の拍手と歓声に包まれる。

しかし、そこに銃を持った集団がやってきた。


「あ、あなた達は!?」


「俺達は真実至上主義団体・FAKEだ!

 よくもウンジツとかいう嘘を広めたんだな!!」


「あなた達、過激派ね。今警察に……」


「お前のせいで世界は虚構にまみれ、

 現実を直視できないお花畑の人間ばかりになっちまった!

 この世界を腐らせたお前の罪は重い!!」


「ウンジツは最高よ!

 傷つけ合う世界から私が救ってあげたの!!」


「ちがう!! あんたは現実をにごらせただけだ!!」


「真実だけで話して、嘘だけで固めても

 人の心にはよりそっちゃくれないのよ!?」


「天誅ーー!!」


銃声が轟いだ。

体に衝撃と傷みが同時に突き刺さる。


「きゅ、救急車ーー!!」


集まっていた群衆の誰かが救急車を呼び、

すぐに私は病院へと担ぎ込まれた。


ストレッチャーに寝かされながら、

薄れていく意識に危機感をおぼえる。


「せ、先生……」


「大丈夫です、きっと助かりますよ!」


「う……嘘でしょう……!?

 だってこんなに苦しいのに……」


「……」


「嘘なんですね! どうしてこんなときに!

 真実を話してください!」


「じ、実は……」


「はい……」


「助かる見込みはありません。

 ぶっちゃけ、手は尽くしますとは言いますが

 助かりようもないので手術器材も汚したくないし

 集中治療室入ったら、ちょっと仮眠しようかと思ってます」


「なんてひどい真実を!!!

 こんなに外的な傷みにも苦しんでいるうえ、

 真実で心までも傷つけるの!? ひとでなし!」


「あなたが真実を言えと言ったんでしょう!?」


「そこはウンジツで答えるべきでしょう!」


「ウ、ウンジツですか……」


医者は困ったような顔をしたが、すぐに結論を言い直した。




「助かるか、助からないかは、あなたの努力しだいですね」




その慣れた言い回しにぴんときた。


「あんた絶対ウンジツ使い慣れてるだろ」


そう指摘したところ、医者のメスが脳天に突き立てられ

まもなく心停止となった。

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