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「それで一番重要なことを決めたいんだけど」新井は言った。
「なんだ?」と月村。
「何を描く?」
半田もそれがずっと気になっていた。トントン拍子で計画を進めていく月村は、最後までそれを言わなかった。もちろん新井の考えがまとまるまで正確なことは言えなかっただろうが、それでも理想さえ語らなかった。
半田は月村が何を言うかを待った。答えはすぐに出た。
「矢印を描く。ロボットから三叉状に噴射すれば、簡単に描けるはずだ」
「なんで矢印」
わけも分からず半田は呟いた。その声が月村に届いていたかは分からない。月村はついでこういった。
「その矢印でアポロ11号の着陸地点を指す。地上から双眼鏡でも見えるようにな」
宇宙開発は神に背く行為だと主張する者はいまだに多い。月村自身、それを茶化すような悪戯を企てているため、そういった人たちの方にこそ共感する部分が多いのだが、己の計画のためには敵にならざるをえない。
政界、経済界問わず、月村達の計画に異を唱える者あれば、月村本人が東奔西走し、説得しに伺った。
その説得の技術たるや目を見張るものがあり、同伴した半田は毎回感心するほかなかった。せっかくなのでここにその一部を記しておく。
説得を受けた者の名前はここでは伏せる。仮にKとするその人物は、非常に大きな影響力を持っており、人類が宇宙に飛び立つのを快く思っていなかった。恵みの故郷でさえ食い荒らし、腐敗させる人類が宇宙に進出すれば、宇宙の資源さえ使い果たすのは自明の理だというのだ。そうやってあらゆる問題から目を逸らし、宇宙に欲望のはけ口を求め続ける様のなんと醜いことか。銀河さえ、宇宙全体でさえ掌握できたとして、それが一体何になるというのか。(後になって聞いて話だが、月村はこの意見に概ね賛成だったらしい)
それに対して月村はこういった。
「人類も、文明も、宗教も、立ち止まることは許されないのです。今あなたが来ている服も、今朝あなたが乗ってきた車も、人類が常に知識を求め、それを後世に伝えたがために現実のモノとなってこの世に存在しているのです。もちろんその知識が人類に悪影響を与えるというご指摘はごもっともなものです。原子力を手に入れた人類はいの一番にそれで爆弾を作った。私の母国にはその傷跡が二つもあります。ですが、知識はあくまで知識。善悪の区別はなく、全宇宙において唯一と言っていいほど平等なものです。知っていることで犯す罪には、贖罪のチャンスもありましょう。ですが、知らないことで犯す罪には?知らないことで被害を受けた時は?自衛する手段はありません。人類は知らなければならない、あらゆることを。知るために、進み続けなければいけないのです。そうしなければいずれ破滅してしまうのです。違いますか?」
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