中編 空気になった僕

「毎日しんどいし恥ずかしくて死にそう」高校2年生の俺はどこに行ってもそれを口ずさんでしまう。もう直学校の期末テストが近づき、加えて来年には受験生になってしまうので、その準備で大忙しである。おまけに毎日学校では周りにいる恋人同士や何人かのグループが馬鹿みたいに騒ぎ立っており、それを注意した際には、周りから罵声罵倒を喰らい、挙げ句の果てには弄りを受ける始末である。その結果悪い噂が生まれて毎日恥ずかしい思いをして生きている。そんなくだらない毎日にて起こる不快感を、僕は空気と共に大量の冷水を胃に流し込む。そうでなくてはこの周りにまとわりつくこのゲジゲジのような不快感は消えはしないのだ。

「もういっそのこと空気にでも何でもなっちゃいたい。」そう思った日々も少なくない。

ある日のこと、俺は自宅にて、夕食時にいつものように今日起こった不快感を水を大呑することで胃に流し込んでいた。しかもその日は注意したことを周りがいつも以上に罵声を浴びせ、それなのに担任から言い方に対して注意を受け、いつも以上に不快感とイライラが身体中にまとわりついていた。それによって案の定悪い噂が立ちさらに目立ってしまい、学校での居場所が徐々になくなっていく。

「ちょっとそんなに飲んで大丈夫なの?そんな酒豪が使いそうな大ジョッキでそんな量の冷水を飲んで?」

母が俺に対して心配そうに伺ってきた。

「こうでもしないとこの不快感は消えはしないんだ。」

そういって俺は大ジョッキの中の冷水を一気に飲み干そうとした。

「そんなに飲んだら水中毒で倒れるぞ。飲む量を程々にしとけ。」

親父が俺の隣でそう注意すると、

「アル中予備軍のお父さんが注意するって相当やばいよ。」

と向かいに座る妹が俺に対しそう言った。

皆の静止や注意に耳を傾けずに、俺は入っていた冷水を飲み干した。その瞬間から、俺の体の中で何とも言えない解放感が生まれた。その後食器を片付け自分の部屋に戻ろうとした瞬間、俺の意識が遠のき始めた。手足の感覚が消えていき、そのせいで体を支えなくなり、頭を地面に強くぶつけた。そしてその瞬間から俺の意識が消えていった。

「あ〜もうこんなことで死ぬのか俺、せめて来世は異世界でチート勇者にでもなりたいなぁ。」


あの出来事からどれだけ経ったのだろうか。意外にもそこからの記憶がまだ鮮明に覚えているし、なんなら生きているという意識すらある。

「俺は一体何になったんだ。一体何が起こっているんだ。」

そう思っているうちに段々と自分の姿が見えてきた。その瞬間、俺は今までにないくらい驚いた。

「俺、浮いている!?。いやむしろ飛んでいるのか!?」

そう驚いているうちに目にしたのは、まるで地図から見た時の平面な世界のように、見慣れた自分の町を見ている。この上から見る感覚と浮遊感から私は確信した。

「俺、空気になったんだ!!。」

今まで何回も思っていた事が現実となっている。そう考えると、俺は心の奥底から湧き上がってくる幸福と達成への成功を感じた。空気になればもう誰からも見られない、目立つこともない、平凡で穏やかに生きていけると、俺はそう思っていた。しかし、どこからか俺の声を泣き叫んでいるのが聞こえてきた。その声の主を探していくと、そこは通学路の途中にある葬儀場である。中に入ってみると、底にいたのは俺の家族と、学校で俺と関わってきた同級生の奴らに担任の先生、さらには塾の講師や定食屋の店主等の俺と多かれ少なかれ関わりを持っていた人たちが大勢いた。そして式場の奥にあったのは、棺の中で眠る俺の体であった。もしやと思い式場の外をみると、俺の訃報を告げる看板が立っていた。

「俺は空気になったのではなく、死んで霊になってしまったんだ。」

周りの人間達は俺の訃報を聞いて総出で参加しようといていたらしく、告別式ではあまりの人の多さから、完全にすし詰め状態になっていた。バカにしていたク同級生、話を聞いてくれなかった先輩や先生、家族が俺の死を心から悲しんでいるようであった。誰しもが俺の名を呼んで、地面に泣き崩れていった。その様子を見て俺はこう思った。

「なんで空気になりたいだなんて思ったんだろう。いくらかうざくて面倒くさくても、人との関わりをもっと大事にしておけばよかったなぁ。」そう思ったら体中に急に後悔の念が込み上げてきた。

「もう嫌だ!!こんなの!!、悪夢ならさっさと覚めてくれ!!!。」


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