第7話:ごめんね音ちゃん。

ジゼルは俺の前からいなくなった。

俺は矢も楯もたまらず、バイトを休んでマウンテンバイクでジゼルを探しに

でかけた。


だけど、その日は午後になって雨が降り始めた。

天気だと思っていたからポンチョも持ってきてなかった。


雨に濡れながら、俺は駅やスーパーコンビニ、近所廻りを・・・ジゼルがいそうな

場所を探し回った。

マウンテンバイクも汚れてドロドロ・・・。


ジゼルは金なんか持ってないんだから遠くヘなんかいけないはず、だから

かならず近所にいると俺は思った。


ジゼルは夢の中にはもう帰れないって言ってたけど、まじで・・・まじで

帰っちゃったりなんかしてないだろうな?


そしたらもう俺の前には二度と現れないかもしれない・・・。


雨はどんどんひどくなってきた。

この雨の中、どこへ行っちゃったんだよ・・・ああウザい・・・


俺は、一息つきたくて公園にマウンテンバイクを止めてベンチに腰掛けて

タオルで顔を拭いてため息をついた。


そしたらホームレスのおっさんが俺の前を通りかかって言った。


「ニイちゃん・・・あんた今にも死にそうな顔してるぞ・・・」

「死んだりするなよ・・・生きてりゃいいことあるからな」


「傘、一個余分にあるからやるよ・・・風邪引くなよ」

「何があったか知らんけど、絶対死ぬなよ」


そう言ってホームレスのおっさんはとぼとぼ立ち去った。

くれた傘はそこらへんに捨ててあるような安っぽいコンビニの傘だった。


俺ってそんなに疲れきった顔してるかな・・・。

このくらいのことで死んだりなんかしねえよ・・・ジゼルを見つけて誤解解く

まで死ねるか・・・。


しかたないので俺はとりあえずマンションに帰った。


そしたらマンションの入り口に一人の女がずぶ濡れで立っていた。


「ジゼル?」

「ジゼル・・・どこにに行ってたんだよ・・・」


俺はマウンテンバイクをほってすぐにジゼルのところまで駆け寄った。


おとちゃん・・・」


「探したんだぞ・・・まったく心配させやがって・・・」


「ごめんね、音ちゃん・・・」


「謝るのが遅いよ」

「でも戻ってきてくれてたんだ・・・よかった、とりあえずよかった」

「そんなことより早く部屋に入ろう」


俺はジゼルを連れて部屋に戻った。

彼女は捨てられた子犬のように震えていた。


そのとき俺は思った、ジゼルは夢の中のキャラなのに寒さで震えたりするのか?


雨に打たれて冷え切っていたので、俺はすぐにジゼルを風呂に入れた。

ジゼルが風呂から出て、落ち着いたところで彼女に問いただした。


「なんで戻ってきたの?・・・怒ってたんじゃなかったの?」


「え?戻ってきちゃいけなかったの?」


「そんな訳ないだろ・・・」

「でも俺が許せなかったんだろ?」


「最初はそう思ってた・・・他の女の人となんて、不潔って、許せないって」

「でも昨日までの音ちゃんと私のことを考えたら音ちゃんと別れたくないって

思ったの・・・」


「それに私、子供だったよね・・・音ちゃんの言ったことは言い訳じゃなく、

全部正しいかったのに・・・私がいこじになって勝手にスネちゃって・・・」


「音ちゃんを困らせてやろうって思ったら、そしたら後戻りできなくなっちゃって」

「もうどうしたらいいか分かんなくなっちゃったの・・・」

「あのまま音ちゃんといたら思ってないことまで口走っちゃいそうだったから

だから出てったの・・・頭を冷やしたくて・・・」


「私、もう夢の中には帰れないしね・・・」


「で?雨に濡れて頭が冷えすぎたから帰ってきたのか?」


ジゼルはクスって笑った。


「当たってる・・・めちゃ寒かった」


「で、この雨の中どこに行ってたの?」


「え?・・・マンションの裏・・・」


「うそお〜・・・なんだよそれ・・・マンションの裏って、そんなのある」

「親に怒られたガキっちょのやることじゃん」


「だって、どこにもいけないもん・・・」

「それに近くならカンちゃんが探しに来てくれると思って・・・」


「で?俺がなかなか来てくれないから、自分で出てきたのか?」


「うん・・・」


「そういうところがまだ子供なんだよ、ジゼルは・・・」

「そうか・・・分かった・・・じゃ〜許してくれるだな?俺のこと」


「許すも許さないも音ちゃんはなにも悪くないよ」

「私がちょっと驚いてスネただけ・・・」


「ったく・・・一気に力が抜けたわ・・・」

「でも、よかった・・・ほんと・・・ジゼルになにごともなくて」


「音ちゃん、ハグして・・・」


「はいはい・・・ほら、おいで」


そう言って俺はジゼルを抱きしめた。


「まったく心配させてくれるよ、俺の彼女は・・・」


「私をずっと探してくれてたんだよね?、ごめんね心配かけて」


「当たり前だろ、ジゼルをほったらかしたまま大学へ行ったりなんかしないよ」


《行ってんじゃん》


「じゃ〜今夜は仲直りのエッチだな・・・」


「え〜・・・昨日からやりっぱなしだよ」


「女の子がやりっぱなし、なんて下品な言い方しちゃダメ」


「じゃ〜・・・あなた・・・夜の営みが過ぎますわよ・・・」


「なんだそれ?」


「いい、もうなんでもいい・・・仲直りのエッチすればいいんでしょ」


「やけくそだな・・・」

「あのさ、君を探してる時さ、通りすがりのホームレスに言われたよ」

《ニイちゃん、死にそうな顔してるな》って・・・」


「音ちゃん・・・今も死にそうな顔してるよ」


「うそ?、まじで?」


「うそだよ・・・殺しても死にそうにないくらい、憎たらしい顔してる」


「ジゼルは意外とツンデレだな・・・いやデレがなくてツンだけだな」


「それも音ちゃんの夢の中の私のイメージでしょ」

「音ちゃんはきっとMなんだよ」


「いやいや俺はLだと思うな・・・」


「なに?Lって?」


「ロリコン・・・俺の彼女がそうだから・・・」


「あ〜・・・それ分かるう〜」


つづく。

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