おねえちゃんが訪ねて来ました 3

(静かな夜。部屋の床に二人で座っている)


「うふふ。大学のお話、ありがとう。楽しかったよ。これからもお話聴かせてくれるとおねえちゃん、嬉しいな」

(明るい声)


「失われたキャンパスライフ。それを嘆いたところで取り戻すことはできない。気持ちを切り替えてこれからの日々を大切にしなきゃダメ。頭ではわかってる」


「でも、私にとっての新しい希望があったの。心の中の光。うふふ。何だかわかる?」


「それはね、今まさにキャンパスライフを楽しんでいる、君。小さな頃から仲良しさんだった、君」


「君を通してキャンパスライフの埋め合わせができる。君の眼に映るもの、耳に響くもの、体に感じるものを通して、キャンパスライフの埋め合わせができる」


「私は恵まれている! 君がいる! 君に会いに行こう!」


「私はそう思ったの」


「さっき、一人暮らしの君を心配して様子を見に来たって言ったけど、それは別に嘘じゃない。嘘じゃない……。でも」


「私のキャンパスライフの埋め合わせができると思って君に会いに来たっていうのもあるんだ。ごめんね。おねえちゃん、弱々よわよわで」


「でも、これからも君のキャンパスライフのお話、聴かせてくれると嬉しいな。キャンパスのこと、講義のこと、サークルのこと……。私の時は、本当に味気なかったから」


「君の話に耳を傾けて、私の想像で描くの。それが思い出の1ページになる。君の日常が私の中に取り込まれて、言ってみればキャンパスライフの疑似体験になるの」


「えーと、キャンパスライフ補完計画? リバイバル・キャンパスライフ? とにかくそれが私の癒しになるの」


「でも……。君だって青春の時間を失ったことには変わりないよね。それはわかってる」

(気遣うような、慰めるような声になる)


「君だって、マスクをしてひっそりと静かな生活をしていたんだよね。中学、高校、楽しめなかったんだよね。君にだって取り戻したいものがあるはずだよね」


「私にできること、あるかな? 君のために何ができるかな? 私が役立てること、あるかな?」


「私にできることがあれば、君のためにしてあげたい。君に寄り添いたい」


「私も君の心を照らして励ますことができたなら。癒すことができたなら……」


「ねえ、とりあえず一緒に新しい思い出、作ろうよ。新しい思い出のページを描こう!」

(励ますような明るい声になる)


「そうだ! 今度、二人でお出かけしようよ。コロナもまだ油断はできないけど、世の中には楽しいこと、楽しいもの、いっぱいあるよ」


「うふふ。小さい頃みたいに君の手を引いて公園をお散歩しようか? それともお家で絵本、読んであげようか?」


「中学や高校の時みたいにお家でフルート聴かせてあげようか? それとも……、私の詩とか読む?」


「あ、高校の時の制服、まだお家にあるから着てあげようかなー。まだイケると思うんだ」

(明らかな冗談の声になる)


「なーんて。さすがに制服は冗談だよー。うふふ」

(からかうように笑う)


「まあ、固く考えずに本屋さんとか図書館とか、演奏会に行くのもいいよね」


「二人で楽しく思い出の話をしながら街を歩くのだって悪くないし。君となら私は何だって楽しいよ」


「君が楽しくなってくれると、おねえちゃん、嬉しいなー。君の笑顔、見たいなー」

(身を乗り出し顔を覗き込む)


「うふふ。そしてその思い出が私たちの新しい1ページになるの。ずっと後で、楽しく振り返る癒しの1ページになるの」

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