おねえちゃんが訪ねて来ました 2

(部屋の床に二人で座っている)


「私の大学時代は……。知っての通り、コロナに重なったから……」

(俯いて寂し気な声で語る)


「高校3年の終わり頃、卒業を控えた頃から始まって、そのまま大学入学の季節が来て……」


「私、キャンパスライフをすごく楽しみにしてたんだよね」


「君の前でこそこんなだけど、小さい頃から人見知りで同性の友達を作るのも一苦労。男の子と話すなんてとてもとても。構えずに話せる男の子なんてそれこそ従姉弟の君ぐらい」


「そんな私。男の人と仲良くするなんて元々思っていなかったけど、大学に入れば人見知りで地味系の私も少しは変われるのかな、女の子の友達がいっぱいできて、いっぱいお喋りして、お洒落でキラキラしたキャンパスライフを送れるのかな、なんて思っていて……」


「もちろん学生の本分は学問だってわかってるよ。講義の賑わいと熱気。大学の友達とじっくり学問の議論。そんなことを楽しみにしていて……」


「文芸系のサークルに入って活動に打ち込んで……。そんなことを楽しみにしていて……」


「でも、思い描いていたそういうものが楽しめなかった」


「ディスプレイ越しのリモート講義を思い出すと、やっぱり寂しくなっちゃう」


「文芸系のサークルにも入った。でも、活動らしい活動ができなかった」


「もちろん大学の勉強は面白かったし、そんな状況でも知り合いになれた女の子たちはいた」


「大学生活も後半になって、いろいろな制限が少しずつ緩和されてきた。その時はもう卒業論文と就職活動の時間」


「いっぱい本を読んで卒業論文を書いた。就職活動に取り組んで、ほとんど希望通り、楽しく本作りができそうなところに就職できた」


「でも、やっぱり、楽しめなかったものを思うと切なくなっちゃう」


「もちろん感染拡大防止のためには仕方なかったっていうのはわかってる」


「本当に大変な苦労をした人たちがいるのもわかってる。私なんかむしろ恵まれた方だっていうのもわかってる。わかってるけど……」


「キャンパスライフが失われた世代とでも言えばいいのかな。他の世代の人たちが普通に楽しめたものが私の世代にはなかった」


「取り返せない時間への想い。それが心の底にずーっと沈んでいるんだよね……」


「あ、ご、ごめんね。大学に入ったばかりの君に、こんな話をしちゃって」

(顔を上げる。悪いことをしてしまったと気づいたように声の調子が変わる)


「でも、今、君は大学生。キャンパスライフを楽しんでいる君といると、いくらかでも埋め合わせができる気がする」

(眩しそうに見つめる)


「学生が顔を揃える講義室。学生が行き交うキャンパス。活気あるサークル活動……」


「私が思い描いていたものを君を通して体験できる気がする。楽しめなかったものを体験できる気がする」


「うふふ。今の君に会って、それだけで心が軽くなったよ。やっぱり会いに来て良かったー」

(明るい声になる)


「あー、癒されるー。君が私にとっての癒し。ねえ、今夜は君のキャンパスライフの話、いっぱい聴かせてよ。いいでしょ?」

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