いとこのおねえちゃんが久しぶりに訪ねて来ました
秋の隙間風
おねえちゃんが訪ねて来ました 1
(静かな夕方。ドアが開く。マスクをした「おねえちゃん」が入って来る)
「こんにちはーっ! いや、そろそろ、こんばんはかな?」
(ドアが閉じる)
「うふふ。おねえちゃんが来ましたよー! お久しぶり! 元気にしてた?」
「おじさんとおばさんがしばらく留守だっていうから様子を見に来たの! 一人暮らしになるから寂しい思いをしていないかなーって」
「うふふ。直接会うのはいつ以来かな。家はそんなに遠くないのにね。私が社会人になってからは初めてで、君が大学生になって初めてでもあって……」
「まあ、とにかく! まずは大学入学おめでとう!」
「これ、ささやかながら差し入れ! 二人で一緒に食べよう!」
(紙袋を取り出す)
「いいのいいの、遠慮しないで。
(得意気に胸を張る)
「中に上がるね。マスク外していい?」
「うん、ありがとう。早速だけど、一緒にこれ食べようか」
(マスクを外し、声が通るようになる)
(紙袋が鳴る)
「今、お茶淹れるね。キッチンお借りしまーす!」
(靴を脱いで上がる。キッチンへと軽やかに歩いて行く)
(部屋の床に二人で座っている)
「どう? 美味しかった? 少しはお腹の足しになった?」
(にこにことした笑顔を向ける)
「それにしても……」
(部屋を見回す)
「君のお部屋。本当に変わらないなあ。まるでタイムカプセル。ここだけ昔のまま、時間が止まったみたい」
「あー、懐かしいー。癒されるー。やっぱり来て良かったー」
(大きく伸びをする)
「うふふ。久しぶりに会ったんだし、今夜はお喋りしよ? 昔みたいに、いっぱいお喋りしよ?」
「ねえねえ、今、何してたの?」
(傍らの本を覗き込む)
「あ、難しそうな本を読んでるねー。大学の勉強していたんだ。偉い偉い。頑張ってるね。いい子、いい子」
「で、こっちの本は勉強の息抜きの読書かー」
(また別の本を手に取る)
「紫式部の本? 私も読んでるよー」
「あと、私、有名な会社でこそないですが本作りのお仕事していますから、蔦屋重三郎についてもいろいろ興味をもって本を探しているところです! エッヘン!」
(得意気に胸を張る)
「文学史上の偉人紫式部、出版史上の偉人蔦屋重三郎、連綿と続く日本の文化の歴史を感じちゃう」
「うふふ。君、こういうスケールの大きい話、好きでしょ?」
「さて! 始まったキャンパスライフ、楽しんでいますかー?」
「楽しんでる? よかったぁ。うふふ。君がキャンパスライフを楽しんでると思うと、私も嬉しくなっちゃう」
「今までもスマホとかで聴かせてもらってたけど、君が話すキャンパスライフ、本当にキラキラしてて聴いてる私も楽しくなっちゃう!」
「私が体験できなかったこと、君を通して私も体験」
「つまり、君の楽しみが私の楽しみ。もっと言っちゃうと君の幸せが私の幸せ」
「いいなあ、君の『今』はキラキラしていて。君を通して私もキャンパスライフを楽しめる。私も照らされて、輝いちゃう」
「おねえちゃん、君のキャンパスライフを応援してるよー」
「ねえ、今夜は君のキャンパスライフのお話、いっぱい聴かせてよ。いいでしょ?」
(声が次第に切なくなっていく)
「私への就職祝いだと思ってさー。いいでしょ?」
「君のお話が私へのプレゼント。青春を感じるプレゼント。ねえー、いいでしょ?」
「私……、キャンパスライフを味わえなかったんだから……、いいでしょ?」
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