後悔
……食べ過ぎた。
料理はどれも美味し過ぎだし、プロアナに薦められて断れるはずもないし、それに可愛い過ぎる私の食事シーンを見ようと人が集まってきちゃえば、期待に応えるしか無かった。
気がつけばありったけをお腹に詰め込んで、会場を後にしていた。
プロアナと別れて自分の部屋へ、もう一度シャワー浴びて、一緒に出して、明日の準備は机の上の書類束を持っていけばいいだけ準備はいらない。後は寝るだけ、灯りも拳で殴ったらちゃんと消えた。
それで、ベットに入って瞼を閉じて、深呼吸しながら眠りに落ちようとして、けれど妨げになる欲求が、急に吹き出してきた。
催してきた。
それも小じゃなくて、大の方だった。
意識した瞬間同時に限界も灯る。
ガバリと起きて現実、トイレはないままだった。
真っ先に後悔が襲ってきた。
ついさっき、この世界にトイレないのわかってたんだから、代替え案出るまで食べる量をセーブするべきだった。あるいは水分や食物繊維を考えていればよかった。
だけどもこれは生理現象、食べればいつかは出ることは避けられないわけだし、それにあんな美味しそうな料理いっぱいで何も食べないだなんてありえない。
だから、だけど、過去のこと、無駄に考えてる間にも出るものは出る。
立ち上がり、向かった先はシャワー室、灯りが灯る中、私が見つめるのは床の角、小さな、小さ過ぎる排水溝だった。
金属製の丸いプレートに小さな穴をいくつか開けてある蓋、これも魔法か完全に固定されていて外せない。そしてその穴は小さすぎて、固体を流すことができそうになかった。
だから小みたいにはできない。
いや、あるいはと、最悪な計算してしまう。
見慣れてるけど、触れたことはないアレは、想像だけど粘土みたいで、柔らかいだろう。だったら押し込んだりもできるだろう。あるいは水で薄めて流したりとか、だったら、この穴も通せる理屈、その後手は洗えばいい。
人として終わってる計画、やりたくないけどやらないといけないこと、だけどもし失敗して、詰ったりしたら、人を呼ばないといけない。
……ここはそういうことを想定して作られてはいない。
だから、下水の何処かで詰まるかもしれない。処理しきれないかもしれない。溢れ出すかもしれない。大事になるかもしれない。
そして原因究明、犯人断定、ちょっと試すのはリスクが大き過ぎる。
なら、もう、無理、ここにいても解決できない。
私はシャワー室を出て、そのまま部屋の外へ、屋外へと出た。
夜にしては外は明るかった。
夜空に満点の星と大きな満月があるのもそうだけど、いくつか校舎から漏れ出る灯りが日本の街中のように周囲を明るく照らしていた。
つまりは、学園側には誰かいるということ、トイレもないとわかっているから、向かうは反対側だった。
思っていたより大きな学生寮、ここから漏れ出る音と光に怯え、隠れながら更に奥へ、見えてきたのは薔薇の垣根、学園の敷地の境界線、それに沿ってなんとんく左へ進むと程なくして切れ目が現れた。
外へ通じる裏口、除けば浅い森の中へと続く小さな道があった。
セキュリティとしてはどうなのよと思いながらもその道へと踏み入る。
遠くで聞こえるフクロウの声、時々降ってくる影を見上げれば蝙蝠が月光浴びて飛んでいる。
幻想的な風景、胸いっぱいに吸い込む夜の空気、楽しむ余裕も失われた。
絶え間なく溢れ出る脂汗、ジワリと滲む吐き気、引きずるような足取りの私には、最悪を覚悟するしかなかった。
私は、これから、異世界で、憧れのオールランド・アドベンチャーで、その最初の夜に、外で、出す。
紙も無い。
最悪だ。
だけど他にない。人に見られたり、何かを汚したり、ぶっちゃけ漏らすよりかはマシだった。
わかっていて、なのにそこらの草むらできないのは暗いだからとか虫がいるかもとかグチグチの言い訳だった。
覚悟が足りない。
だけど私は日本の都会育ち、やったことないのにいきなりできるわけがない。
理不尽な状況に、キレそうな、泣き出しそうな、辛い思いで歩き続ける。
……森が拓けて広場に出た。
草木も生えていない砂利剥き出しの広場、そこに正方形を並べるように縦横走る線、これには見覚えがある。
『オープンヤード』
複数でプレイしてる時限定で、NPCの入ってこない決められた土地にアイテム持ち込んで、好きな建物を建築できる、少し前のシステムだ。
当初は人気があったけど、その内ここを邪な使い方する人が現れて、その調整に入るとアナウンスからずっと使えないままになっていた。
その初期の画面がこんな感じ、だけど一点、そのど真ん中に、月光に照らされて、長方形が立ってるのは違っていた。
その外見にも見覚え、確かゲームでは『着替えテント』とされてるものに見えた。
その名の通りテントで、持ち運びできるけど、効果は中で着替えられるってだけで、私は使ったことがない。
それがここにとの疑問、からの連想結びついた想像から、私は早足でテントへと向かっていた。
バサリ、布を払って見ると作りは簡素なもの、木の枝を組み合わせた四角い枠に布を乗せただけ、高さはあるけど寝転べるほど広くもなく、天井もなかった。
そんな中には三つのものが、右端には土の小山、左端には積み重ねられた葉っぱ、そして真ん中には折りたたみの椅子があった。
椅子も確かアイテムにあった。これも木の枠で作られたもの、ただお尻を乗せる部分が破かれていて穴が空いている。その穴を覗くと、その下の土にも深い穴が空いていた。
トイレだった。
トイレに見えた。
トイレが、あった。
これをトイレとする。
ちょっと違うかもしれないけれど今の私にはトイレだった。
開放の安堵と共に中へ、入り口の布を締めてスカートめくりパンツを下ろして座る。
けど安定しない。ぐらついて転びそうで、そうなったら大惨事だと最後の忍耐振り絞ってバランスを探る。
そこへ、足音かけてきた。
「ふぃいい」
声に私が何かをする前に布が捲られ、入ってきたのと目が合った。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
バキッ!
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