第11話



『…近頃、人が襲われている、話があるだろう?』


『あぁ…夜な夜な、化物が出てるって話』


『あれは、私が、原因なんだ』


『…なんの話だよ?』


『蔵、その中には、〈門〉がある』

『そこで、私は研究をしていたんだ』


『親父?だから、何を』


『〈門〉は封じる者が居なければ〈妖〉が放出されてしまう』

『私は管理者として、〈門〉から〈妖〉を出さない様にしていたが…』

『最早、自分の体では動く事もままならない』

『だから、お前に…〈門〉の破壊を頼む』


『あのさ、何の話か、全然分かんねぇんだけど…』


『九玖…お前の、力の使い方を教える…』







『親父ッ、なんだよ、この力』

『あんた、俺を、なにをしやがったッ!!』

『あの、化物も、親父が作ったのか!?』


『…そうだ、全ては、私の責任だ』


『何を…何をしてんだ、この野郎ッ!!友達の母親が、襲われて死んだんだぞッ!!なんでッ!!こんな事をッ!!』


『すまない…すまない、九玖』


『この力だってそうだ、なんだあの力は、あんたは、俺を、化物を産んだのか!?』


『…そうだ、九玖、お前は…化物として、私が作ってしまった』

『すまない…本当に、すまない…』


『謝って済まされる問題じゃねぇだろうがァ!ああ!?』






『…化物は全員殺した』


『これから、〈門〉の中に入る』


『親父、あんたの後始末は、息子である俺がする』


『じゃねぇと、また、街の人たちに迷惑が掛かるからな』


『…あんた一人だけ死にやがって』


『残された俺は、恥しか感じねぇよ』


『友達は、笑顔で接してくれるよ』


『間接的に、俺が殺したようなものなのにな』


『…俺も死んでしまいたい』


『化物の俺にはそれが似合うだろうな…だけど』


『俺が、全てを終わらせないと、ダメだからな』


『…早く、俺が〈門〉を終わらせてやる』













薄暗い〈醜閣〉の通路を進む。

下へと降る度に、外観が変わっていく。

周囲の景色が徐々に変化していく。

一階上の階層では冷たい石の壁だったのだが。

何時しか古びた木材と波打った壁紙に取って代わっていた。

もっさりした埃が積もった床。

其処には嘗て豪華さを感じさせる絨毯が敷かれている。

人が住んでいたかの様な外観だった。


「なんや、部屋みたいな空間やね」


「と言うか…何処か、屋敷みたいな見た目だな」


天井には年輪を重ねたような巨大な梁が走り、壁にはかすかなシミが出来ていた。


「この階層だけ、妖気が感じひん」


「あぁ、あの嫌な空気か、確かに感じないな」


「と言う事は…安全地帯、と言ったところやろか」


今までの妖たちの悪臭は消えていた。

代わりに古びた屋敷特有の湿った空気が深く吸い込まれる。


長い長い廊下を歩き、一つ部屋の中へと入る。

壁を囲むように配置された古びた家具。

地下である為に役割の無いカーテン。

人が住んでいた、形跡が、微かに感じ取れた。


「…ここ、なんだか、見た事があるんだよな」


「ああ、それ知っとる、デジャブいうんやろ?」


「茶化すな、見た事が、あるんだよ…確か、こっちに」


朧げな記憶を頼りに、九玖は廊下を歩き、部屋の前に止まる。


「ここだ…確か」


「百鬼くん、そこ探すん?ならウチはこっちや」


と、独断で行動する様になってしまった。

しかし、百鬼九玖は何も言わず、ただ部屋の前に立ち尽くしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る