第8話


彼女の瞳がゆっくりと開かれる。

薄暗い廊下の冷たい石の感触が背中にあり、意識を取り戻すと同時に、その場所が迷宮であることに気づく。

周囲には無数の影がちらつき、壁には苔が生えている。

混乱と共に心臓が乱れ、その場の静けさが彼女の不安を掻き立てる。

動こうとするが、体が重たく感じ、再度目を閉じる。

記憶が薄れていく中で、彼女は未知の恐怖を抱える。


(妖…いや、〈門〉)


薄暗い廊下の一角で、一体の影が静かに佇んでいる。

その姿は獣のような容姿をしており、目には独特の光が宿っている。


(異様な程の〈門〉…この式神、いや、式神ちゃう、〈門〉から出て来た妖や、これは)


彼女が目を覚ますと、その影は微かに動いた。

すると、百鬼九玖と名乗った男子生徒が、彼女の様子をじっと観察する。


「目が覚めたか」


九玖の鋭い視線が彼女の頬に触れる。

ゆっくりと身体を起こす彼女。

九玖は影を自らの中へと押し込むと、普通の人間の姿で彼女に近付いた。


「近づかんといて」


彼女は不安と疑念に包まれ、不確かな思いを彼の方に投げかける。


「…何もしない、する気も無いし、していたら、気絶していた時にする」


九玖はそう瑠璃玻に言った。

それは確かにそうである、しかし、それでも警戒は怠らない。


「うちを捕らえて、何か情報でも聞き出そうとしとったんちゃうん?!」


「何を聞けば良いんだよ、初対面だろ?」


「やから…えっとぉ…うちの体を玩ぼうとしたり、やろ!」


自らの体を両手で抱き締める。

豊満な肉付きをした彼女は、男からすれば垂涎ものだが。


「するかよ…」


主人公が溜息をともにそう言った。

彼女の眉がわずかにひそめられ、思わず息を呑む。


「うちにはそんな魅力が無いって言いたいんどすかッ!?」


言葉の中にある誤解を感じ取り、目は驚きと失望で揺れ動く。


「助けただけなのに、なんでこうも言われなきゃなんねぇんだよ…」


「助けた?この〈門〉を協会に報告せずに、独占しといて、よく言うわ」


目が彼を鋭く見つめ、彼女の意志が静かに言葉の背後に宿る。

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