第5話
(居た、妖気が大き過ぎて分からへんかったけど、なんとか追えたわッ)
男子生徒がゆっくりと家へ向かって歩くと、瑠璃玻はその後ろ姿を目で追った。
すると、やがて彼が立ち止まった場所の奥に、目を見張るような武家屋敷が姿を現した。
朱色の塀が周囲を囲むこの屋敷は、まるで別の時代から飛び出してきたかのような重厚な造りで、その存在感は圧倒的だった。
(でっ、か…なんやこの家、うちの家とタメはるやん)
瑠璃玻は、思わず息を飲む。
細かな彫刻が施された木の門、緩やかな曲線を描く屋根、そして美しく手入れされた日本庭園が広がっている。
竹や松が青々と茂り、静寂の中に漂う品格が彼女を包み込む。
その姿に、戸惑いと共に興味が心の奥で芽生える。
男子生徒は、武家屋敷の静かな庭を通り抜け、まっすぐに蔵の方へと歩を進めた。
蔵の重厚な扉が、深い木の色を放ち、古の時代を感じさせる。
蔵の扉は、少し陰になった光の中で青白く光り、その存在感はまるで何か秘められたものを守っているかのようだった。
男子生徒は、その扉に手をかけ、一呼吸置いてから静かに押し開ける。
「…ッ、(蔵の中、一層エグい妖気を放っとる、あれも〈門〉やない?)」
扉がゆっくりと開いた瞬間、細かな木くずや埃が舞い上がる。
暗い内部から漏れ出るわずかな光が、彼の顔を照らし出し、その表情には何か大きな決意が宿っているように見えた。
彼は一歩ずつ蔵の中へと入っていき、周囲の静寂が彼の動きに合わせて深まっていく。
蔵の内部には、古びた道具や本が整然と並べられ、時が止まったかのような空気が漂っていた。
その中に彼が溶け込む様子は、まるで過去と未来を繋ぐ架け橋のように見えた。
「…次で最後だと、良いな」
男子生徒が蔵に完全に入ると、彼の影が扉の向こうに消え、静けさだけが残された。
(妖気が一つ消えた…〈門〉の中に入ったんか、あの子)
瑠璃玻は男子生徒の後を追い、彼が入った蔵の中へと静かに足を踏み入れた。
扉がゆっくりと閉じる音が響き、蔵の中は一層静まり返る。
微かなかび臭いが漂い、かすかに感じる光景の中、彼女の目はその独特な空間に吸い寄せられていく。
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