第4話
放課後の静けさが広がる校舎の中、朱雀院瑠璃玻は窓のそばに立ち尽くしていた。
彼女の目は、まるで何かを求めるかのように校庭を見下ろしている。
グラウンドに広がる土色の地面に陽射しがやわらかく降り注いでいた。
しかし、彼女の心の中には重厚な沈黙がたずんでいた。
(結局、どこを探しても見つからんわ、〈門〉の気配は確実に、この学校なんやけどなぁ…)
彼女は、放課後の賑やかさの中にも混じる微かな声や笑い声を耳にしながら、どこか浮き世離れした存在として、窓の外に視線を固定していた。
無数の少年少女が楽しそうに遊ぶ様子が目に映るものの、瑠璃玻の心にはその光景が届かない。
彼の存在を探し求めた結果、〈門〉の所在は分からず、無力感が彼女の胸に満ちていった。
(どうしよ、このままやったら〈門〉から妖が出て来てまう、…街の人らに危害が加わってまうわ…)
ゆっくりと彼女の手が窓枠に触れ、微かに震える指先が冷たいガラスに残る。
彼女の表情は困惑と失望が交わり、吸い込まれるように虚ろな目をしていた。
黄昏が近づき、周囲の色が少しずつ変わる中で、瑠璃玻はまるで時が止まったかのように、ただグラウンドを呆然と見つめ続ける。
「…あ」
窓辺に立ち、外を眺めていた瑠璃玻の視界に、一人の男子生徒が映った。
彼は校庭の端に立ち、周囲と少し離れたところで何かを考えているようだった。
彼女の目に映るその姿は、平然とした顔で帰路に就いている。
(そういえば、あの子だけ、うちの隠密の妖術に気がついとったなぁ…妖術師の才能、あるんちゃうん?)
その男子生徒が足を一歩踏み出した瞬間。
「…ん」
周囲の空気が妙に変わる。
淀んだ空気が、一瞬にして清潔感のある空気へと変わった。
あの〈門〉から漂っていた妖気が一瞬にして消えてしまったのだ。
瑠璃玻は突然の変化に驚き、心臓が早鐘のように打ち始める。
(え、なんで?〈門〉の妖気がない、おかしいやん、そんなの…急に門が消える、なんて…)
彼女は手探りのように周囲を見回し、どうして妖気が消えたのかと狼狽する。
「…あの子が離れたと同時や、妖気が消えたの」
〈門〉が急に消えたワケではない。
勝手に、〈門〉が動き出したのだと、朱雀院瑠璃玻は察した。
そのまま、彼女は窓を開けて校庭へと着地する。
一気に走り出して、先程の男子生徒の後を追った。
既に、彼の存在は目には映らなくなっていたが。
(ッ、またこの寒気…間違いない、あの子)
そして、朱雀院瑠璃玻は自分の仮説が確信に変わった。
(信じられへんけど、あの子、〈門〉を持っとるんやッ)
それは本来、有り得ない事だ。
だが、そう断言する他無いと、朱雀院瑠璃玻は思った。
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