第3話
朱雀院瑠璃玻は、隠密の妖術を使い廊下を静かに歩いていた。
彼女の姿はまるで影のようで、誰の目にも留まることはないと思われた。
しかし、彼女が進むにつれて、足音が近づくのを感じた。
廊下の薄暗がりの中、彼女の視界の端に一人の男子生徒が映り込んだ。
「
「あー?…悪い、休日は予定があるんだ」
「なんだよ、お前いっつもそれだなぁー」
(またこの学校の生徒さんか、はいはい、横にズレて潜んどりますよっと)
彼は何気なく、友人との会話をしながら、彼女の近くを通り過ぎようとした。
「…ん?」
(あれ?…目、今、合った?)
その瞬間、瑠璃玻の心臓が一瞬高鳴る。
驚きと恐れの感情が同時に押し寄せ、彼女の内心は動揺した。
「九玖?」
「悪い、先に行っててくれ」
そう言って友人と別れる男子生徒。
彼は、目を細めながら、朱雀院瑠璃玻に近付く。
男子生徒はぶっきらぼうな表情を浮かべ、完全に瑠璃玻の存在に気付いていた。
(うそ、隠密の術、効いてへんの?!)
彼女の隠密の妖術は、彼には効いていなかった。
「なあ、あんた、ここの学校の生徒じゃないだろ?」
男子生徒は廊下の中ほどで立ち止まり、瑠璃玻の姿をしっかりと見つめた。
周囲の生徒たちが画一的な制服を身にまとっている中、瑠璃玻の制服は際立ち、彼女の存在は一層異彩を放っていた。
(隠密の妖術が効かない人もおるけど、せめてここの制服と学生証くらい用意しとくべきやったわ、失態失態…)
男子生徒が少し前へと進み、近づくにつれて、彼の視線は瑠璃玻の顔に留まった。
直感的に、彼は彼女がこの学校の生徒ではないことを理解している様子だった。
瑠璃玻はその視線に気づき、自然と緊張感が走る。
彼女の表情には、一瞬の戸惑いと、何かを隠そうとする意志が現れた。
(あきませんわ、どうしましょ、この子、結構敏いわ、何言っても疑われるかも)
男子生徒は言葉を発しないま、わずかに眉を寄せ、彼女の存在がこの場にそぐわないことを感じ取った。
「て」
必死になって、言葉を口にしようとする朱雀院瑠璃玻。
続ける様に、男子生徒も口を開いて言う。
「て?」
思考回路が滅茶苦茶になりつつある彼女は、言葉を紡ぎながら告げた。
「て、転校生なんよー、うち、ほら、見れば分かるやろ?」
幾人の男性をオとす瑠璃玻の無邪気な微笑み。
男子生徒の目には一瞬の戸惑いをもたらした。
彼は、その可愛らしさが真実か演技かを探るように、少し眉を寄せて彼女を見つめ直す。
(う、嘘やって、バレた?…しょ、しょうがないやん、これくらいしか、思いつかなかったんやからっ)
彼の視線には疑惑の色が浮かぶ。
彼女の本当の意図を見透かそうとする意識が漂っていた。
「て、てへぺろやーん」
瑠璃玻は、さらなる魅力を加えようと、視線を柔らかくし、ほんの少し顔を傾けて、舌を出した。
「…」
男子生徒はその姿に何かを感じ取るが。
「…そうか、生徒の顔、覚えてたから、誰かと思ってな、まあ、転校生か、なら、俺が見覚えが無くても、仕方が無い話、だな」
(の、乗り切れた…と言うか、この子、生徒全員の顔覚えてんの?すっごい暇人さんやな)
瑠璃玻はその瞬間、自身の狙いが成功したことに内心でほっとし、少し優越感を感じる。
彼女は、男子生徒の疑念を巧みにかわし、再び廊下を歩き出す。
しかし、彼女の心の奥では緊張感が消えることはなく、周囲の視線が自分に向けられていることを忘れられなかった。
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