第2話

朱雀院瑠璃玻は、学園の廊下に一人佇んでいた。


(あかんわぁ…どこに〈門〉があるのか、全然わからへん)


瑠璃玻は、少し額に手を当て、思考を巡らせる。

彼女の心の中には、〈門〉を探し当てるための焦燥感が渦巻いていた。


(妖気が強過ぎや、これじゃあ、〈門〉の位置なんて見つからへんよぅ)


廊下は長く、色褪せた壁が彼女の視線を遮り、光と影が相互に絡み合う。

教室の扉は静かに閉ざされ、そこから伝わってくる妖気は彼女に不穏な気配を感じさせる。


(これ程の〈門〉の妖気なら、すぐに見つかると思ったんやけどなぁ…人生はままならんなぁ)


細い目をより一層鋭くしながら、扇で下唇を抑える朱雀院瑠璃玻。


(と、真ん中でぼーっとしてもうた、横にズレて、と)


廊下の奥から、一群の生徒が楽しげに笑い声を上げながら近づいてくる。

彼らの明るい会話が響き渡り、瑠璃玻の緊張した気持ちを少しだけ和らげる。


「それでぇ、先生、お金払ってさぁ」

「えぇー、まじ?幻滅なんだけどぉ」


生徒たちが瑠璃玻の目の前を通り過ぎる。

彼女の足音は軽快で、笑い声が廊下の静けさを破っていく。


(…さっきの子ら、何の話をしとったんやろ)


彼女はその背後に立ち尽くしている。

だが、まるで空気の一部であるかのように、彼女らにはその姿が見えない。

何気なく笑いあう彼女らの表情には、学生生活の楽しさが溢れ、その無邪気さは彼女の心を一瞬だけ和ませた。


「あれ…?」

「え、どうしたの?」


生徒の一人がふと何かに気づき、遠くを見つめる。


「…ううん、なんでもない、人がいたような気がしてさぁ」

「それ先生の生き霊じゃない?パパ活で騙されたから恨まれてんだよ」

「ちょっとやめてよー」


しかし、それもすぐに忘れてしまったように、再び会話に戻る。

瑠璃玻の背筋は軽い緊張感でピンと張りつめていたが、彼女はじっとその場に留まっていた。


(はぁ、びっくりした、気が付かれたと思ったやん、んもぅ)


朱雀院瑠璃玻の姿は、他人には見えていない。

いや、視界には入っているが、彼女を認識する事が出来ない。

彼女は妖術を使っていた、それも、人の目には映らない、隠密の妖術である。

此処まで説明すれば分かるだろうが、朱雀院瑠璃玻は妖術師であった。




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