同棲生活は続く
浜辺を先輩と一緒に歩く、幸せな朝すぎる。
しかも、俺たち以外に人気はない。二人きり。なんて最高のシチュエーションなのだろうか。
そう思ったのも束の間だった。
浜辺を爆走する見知った顔が現れた。まてまて、そんな走りにくい場所でよくジョギングしているな……!?
あの星のようにキラキラ輝く横顔は間違いない。同じクラスの
まさかこんなところで会うとは。
こちらの存在に気づく鞠は、俺の名を叫んだ。
「え! 誉くん……!」
「よ、よぉ~。奇遇だな、鞠」
「って、そっちの女子はまさか白里 雪さん! 本物?」
俺と雪先輩を見て驚く鞠。表情がコロコロ変わって可愛いな。――いや、そうじゃなくて……こりゃトンでもないタイミングで出会ったな。
二人きりで歩いているところを目撃されてしまった。……って、別に問題ないか。
鞠とはそういう関係でもないし、そもそも先輩とも付き合っているわけではないのだ。
「おはようございます」
「こ、これはどうも丁寧に」
雪先輩は深々とお辞儀していた。そんな旅館の女将みたいな姿勢で頭を下げるとは。そんな挨拶に鞠は困惑しながらも対応していた。
しかし、妙な空気だ。このままでは誤解が生まれそうな気がしたので、俺はまず鞠に説明した。
「雪先輩は、WOに興味があってね。それで知り合ったんだ」
「え、本当に……!」
WOと話して、目を輝かせる鞠。ですよね!
おかげで少し重くなっていた空気感も薄れて、ゲームの話がしやすくなった。俺はこのまま事情を説明した。
「で、今はギルドには所属していないんだが……俺が面倒を見ている」
「す、すごいね。まさか元アイドルの雪先輩とペア組んでいたなんて。てか、紹介しなさいよ!」
じと~っとした目で見られ、俺は焦った。そのつもりだったんだが、タイミングがなかったというか。でも、育ったらギルドに紹介しようとは思っていたんだ。
「ギルドに入れてもいいのか?」
「もちろんだよ。まさか同じ学校で、しかも元アイドルの雪先輩がWOやってるとは思わないでしょ。びっくりだよ」
古松の時は『ふぅん』『へぇ』と興味なさげだったが、まさか雪先輩ともなるとここまで反応が違うとは。というか、古松のヤツ……やっぱり嫌われてる?
「これからよろしくお願いします」
「あ……はい。て、そんな敬語じゃなくてもいいですよ?」
確かに、先輩なのに変ではある。けど、ゲーム内では逆の立場になる……ので、さてはてどうしたものか。
「でも……」
「雪先輩は特別です! リアルでもゲーム内でも私にはタメ口で大丈夫ですから」
とはいえ、ゲーム内のレイヴァテイン(鞠)の威圧感は半端ないのだが。ギルドメンバーは彼女を目の前にすると
もうギスギスオンラインはカンベンな!
今日から雪先輩がギルド『メギンギョルズ』に加入した。
鞠は散歩を続けると言い、またどこかへ行ってしまった。もしかして、ダイエットだったかな。
まさか、体型維持の為に? ゲームばかりやっているだろうからなぁ。いや、でも見た目はかなり細いけどな。
「どうしたの、誉くん」
「――あ、いや。なんでもありません」
「それにしても、あの鞠ちゃんって誉くんと同じクラスの女子だったんだね」
「ええ、俺も驚きましたよ。まさかギルマスが潜んでいたなんて」
その相手がまさか女子とも思わなかった。だって、ゲーム内の口調が男っぽいんだもん。あ、いや……キャラは美人な大人の女性だけどね。
こう言ってはなんだがネカマと思っていた。
この事は口が裂けても言えないが。
◆
朝の散歩を終え、再びコンテナハウスへ戻った。
そうして午前中を過ごした。
「そろそろお昼だね」
「お腹空きました」
「なにか頼もうか」
「頼む……とは?」
「はい、これ」
スマホの画面を見せてくる雪先輩。そこには『ウーハーイーツ』の名称が記されていた。って、あの宅配アプリの!
これって料金も結構高いのに。
まず、学生で利用しようとは思わないアプリだ。
ああ、そうだ。ここは俺が支払えばいい。昨日も配信でかなり稼いだし、それにこんな素敵なコンテナハウスに住まわせてもらっているのだ。少しはお礼をせねば罰が当たるってもんだ。
「分かりました。俺が奢ります」
「え~、いいよー」
「大丈夫です。食費くらい負担させてください」
「でも」
「大丈夫です。雪先輩はWOの課金アイテムに集中してくださればいいんですよ」
「そ、そう言われるとそうね。分かった、お言葉に甘えさせてもらうね」
今日のエンジェルスマイルを貰い、俺は心が豊かになった。これだけでご飯百杯は食えるぞ。
そんなわけで、ウーハーイーツで料理を選択。話し合った結果、ピザにすることに。ドリンクなどもセット注文だ。
――よし、完了っと。
あとは待つのみ。一時間程度で宅配に来てくれる。それまでは武具アイテムを製錬して強化していよう。
ちょうど強化アイテム『エクサニウム』がニ十個も手に入った。
生産数が少なくて露店にもあんまり出回っていない代物だ。普通に買おうとすると1個で100,000セル(日本円で100円)する。
製錬専用NPC『魔法鍛冶屋』というブラックスミスの代わりの製錬屋に依頼する必要がある。手数料は1回500セル。
武具アイテムの最大製錬値は30まで存在する。しかし通常は20まで。20からはオーバー製錬という特殊な領域に突入するので、そこは割愛。
ひとまず、通常の20まで叩ければ普通に強い。まずはそこを目指す。
「先輩、そのマジックローブを製錬してみてください」
「おっけー」
雪先輩はマジックローブを魔法鍛冶屋に依頼して製錬。まずは『+10マジックローブ』になった。これで魔法防御力が上昇。それと同時に属性耐性も微量にアップ。
+10までは安全圏であり、以降は武具が
ただ、+15以上ともなると確率がかなり低くて、達成できれば武具のレア度が一気に上昇。露店で高く売却できる場合がある。
それを説明すると、先輩は更なる製錬を続けた。マジか! ギャンブラーだなぁ。
「大丈夫です? 装備を失うことがありますよ」
「うん、一か八かやってみる」
おぉ、緊張の一瞬だな。マジックローブは割と高級装備で相場も1,000,000セルする代物だぞ。
心配になりつつ見ていると――先輩は見事に成功させた。
どんどん製錬値を上げ、結果『+15』で着地。
「やりましたね! +15マジックローブなら、30Mセルにはなるでしょう」
「それ凄いの?」
「ええ、お金持ちになれます」
「やったー! でも使うよ」
「その方がいいでしょう。かなり耐久が強いので」
先輩の装備がかなり充実しはじめている。これなら、古松は追い抜けそうだな。
元アイドル先輩とはじめるゲーム生活 桜井正宗 @hana6hana
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