最高の朝かよッ!!

 ダンジョン攻略を進めていると、もう深夜二時を回っていた。夜更かし過ぎたな。

 いつもなら一時前にはログアウトしている。配信を見ている視聴者リスナーも疲れてしまうからな。


 先輩は――あれ、いつの間にか机に伏せて眠っていた。寝落ちしているじゃないか。気づかなかったな。


 あれから、はじまりの街へ戻り装備を強化していた。その最中に眠ってしまったらしい。幸い、配信は荒れていなかった。俺の方で止めておいた。

 自分の配信も終了を宣言。


 今日のところはここまでだな。


 俺もそのままゲーミングチェアでぐたっと意識を失った。



 ◆



 翌朝目を覚ますと、見知らぬ天井を見上げていた。……ああ、そうだった。昨晩は雪先輩のコンテナハウスに招待され、WOを一緒にプレイしていたのだった。

 必死にプレイしすぎて記憶が飛んでいたぜ。


 ……雪先輩はいない。


 ゲーミングチェアはもぬけの殻だ。またシャワーかな。


 ひとまず、俺はまずドリンクバーからコーヒーを絞り出して紙コップへ注いだ。冷たいブラックコーヒーのおかげで脳が一気に覚醒。眼が覚めた。



「……ふぅ」



 一息ついていると裏口の扉が開いた。そこにはバスタオル姿の――って、またー!!



「……あ」

「せ、先輩」

「お、起きてたんだ! ごめんね、朝からヘンなものを見せちゃって」



 ぜんぜんヘンではない。先輩のスタイル抜群な体型を朝から拝めるだなんて、なんたる僥倖ぎょうこうだろうか。感動さえしているぞ。

 許されるのならスマホで撮影して永久保存しておきたいね。


「俺、あっち向いていますから」


 窓になっている方向へ向く。

 片面は全面強化ガラス張りで透明度が抜群。外から丸見えなのである。プライバシーもクソもない状態になる。さすがにカーテンは備え付けられているが。


 まばゆい太陽光を全身で浴び、ビタミンDの生成を感じた。人間、少しは太陽にあたらないと健康に悪い。

 このハウスなら中からでも日差しを受け止められていいな。



「もういいよ~」



 先輩が着替え終えた。俺は振り向いた。

 そこには天使がいた。

 桃色のブラウスに黒のスカート。いわゆる地雷系のような服装だった。というか、多分そうなのかな。似合っているのでオーケーです!



「とても可愛いです」



 素の感想がそのまま口に出た。

 先輩は照れくさそうに頬を赤く染め、誤魔化すようにキッチンへ向かった。……ほぉ、あんな困惑する雪先輩は初めて見たな。



「なにか作るんです?」

「うん。朝はサンドメーカーでちょちょいのちょいっと」


 どうやら、タマゴサンドを作るらしい。

 食パンとタマゴなど材料を準備し、テーブルに並べていた。俺の手伝えることはなさそうだ。遠くから見守っているかな。

 雪先輩の後ろ姿だけでも十分に楽しめる。


 朝食を作る風景をぼうっと眺めていると、いつの間にか完成していた。



「早いですね」

「そお? 結構掛かっちゃったけど」



 お皿の上には見事なタマゴサンドがあった。焼き加減完璧そうだぞ、これは。もしかして、雪先輩って料理が得意なのか。

 お昼はいつも市販の『パン』だから、こういう料理とかしないとばかり思っていたんだがな。



「「いただきます」」



 一緒になって手を合わせ、さっそくタマゴサンドを手にした。この表面の感触、パリパリで上手そうだ。


 さっそくかじってみると――美味い。とてつもなく美味い。


 絶妙な塩加減とタマゴのふわっとした味わい。う~ん、絶妙な塩梅あんばいだな。それに愛情をたっぷり感じた。お店以上のクオリティだな、これは!


 そして、コーヒーで流し込み満腹となった俺。なんだこれ、朝から幸せすぎるだろう。


「美味かったですよ、先輩」

「よかった~。味付けとか人によって違うしさ」

「大丈夫でしたよ。お店で売れるレベルでした」

「ありがと。褒めてくれて嬉しい」



 向日葵ひまわりのような笑みがそこにはあった。あまりに可愛く、あまりに火力が高かったものだから、俺は大魔法をくらった気分に陥った。

 WO内で言うところの最上級破壊魔法『カオスインフェルノ』を食らった気分だぜ。あれ、スキルレベルマックスで50000%のダメージがあるから、耐性装備がないとほぼ一撃で死ぬからな。ちなみに、ゲーム内最高ダメージだ。

 発動には『転生クエスト』、『神器クエスト』、『混沌クエスト』の三つをクリアしなければならない鬼畜使用だ。

 唯一使えるのはレイヴァテイン(鞠)だけだ。



「そろそろゲームやります?」

「うーん、もうちょい誉くんとまったりしたいな~」


 まるで猫のように伸びる先輩。いちいち動作が可愛いんだよなあ。


「分かりました。少し散歩でもします?」

「そうだね。近所海も近いし、行こっか」


 そういえば徒歩十五分の距離に海があるな。


「では、さっそく」

「電動自転車でさくっと行っちゃおう」


「二台目があるんです?」


 先輩はうなずいた。あんのかよ!

 金持ちだなぁ。

 電動自転車って買うと十万くらいするようだ。やっぱり、先輩はアイドル時代に稼ぎまくったんだろうな。


 玄関へ向かうと、すでに二台目が置かれていた

 あれ、昨日は一台しかなかったのにな。いつの間に。

 通販にしては早すぎるしな。

 いったい、誰が……?


「どうしたの?」

「い、いえ。なんでも」


 不思議なこともあるものだ。

 電動自転車を借り、念のためにヘルメットもかぶって発進。アクセルを開ければスムーズに動き出す自転車。かがくのちからってすげえ~。


 早朝なせいか、それほど車の通りもない。それに、ここは田舎道。安全に迎えそうだな。


 早くも海が見えてきた。

 海岸沿いを自転車で走る、最高のロケーションだな。しかも先輩の横顔がダイヤモンドのようにまぶしいぜ。



「気持ちいねえ~」

「はい。海っていいですね」



 駐輪場らしき場所で自転車を止め、浜の方へ。しかし、階段で先輩は足を滑らせてしまった。



「きゃ!」

「先輩!!」


 俺は直ぐに雪先輩の右腕を掴んだ。……セーフ!



「あ、ありがと……」



 持ち上げて抱き寄せるような形になった。息が掛かるくらいの距離になって俺は心臓が加速した。先輩が目の前に……。



「ケガがなくてよかったです」

「う、うん。……嬉しい」



 雪先輩の小さな頭が俺の胸の中に――。



 最高の朝かよッ!!

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