同棲、はじめました

 臨時メンテナンスのせいでゲームはまともにプレイできなかった。

 非常に残念だが、雪先輩とリアルを過ごせたので俺はスペシャルハッピーだった。宝くじで一等を当てた気分だね。


 時間となり、屋上を後にした。途中で先輩と別れた。少し名残惜しいけれど授業をサボりまくるのもよくない。

 最低限卒業できるようにはしておかねばな。


 教室へ戻るとわずかな時間で、鞠が話しかけてきた。


「あ、あのさ……」

「お、おう」


 俺も妙にギコチナイ口調になった。やっぱり、ギルドマスターということが分かると妙な緊張感があった。



「いつもごめんね」

「え?」

「その……厳しすぎたよね」


 まさかゲーム内のことを言っているのか。気にしていたのかよ。ゲームは人格を変えるものだ。俺ですらイキりまくっていた時代があるし、対人戦では今でも過剰に興奮したり、暴言を吐きそうになることもある。極力抑えているけど。


「いいよ、気にしないで。レイヴァテインは憧れだから」

「そうなの!?」


 意外だったのか鞠は驚いていた。もちろん、俺はうなずく。事実だからな。


「最強の魔法使いだ。認めるよ」

「ありがとう。ちょっと気が楽になったよ」

「今夜、またボス狩りへ行こう」

「うん。今日からVCありね!」

「マジか」


 レイヴァテインは、頑なにVCを使用しようとはしなかった。多分、身バレを恐れてのことだろう。中にはリアルと区別する人もいるからな、分からないでもない。



「改めてよろしく、吉田くん」

「ああ、よろしく」



 自然と握手を交わした。鞠の手は小さくて温かかった。

 これからは殺伐とした雰囲気も少しは解消されるかもしれないな。



 ――忘れていたが、休み時間になって古松もぶったまげていた。


 鞠がギルマスということを知り、ひっくり返りそうなほど驚いていた。驚天動地だと頭を抱えていた。教室内にいる鞠を見つめ、しかし引き気味の表情をされていた。ああ、あんな苦虫を噛み潰したような顔をされちゃって。おい、古松……お前、鞠に嫌われてないか?




 クモの子を散らすようにクラスメイトは教室を足早に出ていく。部活動へ向かう面々と帰宅の途につく帰宅部の人種。むろん、俺は帰る方の人間だ。


 部活動? それよりゲームだ!


 もはや予定調和となっている雪先輩との待ち合わせ。昇降口を少し出れば俺を待つ姿が。待っていましたとニコやかな笑みを浮かべる。



「帰ろうっか、誉くん」

「はい、先輩」



 俺を待つ間、先輩は複数の男から“一緒に帰らない?”と声を掛けらたようだが、全スルーしたようだ。お得意の殺人スマイルで見事に撃退。俺だけを一心に待っていたようだった。ありがたい話だねえ!



 今日は紹介したい場所があると言って、先輩は俺を誘導した。

 いったい、どこへ行こうというのかね?



 歓談かんだんを交えながらも歩いていく。

 学校から十五分は掛かってようやくそこにたどり着いた。……なんだ、ここ?

 閑静かんせいな住宅街、もともと空き地だったような場所に『コンテナ』が置かれていた。妙に目立つというか。

 もしかして、レンタル倉庫的な?


「行きましょ」


 雪先輩は当然のように歩く。


「あの、このコンテナになにか預けてあるのですか?」

「あはは。違うよ~」


 こっちへ来てと言われて、俺はついていく。このコンテナに何があるというのか。それよりもWOを一緒にプレイしたいんだけどなぁ。


 などと焦る気持ちがあふれ出るものの、俺はそのコンテナの出入り口を前にして細かいことは全て吹き飛んだ。


 お、おい、これって!



「雪先輩、ここってコンテナハウスなんです!?」

「うん。わたしと誉くんの同棲用の家」


「――――」



 そんなプロポーズみたいなことを言われ、俺は9999のダメージを受けた。クリティカルヒットだった。

 せ、先輩が俺の為に……同棲したくてコンテナハウスを建てちゃった?


 いや、凄すぎだろう。


 金は……ああ、そうか。アイドル時代に稼ぎまくった金があるわけか。とはいえ、土地まで確保してここまでやるとは驚きだ。



 コンテナハウスの扉を開ける先輩。

 中はエアコンや冷蔵庫、電子レンジなど電化製品は一通り取りそろえられており、生活するには不便がなさそうだった。


 キッチン、ゲームチェア、ゲーミングテーブル、ゲーミングPCも二台置かれていた。


 電気もネットも完備。ドリンクバーまであるのかよ。



「すごいでしょ! 突貫工事で作っちゃった」

「なんだってー…」



 かねのちからってすげえや。



「ごめん、実は前から建ててた家だったんだ」

「ですよね。さすがに一日で建ちませんもんね」

「うん。でも、誉くんと一緒ならいいよ。住もう」


 まるで懇願こんがんされるみたいにお願いされた。俺は断る理由なんてなかった。雪先輩と一緒に住んで、一緒にゲームが出来るのなら大歓迎である――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る