WizardOnlineの掲示板

 マジか。マジなのか。俺は何度も頭の中で反覆した。

 結局昼休みになるまでギルマスこと鞠のことで頭がいっぱいになっていた。……これから、どんな顔して接すればいいんだ?

 ゲームの中のレイヴァテインとリアルの鞠とのギャップが凄すぎて、正直ビビっていた。

 現実ではあんな清楚せいそで可愛らしいのにな。ゲームとなると性格が豹変ひょうへんするタイプなのかもしれない。



 ――昼休みになった。



 いつものように俺は教室を飛び出した。幸い、俺を止める者は誰一人としていなくなった。恐らく、今朝の盗撮魔の件が大きく影響しているのだろう。おかげで動きやすくて助かる。


 屋上へ行こうとしたが、スマホが振動バイブした。……おや。

 気になって画面を覗くと雪先輩からだった。



 雪先輩:ちょっと遅れるね!



 もちろん待ちますとも。

 先に屋上に到着し、俺はノートパソコンを開いて先に『WO』を――ああ、最悪だ! 今日は『臨時メンテナンス』が入ってしまい、ログインができなかった。

 どうやら、サーバーに不具合が出たようだな。

 これではプレイはできない。

 ので、俺は情報収取の為に掲示板を覗く。



 ……ふむ。攻略ギルド『アブソリュート』が地下都市第20層に到達ね。そういえば、地下都市は第100層まであるんだっけ。そこまで何年掛かるのだろうか。




 しばらくすると雪先輩が現れた。可愛い笑顔で。



「ごめんね、お待たせ」

「いえいえ。まだ時間ありますし、どのみち『WO』はメンテで入れませんから」

「え、そうなんだ。残念」

「昼飯にしましょう」

「そうだね。はい、ジャムパン」


 おぉ、今日はいちごジャムパンか。これ美味いんだよなぁ。

 先輩からパンを受け取り、さっそく開封。

 いちごとバターの香りがほんのり。

 さっそくちぎって口へ含む。んまぁいっ!


「脳が回復しますよ、先輩」

「いいよね、いちご。あ、そうそう、飲み物もどうぞ」


 水の入ったペットボトルだ。なんだか妙に量が少ないような気が。まあいいか。

 俺は気にせず水を飲んだ。

 口をつけると雪先輩はなぜか顔を真っ赤にしていた。


 え……なぜ?



「どうしたんです?」

「……そ、そのね。ペットボトル……実は、わたしの飲みかけでね……。あはは……」



 照れる先輩。めちゃくちゃ照れていた。……って、ええッ!? マジで! このペットボトル、先輩の飲みかけ……だったのかよ。


 間接キスじゃないか。


 突然の出来事に俺は石化した。

 雪先輩が俺の為にしてくれたってことだよな。



 嬉しすぎんだろッッ!!



 いちごジャムパンを食べれただけでもハッピーなのに、更にその上をいくハッピーがあったとは。

 ああ、生きていた良かった。



「ありがとうございます」

「……うん」


 まだ照れている雪先輩。俺もなんだかむず痒くて視線を合わせられなかった。空を見ているしか出来なかった。

 妙な気持ちながら「いい天気だなぁ」とか誤魔化していると、先輩は俺のスマホを覗いた。


「ねえねえ、これって掲示板?」

「そうですよ、先輩。大手掲示板“ななちゃんねる”ですね」

「あー、知ってる。昔からある掲示板だよね」

「昔は“ねらー”だとか言われてましたね。今は時代も変わってアングラでもないですけど」


 俺はアプリに表示されている“ななちゃんねる”のスレッドを見せていく。



 - MMORPG『WizardOnline』スレッド -


【ダンジョン攻略 Part149】【モンスター情報 117】【イクナイ!キャラ晒しスレ 180】【リアルマネートレード 290】【定期メンテナンス★66】【ギルド・パーティ募集】【暇人こい】【アイテム相場 98】【武具トレード】【目指せVR化】【攻城戦 \(^o^)/オワタ】【雑談スレ 12】【クソゲーへようこそ!】【配信者専用スレ】【死霊術師ネクロマンサー育成 3】



「いろいろスレがあるんだね」

「先輩、他の掲示板は覗いたことあるんですか?」


 そう聞くと先輩は妙な表情でうなずいた。……あ、分かったかも。アイドルの時にエゴサとかしていたんだな。


「見ちゃったんですね」

「……怖いけどね」



 世間の反応が気になったわけか。誰でも一度はやるよな。

 酷い反応があったせいで結局は見なくなったりするんだけど。俺も過去に一度だけキャラクターを晒されて大炎上したんだよね。

 キャラ育成用のSNSも晒されて、一時期はインプレッションがとんでもないことになっていた。

 あの反省点を活かし、今はマナーを守っているけど。



「WOの民度は最近良くなっているんで安心してください。運営もマナー重視で、ヤバい奴はアカウントBANとか対応してくれるので」


「ちゃんとしているんだね」


「ええ。ゲーム内に通報ボタンありますしね。暴言を吐かれた時は遠慮なく使ってくださいね」

「ありがと。でもなんか嫌だね」

「ゲームで必死になる人はいますからね。……昔の俺もそうでしたけど」

「誉くんが?」

「そういう時代があったんです。中学生のガキだったころです」

「そっかー。誉くんにもそういう時代があったんだよね」



 中学生ってのはイキりたがるものだからね。

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