あなたがギルドマスター!?

 教室に入るや、クラスメイトが大騒ぎ。俺は一瞬で包囲されてしまった。マジか。



「誉、やったな!!」「あの雪先輩を盗撮魔から守ったって!?」「すげえじゃん!」「カッケエな、お前」「吉田、お前を見直したよ」「正直お前に嫉妬していたが……どうでもよくなった」「やるじゃねえか、吉田!」「吉田くん、かっこいい!」



 お、おぉ…………!?

 なんだこのお祭りような騒ぎ。まさか盗撮魔を取り押さえたこと、もう噂が広まっていたのか。だから、こんなことに。



「あー…、いや俺は当然のことをしただけで」



 雪先輩を守りたい一心だった。それだけだった。



「いや、すげえって!」「表彰ものだぞ、これは」「あの盗撮魔の被害者多いって聞いたよ」「よく捕まえた!」「もうお前と雪先輩は公認カップルでいい!」「ああ、認めようぜ」「もう吉田には敵わんな」



 みんなワイワイと騒ぎ、俺の見る目が変わっていた。あんなに嫉妬や殺意に塗れていたのに、今は尊敬だとか羨望の眼差しだ。これは気持ちが良いな。

 割と命を張って先輩を守ったかいがあったってモンだ。



「ありがとう、みんな!」



 俺はいい気分で自分の席へついた。

 なんだか学校が楽しくなってきたな――!



 休み時間になって話しかけられることが多くなった。男女問わず俺の席に来ては『WO』や雪先輩のことを聞いてきた。てか、俺が『WO』をプレイしているってどこから漏れた!?


 ――ああ、分かった。古松の野郎だ。アイツが言いふらしたに違いない。帰ったらお仕置きのデスペナルティ有りの対人戦PvPを申し込んでやろうか。



 だが、ほとんどの男子が『WO』に興味を持ち始めた。しかも稼げることを知り、俺にそのコツを求めてきた。プレイ人口が増加するのはいいことだ。過疎サーバーよりは良い。プレイヤーが増えれば、それだけ競えあえるし、出会いも多くなる。



 女子の方は意外や、雪先輩のことを聞いてきた。どうやってアイドルになるのかとか、SNSのサブアカウントはないのかとか。さすがに俺もそこまで詳しくはない。

 しかし、女子とも結構仲良くなった。

 特に能城のしろさんとは急接近。驚いたことに彼女は『WO』をプレイしていた。



「へえ、まさか誉くんもWOやってたなんて」

「いやいや、俺の方こそ驚いたよ。能城さんってゲームやらないかと」

「そんなことないよ~。これでも小学生からオンラインゲーマーだから」



 すげぇな。小学生の頃からプレイしているとは……!

 俺ですら中学二年生からようやくだぞ。親父がもともとゲーマーで、使わなくなった中古のノートパソコンを譲渡してくれた。

 しかし、スペック不足でオンラインゲームはまともに遊べなかったんだよね。少し前まではガクガクのラグりまくりの状態でプレイしていたっけな。



「凄いや。で、サーバーは?」

「私はニーズヘッグだよ」

「おー、サーバーも同じか」

「吉田くん、ギルドとか入ってるの?」


「俺は、古松と一緒で『グレイプニル』という大手ギルドですよ。ギルドマスターがすっげー厳しい人で……でも、最強の魔法使いなんですよ。俺の憧れ」



 自分の状況をそう詳しく話すと、能城さんは時を止めていた。あれ、なんか石化したみたいに動かない。どうしたんだ?


「…………」


 能城さんの顔の前で俺は手を振るが、まったく反応がない。


「おーい、能城さん。どうしたの?」

「……えっと。吉田くんさ、キャラネーム教えて」

「俺? 俺のメインは黒魔術師ウォーロックで『ジュリアス』ってキャラ名だよ」



 そう打ち明けると能城さんはオバケでも見たような表情をして、二歩三歩と下がった。……え、なに怖いって……!


 もしかして、俺のキャラを知っているのか。

 知られていてもおかしくはないだろうけど。自分で言うのもなんだが、それなりに有名だから。



「ジュ、ジュリアスだって……!?」

「あー、うん。そうだけど」



「な、な、な……」



 能城さんはナゼかわなわな震え、今にも発狂しそうだ。ちょい、おい。どういうことだ!



「俺、なにかしたっけ……。もしかしてプレイヤーキルとかしたかな。それならゴメン」

「違う、違うよ。あのね、私は『レイヴァテイン』というの。……分かる?」



 その名を聞いた瞬間、俺はぶったまげた。

 俺の所属しているギルドマスターのキャラネームだったからだ。……ウソだろ!



「の、能城さんがギルマスぅ!? マジで!?」

「……うん。私がギルドマスター」



 な、なんてことだ。信じられないな……。

 てか、世間狭すぎだろう!


 このクラスに『WO』をプレイしている女子がいて、しかも俺が所属するギルドのマスターなんて……なんつう奇跡! 偶然!


 しかも、レイヴァテインはトップを独走する魔法使い。

 プライベートなことは一切話さず、ボスやダンジョン攻略のみの効率の鬼。そんな人が目の前にいるなんて。



「あー…セルフオフ会かな」

「あは……はは。ヤバいね。鳥肌立っちゃった」



 お互い、なんだか気まずくなった。でも、こんな身近にいたとは縁とは不思議なものだな。



「あの、マスター」

「やめてよ、吉田くん。リアルでは名前で呼んで」

「では、能城さん」

まりでいいよ」


「いいの?」

「もちろん」


「じゃあ……鞠」

「うん、私も誉くんって呼ぶね!」



 まさかまさか、ギルドマスターとリアルに会う日が来ようとは!

 能城さん――いや、鞠とはな。

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