先輩が俺の胸の中に

 雪先輩と一緒に授業サボリ、午後を一緒に過ごした。それだけで俺は十分に満たされていた。こんな生活が送れるとは……。

 これなら毎日学校へ来てもいいな。


 放課後。校門前で雪先輩と合流し、途中まで一緒に歩いた。今日も俺の家に寄って『WO』をプレイするのかと期待をしていたが、先輩は「今日は用事があるから帰るね」と笑顔で去っていった。


 ……今日はなしか。


 ちょっと残念だが、先輩のあの笑みを見られるだけで生きてられる。


 俺はいつもよりも上機嫌に帰宅。

 裏から入ると親父と遭遇。よく会うな。



「誉、今日は白里 雪さんは連れて来ていないんだな」

「先輩、用事があるんだってさ」

「そうか。異世界転生カフェに来て欲しかった……」


 がっくしと項垂れる親父。そんなにカフェへを見てもらいたいのか。そういえば親父も雪先輩の熱心なファンだからなぁ。

 カフェはコスプレも出来るし、先輩の魔法使いのコスとか見てみたい気もするかも。……うん、今度交渉してみようかな。


「また今度だな」

「頼むぞ、誉」



 今度こそ自分の部屋へ。

 今日もWizardウィザードOnlineオンラインでレアアイテムを狙っていきますか!



 ◆



 あれから雪先輩から、ちょくちょくとスマホにメッセージがきた。なにか計画を進めているようだが、詳しいことは教えてくれなかった。

 その計画とはいったいなんだろうか。


 そして、ようやく雪先輩はネブラスカでログインしてきた。俺は光の速さで合流し、パーティを結成。先輩とペアを組んだ。



 ジュリアス:来てくれたんですね、忙しいのかと

 ネブラスカ:ごめんね。でもあんまりいられないかも

 ジュリアス:それはちょっと寂しいですね

 ネブラスカ:でも明日は大丈夫だから



 ならいいか。てか、先輩ってばチャットが上手くなったな。最初はガチガチで返信スピードも極端に遅かった。今は普通に会話できていて自然だ。

 通常チャット、パーティチャット、ギルドチャットを極めたようだ。


 次はボイスチャットVCの導入だな。先輩、まだマイクがないようだから買ってもらうか、俺がプレゼントしようかな。

 正直、ボイチャの方がやり取りが何倍も速いし、楽だからなあ。早めに環境を整えてもらわねば。



 ジュリアス:配信しながら、先輩を育てていきますね

 ネブラスカ:え! 今配信してるの~?

 ジュリアス:もちろんです。先輩ばっちり映ってますよ

 ネブラスカ:は、恥ずかしいや……

 ジュリアス:大丈夫です。今は二万人程度ですから

 ネブラスカ:やばすぎっ!



 俺の配信は本来、ボス狩りをメインとしていた。レアアイテムを狙うボス攻略はやはり需要がある。それと毎週水曜日21時に行われる『攻城戦GvG』、『対人戦PvP』だ。こっちも注目度が高い。


 もちろんそれだけではない。

 俺自身が超レアなアイテムを持つこと、ボス限定ドロップを複数所持していること。神器と呼ばれる超入手困難なアイテムもあること。それで注目度が高いのもあった。

 あと、ファンサービスとして視聴者のコメントを読み(主にスパチャ)、返している。 小さな積み重ねによって視聴者数が増大。今は平日でも二万人ほどが来場するほどだ。しかもスパチャを投げてくれるし、ありがたすぎる。



 そんなこんなで、俺は雪先輩をダンジョンで育成しながらも、地下都市第10層前のダンジョン『ムスペルヘイム』という灼熱ダンジョンでレベリングを行った。

 今日はこんなところか。



 ジュリアス:かなりレベルアップしましたね!

 ネブラスカ:もう10層にいるとか信じられない


 ジュリアス:クエストスキップのアイテムを使えば楽勝です。ちなみに課金アイテムですけどね


 ネブラスカ:え、課金アイテムなんてもらって良かったの?


 ジュリアス:視聴者からのプレゼントなので

 ネブラスカ:わぁ、ありがとー! じゃあ、そろそろ落ちるね!


 ジュリアス:おつ



 先輩はログアウトした。もっと時間があれば30層くらいはいけるんだけどなぁー。平日は仕方ないか。

 さあ、俺はボス狩りへ向かうかな。

 いったんギルドが“溜り場”にしている地下都市第7層『ギンヌンガガプ』へ行きますか。

 ギルドマスターや古松(†ユピテル†)と合流だ。

 しかし古松のキャラネームは絶滅危惧種の記号囲い。まさか未だに『†』を使うヤツがいるとは……。古のMMORPGユーザーかよ。バカにするわけではないが『卍』でないだけマシかな。


 という俺も最初の頃は、使いたい名前が【使用できません】でアウトだったから、仕方なく記号で囲っていたっけ。あぁ、思い出したくないネカマ時代の黒歴史だぜッ。




 ――深夜1時にログアウト。

 これが俺の日課だった。さて、もう寝ようっと。



 だるい朝がきた。

 やや寝不足感であることをまず感じ、俺は洗面所へ向かう。今日も学校かぁ、だるいなあ。とは思いつつも、雪先輩の存在が大きい。

 それに、なにか計画があるようだ。その内容が気になった。


 スマホには『おやすみ~』と『おはよー』のメッセージが受信されていた。やはり、直接聞くしかないか。

 それに、マイクをプレゼントしたい。


 ちょうど部屋の整理をしていたら未使用のマイクが出てきた。これを雪先輩に使用してもらい、ボイチャをしてもらおう。



 支度を済ませ――登校。

 そういえば暑くなってきた。もう直ぐ七月。夏休みも見えてきた。ああ、そうだ。夏休みになれば毎日が休み。雪先輩ともっとゲームがプレイできる。楽しみだなぁ。

 ワクワクしながらも学校に到着。


 校門前でまたあの不審者を発見した。……うわ、あの盗撮魔だ。


 しかも、雪先輩がちょうど現れた。



「誉くん、おはよー!」

「おはようございま…………あ!」



 今、盗撮魔が明らかに雪先輩のスカートの中にスマホを――殺す!


 とっさの判断だった。


 俺は盗撮魔の右腕を掴み、その証拠すらも掴んだ。



「………………ぐっ!?」

「おい、お前。今雪先輩のスカートの中にスマホを入れただろ」



 俺がそう確認すると、雪先輩は驚いて俺の後ろに回った。めちゃくちゃ怯えていたし、泣きそうになっていた。



「え、誉くん。この人誰……」

「有名な盗撮魔らしいです。先輩、撮られていましたよ」

「やだ……怖い」


「任せてください。コイツを警察に突き出します」



 盗撮魔を取り押さえることに成功。しかし、なかなかに抵抗してくる。



「くそ、離せ!! 俺は記者だぞ!!」

「だからなんだ。盗撮すれば犯罪だ」


「……ちくしょう」



 その後、周囲にいた生徒が通報してくれて、学校の先生たちと警察が駆けつけてくれた。

 警察によると、盗撮魔は本当に有名なヤツらしく……これで四回目の逮捕となった。しかも記者でもなんでもないらしく、ネタがあれば、そういうスクープ記者に写真を売り渡していたようだった。

 雪先輩はずっと狙われていたようだな。

 そういえば、西塚くんも言っていたな。モデルの彼女が盗撮被害に遭ったって。


 盗撮写真は全て削除され、雪先輩は安心していた。驚いたことに、先輩は俺の胸の中で泣いていた。



「……ありがと、誉くん」

「こ、これくらい普通っすよ」



 こんな距離に先輩がっ。もう抱きしめられるレベルだぞ、これは。いや、いいのかな。――ああ、やっぱりダメだ。俺は先輩を大切にしたい。というか周囲の目がありすぎて無理だった。


 なんにせよ、盗撮魔事件は解決された。それでいいじゃないか……!

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