君に会いたいから全部断ってきた
不審者に警戒しつつ校内へ。
雪先輩と途中で別れ、昼休みに会う約束を交わした。……よしッ。今日も先輩と過ごせるぞ~! イヤッホォォォウ!
ルンルン気分で教室を目指す。授業なんて適当に受けて、さっさと昼休みにワープしたいぜ。
しかし、俺と雪先輩の仲に不満を持つっぽい輩が現れた。それは教室に踏み入れた瞬間に起きた。
「吉田、ツラ貸せやァ!!」
クラスの中でも一番の不良こと
「……な、なにかな、西塚くん」
「いいからこっちこい」
俺の肩に腕を回してくる西塚。悪鬼のごとくこちらを睨みつけ、殺気立っているように見えた。……終わった。
この後、きっと俺はボコボコにされるんだ。やべぇよ。死にたくねえよ!
「た、頼む! 命だけは!」
「あ? なに言ってんだお前」
「え? 違うのかい?」
「いいからこっち来い!」
なぜか廊下に連れていかれる。どちらにせよ、俺の命運尽きたか。雪先輩を独り占めしすぎた代償なのか……。くそう、せめて告白しておきたかったよ。
どうして肝心なところで邪魔が入るかな。
雪先輩、コイツに取られちゃうのかな。
……いや、まて。待ってくれ。
前の彼女のように寝取られるとか、もう嫌だ。絶対に嫌だ。
こうなったら刺し違えてでも西塚を止めるしか……!
死を覚悟したが――しかし、西塚は俺の肩をポンポンと激励するかのように優しくたたく。…………え? ナニコレ、どういうこと?
「えっと……」
「お前、あの元アイドルの白里 雪と付き合っているようだな」
「――ッ!? つ、付き合ってはないけど、仲は良いよ」
「嘘を言うな。これでも俺はお前たちを応援しているんだぜ」
「?!」
驚いた。まさか西塚が俺と雪先輩の仲を応援してくれているなんて……信じられねえ! けど、本人がそういうのだから、そうなんだよな。
不思議なこともあるものだ。
「それでな。お前、さっき校門前でヘンなヤツを見かけたろ」
「あ、ああ……。スマホのカメラを学校に向けている不審者がいたよ」
「ソイツは有名な盗撮魔だよ」
「え……マジで」
「間違いないよ。実はな、俺の彼女はモデルでこの学校に在籍している。ヤツは美人で可愛ければいいらしい。SNSに写真が出回っていたからな」
つまりあの不審者は有名な雪先輩や、この西塚の彼女を盗撮して……しかも、無断でSNSにアップしているのかよ。
なんて野郎だ!
じゃあ、朝のあれは学校を撮っていたわけでなく、さりげなく雪先輩を盗撮していたのか。許せねえ。
「まさかそんな情報を教えてくれるなんて、西塚くん……いい人なんだな」
「俺はクラスの陰キャ共と違うからな。吉田、お前はあの白里 雪とどうやって仲良くなれたんだ? 教えてくれよ」
「きっかけはオンラインゲームさ。雪先輩、ゲームが好きみたい」
「へえ、ゲームねえ。スマホか?」
「いや、パソコン」
「まさか『
「えっ! 西塚くんもプレイしてるの!?」
ニヤリと笑う西塚。まさかのWOユーザーだったとは! 意外すぎだろ!
「やっぱり吉田もWOをやっていたか」
「知っていたんだ?」
「まったくの偶然だ。世間は狭いものだな」
西塚は、WOはじめて三か月程度らしい。モデルの彼女がもともとプレイしていたらしく、その影響でお試しでやってみたようだ。するとドハマりして、今は毎日ログインしているようだった。
しかも驚くべきことに、中堅ギルドに所属していた。
「ビックリだなぁ。あの
「また“向こう”でも会おうぜ、吉田」
「うん、ぜひ一緒に狩りに行こう。雪先輩も連れていくよ」
「こっちの彼女も連れていくよ」
なんかいつの間にか意気投合して、俺は西塚と笑い合って話すほどになっていた。ゲームの縁とは不思議なものだ。
◆
西塚と仲良くなってから、クラスメイトは“完全沈黙”した。やはり、彼と仲良くなったことが大きかった。
俺に噛みつこうものなら、西塚が助けてくれた。陰キャ共は恐れをなし、チワワのようにぶるぶる震えていた。いい気味だぜ。
これで俺の異端審問は回避されたッ!
しかし、盗撮魔には注意しないとな。どこでカメラを向けているか分からないからな。 これ以上、雪先輩の写真を撮らせてなるものか。
俺が守るんだ。
昼休みになった途端に俺は、屋上へ向かう。
誰にも邪魔されないなんて最高だ。
快適に階段を進み、目的地に到着。しかし、先輩の姿はまだなかった。……いないのか。
スマホには『待っててね』とメッセージが残されているだけ。心配だなぁ。
しばらくすると、扉が開いた。急いで走ってくる雪先輩の姿があった。
「雪先輩!」
「ご、ごめんね……。はぁはぁ……走ってきたから疲れちゃった」
「どうしたんです?」
「今日は逃げ出すの大変だったんだ」
「もしかしてクラスメイトから誘われたんです?」
「そんなとこ。実は男子からも女子からも一緒にご飯食べないかって誘われるんだけどね。でも、わたしは誉くんに会いたいから全部断ってきた」
日向のようなポカポカな笑みを俺に向ける雪先輩。あまりに可愛くて、俺はそのままぶっ倒れそうになった。……ヤバすぎだろ、今の。圧倒的すぎる。
元とはいえアイドル。最強の表情に俺は心がズキューンバキューンとやられていた。雪先輩、いちいち可愛すぎるッ。
そして、第一俺のことを考えてくれて嬉しすぎる。
「俺も先輩に会いたくてたまりませんでした」
「ありがと。さっそくゲームしよ」
「もちろんです。ノートパソコンも準備済み」
「じゃ、報酬のパンね!」
先輩は、俺とゲームする代わりにパンをくれる。ありがたすぎて食べるのがもったいない。だが食う!
今日はカレーパンか。いいねえ。
先にパンを開封して味わっていく。
表面がカリカリで美味いなぁ。
カレーも濃厚で驚く。
ああ、これ購買部のレジの横に売ってるヤツだ。コンビニと同じクオリティで美味いんだよなぁ。
「さっそく
「うんうん」
俺の隣に身を寄せてくる先輩は、ノートパソコンの画面に視線を落とす。この横顔が見れるだけで俺はお腹いっぱいで幸せだ。
ゲームを起動してログイン。
「では、続きからでダンジョンへ――」
「ところでさ」
「どうしました?」
「不思議なんだけど、なんでネットに繋がってるんだろう」
その質問がいつか来るかと思っていた。俺は雪先輩に詳しく説明した。
「実はですね、ポケットWi-Fiを契約しているんですよ。ほら、これ」
「え~、この小さな端末がわぁいふぁいなの~?」
「ええ。これでいつでもどこでもネットができるんです。まあ、スマホのテザリングという方法もありますが、そっちは直ぐ通信制限掛かっちゃうんで俺の場合は別でWi-Fiを契約しています」
「へえ~、それでオンラインゲームが遊べちゃうんだね」
「興味あれば先輩も契約してみてください。最近は使い切りタイプで月額0円の100GBとかあるんで、それで十分遊べますよ」
学校で少し遊ぶ分には、100GBとかの使い切りで十分だ。いざとなったら、追加課金で
「知らなかったー! うん、今度契約してみるね」
ネットのカラクリを話したところで、ネブラスカでログイン完了。さっそく地下都市第2層『ブレイザブリク』へ向かう。
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