はじまりの街・ヘキサグラム

 【はじまりの街・ヘキサグラム】


 中央噴水広場に降り立つ。多くのプレイヤーであふれ、冒険者が行き交う。この時間から接続数も増加してくる。

 メンテ開け独特のラグさを感じながらも、広場を抜けていく。


「先輩、このまま真っ直ぐ行くとアカデミークエストを受けられるメイドNPCがいます。そいつに話しかけてください」


「さすが詳しいね、誉くん」

「任せてください。先輩を最強する為に近道を教えまくりますよ~」


 まずは『魔法使い見習いクエスト』を受注してもらう。と、同時にレベリングを行う。これで一気にレベルアップできるし、ステータスも大幅に強化できるのだ。

 レベル30を達成できればクラスチェンジ。

 上級魔法使いになれれば、一気に強くなれる。そのクラスに応じた専用魔法スキルがあって、高位ダンジョンの攻略も容易になる。ギルドやパーティからも重宝されるだろう。

 雪先輩ネブラスカはクエストを受注。その後、はじまりの街・ヘキサグラムのフィールドへ向かう。

 外へ出れば、そこにはモンスターが跋扈ばっこする危険地帯。下手に操作すれば死を招く。その場合、かなり痛手のデスペナルティを負うので注意だ。


「わぁ、草原フィールドってグラフィック綺麗だねー!」

「そうでしょう。モンスターも迫力ありますよ。この辺りだと『エルダースライム』という魔法使い系のスライムが転がってます」


 俺はスマホで詳細を見せた。

 モンスター情報アプリが便利で助かるっ。



【エルダースライム】

【Lv.5】

【種族:スライム】【属性:火】【サイズ:小型】

 魔法によって生み出されたスライム。

 ファイヤーボルト Lv.2に注意せよ。


 経験値EXP:3

 ドロップアイテム:炎のカケラ(5%)

 レアドロップアイテム:炎の杖(0.5%)



「この赤いスライムを倒せばいいんだね!?」

「はい、そうです。最初は“素手で殴る”しか使えないので注意してください」


 とはいえ、そんな効率の悪いことはしてられない。俺は自分のキャラでログインして草原フィールドへ直ぐに向かって合流。


「あ、誰か来た」

「それ、俺の黒魔術師ウォーロックです」


「名前は『ジュリアス』?」

「そうです。今から俺が先輩を支援しますので」


「ありがとう。ちなみに、名前の由来はもしかしてユリウス・カエサルだったり……」


 リアルにこちらに視線を向ける先輩。正解だった。特に意味はないが、カッコよかったので使っただけだ。


 いや、それはいいな。

 俺は先輩に装備アイテムや補助アイテム、回復アイテムを大量に渡した。


「それ、使ってください」

「わぁ、こんなに!? いいの……?」

「もちろんです。すぐ強くなれますよ」

「なんかいいのかな~」

「いいんですよ。身内だからこそ出来る近道です」


 ソロプレイヤーの場合はめちゃくちゃ大変だけど、俺とパーティを組めれば効率アップ。一年以上プレイしているヘビーユーザーである俺なら、レアアイテムが腐るほどある。


「ありがとう、誉くん」

「さっそく装備してください」


 操作方法を教えていく。ステータス画面をALT+Eで出す。ここで兜、鎧、腕、靴、外套、アクセサリーなどの装備が可能だ。

 指定したアイテムをドラッグ&ドロップすれば自動で装備される――というわけだ。


「これで全部できた」

「分かりました。では、その状態でエルダースライムを殴ってみてください」

「了解~」



 ぎこちない操作で先輩は、スライムの方へ突撃していく。クリックしてターゲットを取ればあとは自動攻撃してくれる。

 俺がプレゼントしたレアアイテムのおかげか、先輩はエルダースライムを一撃で粉砕していた。

 杖から低級魔法が発動したのだ。


「やりましたね!」

「す、すご! なんか知らないけど杖でモンスター殴ったら魔法でた」

「魔法を一定の確率で打ち出す武器なんです」

「なるほどねえ、便利なんだ」

「初心者には最強装備ですよ。あ、あとレベルアップおめでとうございます」

「お~。なんかレベル2になった」


 いい調子だ。このままエルダースライムを倒しまくってレベルアップしてもらう。



 ◆



 ――ふぅ、こんなところだろうか。

 あれから一時間ほど狩りを続け、先輩のキャラクターは『Lv.7』になった。このゲーム、なにげに経験値テーブルが渋いのがネックだ。


「先輩がよければ課金アイテム使いましょ。もっと効率的にレベルアップできるので」

「お金を使うと楽なんだ?」

「ええ。獲得経験値EXPとアイテムドロップ率を三倍にできる課金アイテムがあるんです」


「へえ、便利だね。うん、課金してみようと思う」


 時間になり、先輩はゲーミングチェアから立ち上がる。楽しい時間はあっという間だなぁ。もう少し先輩と遊びたい。


「送りますよ」

「あのね、誉くん」

「どうしました?」

「……わたし、ゲームしている時すっごく楽しい」

「俺もですよ。先輩といろんな街、フィールド、ダンジョンへ行ってみたいです」

「明日から、もっと時間増やそうと思う。あと家でもプレイできるようにするね」

「マジっすか! ぜひ、そうしてください。俺が喜びます」



 ていうか、めちゃくちゃ嬉しいッ!

 雪先輩との時間が増える。しかも、離れていてもプレイできるようになるのもデカイ。一緒にいる時間が今以上に増えるということだからな。



「うん、じゃあまた明日ね」

「玄関まで送りますよ」



 部屋を出て階段を降り、玄関へ向かった。すると外には車が止まっていた。先輩のお父さんかな。

 見守っていると昨日と同じ光景がそこにはあった。やっぱりイカツイなぁ。そして、俺は妙ににらまれる。怖いって……。

 けど、文句を言ってくる気配もないし、様子見られているのかな。



 俺は家へ戻って、再びWOをプレイしていく。今日はギルド会議へ出ないとな。古松がうるさいからなぁ。それにギルドマスターに怒られてしまう。



 そうして夜は更けていく……。


 ・

 ・

 ・


 気づけば次の日の朝を迎えていた。どうやら、寝落ちしてしまったようだ。この眠気、寝不足な気だるさ。

 睡眠時間はざっと三時間ってところかな。

 そうだ。昨晩はギルド会議後にレイドボスを倒しに行ったのだ。敵のHPが凄まじく高く、しかも理不尽に強かった。おかげでデスペナの嵐だった。なんとか撃破したが代償が大きかったなぁ……。

 それとリアル睡眠時間がだいぶ削れてしまった。

 でも、おかげでレアアイテムをゲットした。

 今度は雪先輩とどこかダンジョンへ行けるといいな。


 朝支度を進め、俺は一階へ降りた。

 学校へ行こうとすると玄関で呼び止められた。親父だ。


「誉、最近楽しそうじゃないか」

「そ、そうか?」


「もしかして、白里 雪さんと付き合っているのか!?」


「ち、ちげぇって! そんなんじゃないよ」

「顔が赤いぞ。動揺するところが怪しいな」


 ニヤニヤと俺を見つめる親父。これ以上はダルい。さっさと学校へ行こうっと。



「じゃあな!」

「お、おい! ……今度、カフェの方も寄ってくれよ」



 適当に手を振り、俺は家を出た。

 さあ、今日も適当に授業受けて昼休みは先輩と過ごすんだ。



 学校付近まで歩いて来ると、校門前に怪しい人影を発見した。……なんだ、この不審者。変な男がスマホを持ち学校側を撮影しているような。



「…………」



 明らかにヤバい人っぽいな。

 気にせず校内へ行こうとすると、ちょうど雪先輩が現れた。



「おはよー、誉くん」

「先輩、おはようございます。……ん」



 さっきの男がこちらにスマホを向けていた。俺――いや、違う。先輩を盗撮している!? ……あ、逃げやがった。


 まさか、アイツは先輩の追っかけか?

 アイドルを辞めても尚、雪先輩の人気は高いからなぁ。そういうヤツがいてもおかしくないか。

 今後も注意しておくか。

 次にもし撮影するようなら、この俺が止める。

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