先輩が嬉しそうで幸せです
雪先輩のアカウントは作成完了した。
ゲームの細かい話はまた明日となり、先輩は帰ることに。
俺はずっと変な気分だった。正直たまりません……。
「――じゃあ、帰るね」
「あ、先輩。俺、送りますよ。ほら最近物騒ですし」
「それなら大丈夫。迎えがあるから」
「いつの間に……」
玄関前には高級車が停まっていた。まさか、あれか……?
まさか、中から執事とか出てこないだろうな。
構えていると、そこからイカツイおじ様が現れた。うわ、サングラスにスーツ姿で怖いな。
警戒していると、雪先輩は「パパ」と叫んでいた。な、なんだ父親だったのか。雪先輩のお父さん怖そうな人だなー。
先輩は手を振って車へ。
俺も手を振り返す。
さて、戻るか。
▲▽
ダメだ、今日はもう寝ようっと。
ベッドに身を預け、スマホを覗く。
俺のゲーム配信を待ち望む者たちがSNSを通じてリプライやDMを寄越してくる。もしくは、ヨーチューブにコメントがつけられる。
今はそんな気分ではないんだ。許してくれ。
・
・
・
いつの間にか寝落ちしていたらしく、俺はスマホのアラームで目を覚ました。外は清々しい良い天気。青い空がまぶしいぜ。
朝の準備を整え、俺は学校へ向かう。
今の俺の頭の中は雪先輩一色で染まっている。今すぐに会いたい。話したい。
顔が見たい、あの笑顔が見たい。
そんな気持ちが逸る。
まさか学校が楽しみなる日が来ようとは思わなかった。授業なんてどうでもいいけど、雪先輩と会えるのなら俺は風邪だろうがペストだろうが学校へ向かう。……あ、いや、ペストはマズいか。
学校に到着して教室へ。
先輩と会えるのは昼頃になりそうだな。
まだ会えないなんてな。今なら織姫と彦星の気持ちが分かるぞ。
ため息を吐いた直後、背後から声を掛けられた。
「おい、誉」
「――ん?」
振り向くとそこには見知った顔がいた。コイツは同じクラスの『
「まずは、おはよう」
「おう」
「昨日なぜギルドに来なかった? メッセージ送りまくったのに」
「体調が優れなくてな」
「ウソつけ。お前、雪先輩と一緒に帰っていたって噂になっていたぞ」
なに……俺と先輩の関係が噂に?
そりゃそうか。
元アイドルとはいえ、まだまだ知名度は健在。学校中が注目している存在なんだからな。
「たまたまさ」
「たまたまで雪先輩と一緒に帰れるかってーの! 白里 雪といえば超ガードが堅いことで有名なんだぞ」
そりゃ知らなかったな。
俺の場合は偶然というか、向こうから自然にやってきたというか。本当に奇跡的だった。
「俺は教室へ行く」
「いや、俺も同じ教室だ」
古松と共に教室へ入るとクラスメイトが一斉に俺に注目する。……こっち見んな!
そんなジロジロ見ても何も起きないぞっと。
気にせず席へ。
……どうでもいいな、クラスの連中の反応なんて。俺は早く雪先輩に会いたい。それだけなんだ。
授業なんてサボっても良かった。でも、留年もできないので俺はそれなりに真面目に受けていた。今は昼を待とう。
しばらくしてようやく昼休みになった。
キタッ! この瞬間を待ちわびた。
直ぐに席を立ちあがり、俺は一直線に廊下を目指す――はずだった。
「な……古松。そこをどけ!」
「誉。お前、今からどこへ行くつもりだ!?」
「お前に関係ないだろ」
「まさか雪先輩に会いに行くつもりじゃないだろうな!」
その発言の瞬間、クラスの男子共が絶叫した。
「またかあああああああ!」「誉を阻止しろおおおおお!!」「吉田、死ね!!」「羽交い絞めにしろ!!」「抜け駆けは許さん」「柔道部のオレに任せろ」「よくやった古松! 吉田は殺せ!」「うおおおおおおお!!」「雪先輩に会わせねえよ」「くたばれやあああ!!」
な、なんだこりゃ~~~~~~!?
数十人がこっちに押しかけてきた。まずい、このまでは俺殺される!
なんとかして古松をぶっ飛ばして屍を越えていくしかないッ!
「悪いが、古松。そこを通してもらう!!」
「友人の頼みでもそれは聞けねぇよ!!」
「すまんが……お前と友人になった覚えはねええッ!! くらえええええええええええ!!」
俺はチョキで古松のキ●タマを粉砕した。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………!!!!!」
ボキリッと粉々になったような轟音が響く。……あ、壊れちゃった。
そして、古松はそのまま白目をむいて倒れた。
すまねえな。俺はどうしても雪先輩に会わねばならん。
古松をぶっ倒した俺は
風になるということは、まさにこのことか。
体が軽い。まるで背中に翼が生えたような気分だ。
先輩には俺の向かう場所を伝えてある。だから、きっと会えるはず。
目指すは『屋上』である。
ノートパソコンを抱え、俺はついにたどり着いた。
扉を開けるとその先には雪先輩がいた。
制服姿の先輩はいつ見ても可愛い。
「誉くん、待っていたよ」
「はい、先輩。俺も楽しみにしていました。ゲームしながらお昼ご飯食べましょう」
「うん、いろいろ教えて」
柵を背に腰掛けた。先輩が隣に座り、肩が接触しそうな距離にいた。……ち、近い。こんなに近くていいのだろうか。あとで天罰が下るとかないよな。
俺はさっそくノートパソコンを開く。
雪先輩はパンをくれた。
「ジャムパンですか!」
「うん。お昼ね。わたしのおごり」
「マジっすか。ありがたいっす。俺、いつも食わないので」
俺は昼を食うのが面倒くさくて、ほとんど食わないのだ。おかげで体重が減り放題だが。
しかし、先輩のご厚意を無碍にはしたくない。ここはお宝のようにありがた~く受け取っておく。
パンを開封し、もぐもぐしながら俺はパソコンを起動。
「雪先輩のアカウントは昨日作ったので、今回はチュートリアルを進めていきましょう」
「うんうん。キャラクター早く作って異世界を駆け巡ってみたいな~」
「そうですね。でも、最初は『はじまりの街』でいろいろやらなきゃなので」
地味にチュートリアルって長いんだよね。スキップもなぜか出来ないし。さっさとスタートさせてくれればいいのにな。
先輩のアカウントでログイン完了。
俺と同じ『ニーズヘッグサーバー』を選択した。
キャラクタークリエイト画面へ進み、性別だとか容姿だとか細かい部分を決めていく。
「う~ん、男の子でいこうかな」
「マジっすか。ネナベになっちゃいますよ~」
男性のふりをする女性のことを言うのだが、逆はネカマでまさに俺のことだが。やっぱり、ゲームは可愛い女の子でプレイするに限るからな。リアル男としては。
「いいのいいの。イカツイのでお願い」
俺は先輩の要望を聞き入れ、イカツイキャラクターを作成した。……こんな感じか。って、なんか昨晩目撃した先輩のお父さんのような雰囲気になったぞ。
「これでキャラ作成完了です。最後にキャラクターネームを決めてください」
「ネブラスカで」
「ネブラスカ? って、アメリカの州ですよね」
「うん。お母さんがネブラスカ州出身だからね」
そういうことか~。って、先輩ってアメリカ人のハーフなの!? それ知らなかったな。
これでついに雪先輩のキャラクターが完成。
初期はみんな“魔法使い見習い”として世界を歩む。一定のレベルに達すると、それぞれのクラスへチェンジできるのだ。
先輩にノートパソコンを持たせ、操作に慣れてもらう。環境が違うのでやりにくいが、がんばってもらおう。
なんとか昼休みが終わる前にはチュートリアル完了まで進んだ。よし、続きは俺の家でかな。
「お疲れ様です。これで自由に世界を動き回れますよ」
「ありがとう、誉くん。丁寧に教えてくれて嬉しかった」
本当に嬉しそうに先輩は俺を見つめる。……その為に俺はがんばっていますっ。
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