先輩が俺の部屋にきた
学校を去り、校門を抜けた同時に俺は
危うくクラスメイトの男子共に捕まり、血祭りにあげられるところだった。その危機も脱し、俺は今人生の絶頂にいた。
すぐ隣に雪先輩がいた。
横顔もすごく可愛いなぁ……。
隣を歩けるだけでも宝くじ一等の価値がある。エロい人にはそれが分からんのです。
「誉くん、なんか緊張してない?」
ちょっと心配そうに俺の顔を覗く先輩。そんなオリオン大星雲のようなキラキラした瞳を向けられると俺の心臓が爆発しちゃいます。
「……ふ、不自然ですよね。申し訳ないです、はい。正直……先輩と下校できることが嬉しくて震えています」
「あはは~。誉くんって面白いね!」
先輩の天使の笑みも最高です。
なんだろう、この笑顔だけで百万円払ってもいいや。スーパーチャットがリアルに投げられるなら、俺は“オールイン”しているだろう。
「そう言っていただけると嬉しいですよ、先輩」
「だって本当のことだもん。てか、ゲームのことも教えてよ」
「あ~、WOですか」
「だぶりゅおー?」
少し首をかしげる先輩。くそう、その天然的な仕草だけで良い意味で
「
「あー! 略称ね」
「はい。オンラインゲーマーは何かと略したいので」
略す方が色々効率も良いし、覚えやすいのだ。
「そうなんだ。WOをプレイしたいんだけどね、誉くんの家で教えてもらってもいい?」
「え…………」
突然の提案に俺はギョッとした。魚クンサンよりもギョギョギョっとした。
え、え、ええッ!?!?!?
雪先輩が俺の家に来たい、だと…………?
「嫌だったかな」
雪先輩はしゅんと落ち込む。いやいやいや!! 嬉しすぎて停止していただけですよ。マジのガチで断る理由なんてない。むしろウェルカム!
「大歓迎ですよ!」
「よかったー。断られたら泣いてた」
てへっと舌を出す先輩。くっそ可愛いなこの人。お持ち帰りしたいぞ!!(怒) ……あ、いや。今から一緒に俺の家に行くんだった。
こんなゲーマーな俺にもチャンス到来とはな。どうしたんだ今日の俺は。
今日という日だけは神を信じてしまうかもしれんな。
これでも無神論者なんだが、ゾロアスターくらいは信じておくか。
俺は心の中でガッツポーズ。
感動で泣きそうになる感情を抑え込む。しかし、目頭が熱い。むちゃくちゃ熱い。……ああ、いかんな。最近は涙もろいぞ。
学校から距離はそれほど離れていないので、自宅まで歩いて向かう。途中、公園を抜けてやっと見えてきた。
「あれが俺の家です」
「おー、綺麗だね」
最近、親父が内装も外装もリフォームしたので新築っぽく見える。無駄に広い土地なので『カフェ』にもなっているのだ。
「正面はお店なので、こっちです」
「え……。誉くんの家ってお店にもなってるの?」
「はい。俺の親父は『異世界転生ギルド』というカフェの
「わぁ、すごい!」
親父は、残りの人生をこのカフェに賭けると言って魔改造しちゃったからなぁ。母さんも『いいんじゃない』と軽いノリで承諾していた。
夫婦そろってバケモノ行動力だが、俺はそんな二人を尊敬していた。何千万と注ぎ込み、このカフェを完成させたのだからな。
しかもこれが大バズリ。ヨーチューブやテックトックで数百万再生されて話題になった。おかげで
「興味があればぜひ利用してみてください」
「うん。面白そうだから今度の土曜日に来てみるよ」
「親父が喜びます。ではこちらへ」
裏口から家の中へ入る。
玄関を開けると丁度親父が現れた。
親父は『魔王』のコスプレをして、エプロンもしていた。相変わらず闇落ちしていやがる。
「おぉ、誉。おかえり」
「ただいま」
「――まて。そちらの可愛すぎるお嬢さんは誰だ? まさか彼女か?」
「ちょ! 違うし。と、友達だよ……」
「友達ィ? 馬鹿を言え。彼女はアイドルだった『白里 雪』にしか見えんぞ」
親父のヤツ、知っていたのか。そういえばアイドルグループを追っかけていたと言っていたな。見た目が厳ついクセにオタク趣味で充実している。まあ、趣味があることは良いことだ。母さんも似たような人種だし。
「はじめまして、白里 雪です」
「ほらぁ、やっぱり本人じゃないか! ――って、本人!?」
さすがの親父も雪先輩を三度見していた。すげぇ驚いてるな。そりゃまあ、そうか。憧れのアイドル(生)がそこにいるんだからな。
「あはは……」
「サ、サインください!」
もちろん俺は親父をさえぎった。
「それは後だ。先輩を俺の部屋に案内する」
「なんだと……誉。お前まさか雪さんを連れ込んでチョメチョメなことを――」
「するかボケ! 変態親父はさっさと仕事へ戻れ!」
「サイン忘れるなよ!」
「分かった分かった!」
親父は放っておき、俺は先輩を招く。さあ、いよいよ俺の部屋へ……。
階段を上がって二階へ。
扉を開け中へ。
「ここが誉くんの部屋なんだー。へえ、広い!」
「ゲーマーっぽくてすみません」
「おー、これってゲーミングPCとかゲーミングチェアってヤツだよね」
さすがの先輩もそれくらいは知っているようだ。
そう、俺は基本的にゲーミングのプロ仕様で取り揃えていた。いやしかし、そんなことよりも……雪先輩が俺の部屋にいる。その事実の方が興奮した。
てか、男女で二人きり……!
ちょっと危険だぞこれは。
いかんいかん。俺はそんなつもりないんだ。なぜなら俺は紳士だからなッ! とはいえ、間違ってそんなことも起きたらいいなぁなんて一ミリくらいは思った。
「どうぞ、先輩。座ってください」
「いいの?」
「ええ。遠慮なくどうぞ」
俺のゲーミングチェアに腰掛ける雪先輩。
「座りやすいね! こんな感じなんだ。画面も大きくて見やすい」
机の上にはウルトラワイドモニターが。俺の愛用のディスプレイである。これが見やすくて最高なんだよなあ。
俺はさっそくパソコンの電源を入れた。一瞬で立ち上がり、デスクトップへ。
「これで起動完了です。さっそくWOをプレイしますか」
「うん、やってみたい」
しかし先輩は不動のままだった。あれ……どうしたんだろう。
「なにか分からないことが?」
「えっと……どうやって動かせばいいの?」
「え……」
――――スゥ。
もしかして、先輩ってほとんどパソコンに触れたことがないのか!? そういえば、屋上でプレイした時もあんまり上手いとは言えなかった。そういうことか。
「えーっと……“まうす”だっけ」
「そ、そうです。先輩! マウスを動かすんです」
「どうやってやればいいの? 誉くん、わたしの手に触れていいから教えて」
そんなチワワみたいな目で見られたら断れないですやん! ええい、仕方ない。先輩の手に触れることになるが覚えてもらう為だ。
俺はゆっくりと右腕を伸ばし、先輩の右手に触れる。…………ふ、触れた。
す、すごい。先輩の手の甲……すべすべだ。
ああ、いや感動している場合ではなかった。
「えっとですね。マウスカーソルをこう動かして……はい、そうです。そのまま『WO』のショートカットをクリック。で、起動を待ちます」
「おー、こんな感じなんだー」
やば……先輩にこんな近づいてレクチャーすることになるなんて、変な気分になってきた。すっげー良い匂いするし、俺の頭おかしくなりそう。
てか、雪先輩も耳赤くないか……?
そういえば、声もちょっと震えているような。気のせいかな。
「ログイン画面が出ました。ここは自分の作ったアカウントの『ID』と『ログインパスワード』を入力します。先輩のは後で作成しましょう」
「うんうん」
あとは簡単だ。サーバーを選択していく。
俺の場合は一番上の人口が多い『ニーズヘッグサーバー』だ。多いときは一万人の接続がある。というか、他のサーバーは過疎っていてプレイしにくいんだよね。
「では、さっそく先輩のアカウントを作成しましょ。で、新キャラ作成、チュートリアル完了まで。冒険に出るのは時間的に明日ですね」
「分かった。じゃ、アカウント作ってみる」
時間は掛かりそうだが、先輩と一緒にゲームができるなら俺はなんだってする。
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