一緒に帰ろうと誘ってくる元アイドル先輩
何度見てもそれは先輩の名前。
夢じゃないよな……。
頬をつねってみても痛いだけだった。……おぉ、これは
アイドルを引退したとはいえ、その人気はまだ伝説級。学校どころか世間からも注目され、テレビやヨーチューブなど様々なメディアに出演していた。
俺のような男には遠すぎる存在だったはず。
だけど、今はすぐ手の届く距離にいる。あんなに遠かったのになぁ……。
「――くん。……くん。ねえ!
フルネームで呼ばれ、俺はハッとなった。……そうだった。あれから教室へ戻り、午後は適当に授業を受けていた。
あれから休み時間。
クラスメイトの女子に話しかけられていた。
この眼鏡の真面目系女子は『
「あ、ああ……ごめん。ぼうっとしていたよ、鳥居さん。俺に何か用?」
「午前中、どこに行っていたの?」
「そ、それは企業秘密だ」
「企業じゃないでしょう……」
呆れ顔で鳥居さんは俺を見つめる。てか、そんな見つめられると逆に照れるって。鳥居さんは異様に可愛いからな。胸も大きいから視線がついそっちへ向いてしまう。
……イカンイカン。外でも見ておくか。
「人生いろいろあるんだ」
「へえ、例えば?」
「――――ぐっ」
言い返せなかった。
俺の人生まだ十数年。そんなたいしたことはなかった。しかも、最近はMMORPGにハマって、ゲームばかりだ。でも、あの『
なんとゲーム内通過をリアルマネーに換金できるのだ。
いわゆる
だから、ゲーム内で必死に稼ぐ者が後を絶たない。俺もその内の一人なわけだ。しかも、今の時代はゲーム配信もできる。二刀流で大金を稼ぐトッププレイヤーも存在する。まあ、俺なんだけどな――!
「その顔、なさそうだね」
「ひどいなぁ、鳥居さん。俺だって必死に生きているんだよ」
「じゃあ、将来はどうするつもり?」
「え」
「だって、そんなに授業をサボっていたら就職とか難しくない? これでも私は心配しているんだよ、吉田くん」
マジで心配そうに見つめてくる鳥居さん。てか、憐れんでる? それはそれでちょっと困るっていうか……。俺自身がなんかイヤだ……!
ここは正直に俺の状況を話すか?
実はオンラインゲームでサラリーマンの年収越えてますって。
――いや、ちょっと厳しいな。
もしこのことが周囲に知れれば金の無心とか面倒だ。それに、俺は雪先輩とゲームがしたいんだ。余計なヤツが入って来られると困る。
「ありがとう、鳥居さん。優しいんだね」
「も~。これだから吉田くんって放っておけないんだよね。席も近いし」
渋々ながら鳥居さんは
「えっと、毒殺?」
「ちゃうわっ!」
違ったか。
「餌付け?」
「違うって。これからも仲良くしよって意味」
「ほ、ほぅ?」
鳥居さんは微笑むだけで妙にそわそわしながら前を向いた。……ふむぅ。どういうことか分からんが、ありがたく受け取っておくか。
◆
クラスの男子が雪先輩の話をしていた。
「いいよなぁ、雪先輩」「バチクソ可愛いよな」「彼氏とかいんのかな」「経験人数何人だろ」「馬鹿、処女だろ」「いやぁさすがにソレはないだろ」「まだアイドルを辞めたばかりだ、チャンスはある」「この学校に元トップアイドルがいるとか信じられんよな」「俺、勇気を出して告白してみようかな」「ヤメトケ、どうせ振られる」「そや、振られたヤツ何十人もいるってよ」
相変わらず凄いな先輩。
ずっと雪先輩の話ばかりだ。男子だけじゃない、女子も先輩の話をしている。みんなの憧れの存在なんだ。
また明日、雪先輩とゲームできるといいな。
屋上へ行けば会えるかな。
――なんて妄想していると。
『誉くーん! 君を呼んでいる人がいるよー!』
と、クラスの
おかげで俺に視線が集中しまくった。うわ、恥ずかしいな! てか誰だよ、俺を呼ぶ人って。そんな人、覚えがな――あったわ……。
まさか、俺の教室に来たのか!?
行くよりも先に雪先輩が現れた。
扉のところで手を振る先輩。その瞬間にクラス内は沸いた。
「うおおおおおおお!」「えええ!? 雪先輩!?」「白里 雪、本物かよ!」「うおー、可愛い~!」「やっぱりアイドルのオーラあるよなぁ」「辞めたのもったいねえよ」「復帰すればいいのになぁ」「よし、俺告白する」「てか、なんで二年の教室に?」「誰かに会いに来たのか?」
雪先輩はただ真っ直ぐ俺を見つめていた。
……やっぱり俺かー!!
そのせいでまた視線が俺に。
「え……誉に?」「は? ウソだろ?」「マジかよ。あの誉がァ!?」「吉田、ツラ貸せやああああああ!!」「殺してやる!!(血涙)」「なんで雪先輩と吉田が!?」「おいおい! これドッキリだよな!!」「いや、まだ違うだろ」「雪先輩は俺を見ているんだよ」「違う、俺だよ俺!!」
男子共は現実逃避していた。どう考えても俺を見つめているわけだが。
やれやれ、こうなっては仕方ない。
カバンを手に持ち、俺は雪先輩の方へ。
その瞬間には、憎悪、嫉妬、殺意、怨念、絶望、怒りや悲しみを向けらた。お、おいおい……カオスすぎるだろッ!
特に男子共は今にも異端審問でも開きそうなほどに怒り狂っていた。やべぇ、俺殺される!?
しかし、あの憧れの雪先輩を前にして誰もが動けないでいた。俺は動くけどな。そうして俺は雪先輩の前に立つ。
「どうしたんですか、先輩」
「迎えに来たの。誉くん、一緒に帰ろう」
極上のエンジェルスマイルをいただき、俺は幸せを。だが、教室内の男子共は絶叫していた。
「うああああああああああ!!」「ありえねええええええ!」「吉田、貴様あああああああああああ!!」「殺せ、殺せぶっ殺せええええええええ!!」「悪夢だああああああああ!!」「おい誰か野球部からバット借りてこい!!」「誉のキ●タマ握り潰してぇ……」「なんであんな野郎に!!」「あんな、一千万年に一度のアイドルと一緒に帰れるとかうらやましすぎんだろ」
まさに阿鼻叫喚。地獄の叫び地獄絵図。いかんな、俺の命は短いかもしれんな。今後が怖すぎて考えたくもないが、今は雪先輩が最優先事項なのである。
「イ、イキマショウ……雪先輩」
壊れたロボットのように俺はガチガチになって答えた。動きもそのような感じで不自然になっていたと思う。
だけど、男子共のこの負のオーラを前にすれば誰でもチビるって。あまりに圧が酷すぎてなぁ。
お父さん、お母さん。俺は今日で運を使い切ったようです。どうか俺の骨は宇宙葬でお願いします。
俺は、雪先輩と帰ることになった。……幸せすぎんだろ! 最高だぁ!
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