Re:孤児院の人


「すみません、勇者たちだ!って聞かなくて…」

「いえ…」

「よぉ!オレはシールダーだ~!」


シールダーの大きな声とパフォーマンスに子どもたちは一層はしゃぎ盛り上がっている。

勇者は最初に囲まれわらわらと触られた後、みんなからの頑張ってね!をもらった。

子供たちの後ろから慌てた様子で髪を括った男が走ってきたのは勇者がもみくちゃにされた後だった。


「ほんとすみません。今、院でもあなた方の真似っ子が流行っていて…」

「真似っ子が…」

「ええ…ひとりの子が勇者をして、ひとりの子がアーチャーをして、とみんな飽きずにぐるぐる回しているんです…」

「飽き…」

「あっ…すみません、失礼でしたね。申し訳ない…」


孤児院の引率役だと言った男はひょろ長い体躯を猫背にしてペコペコと全てに低姿勢の男だった。




「ははぁ、なるほど。そちらの素敵なアーマーは揃えた結果でしたか…」

「あぁ、これですね。路地裏の装備屋で買って…」

「へぇ…触っても…?」

「どうぞ」


男がそろそろとアーマーを触ろうと手を伸ばす。


「ッ!いてて…」

「えっ大丈夫ですか!?」


しかし触ろうとした瞬間防御の効果魔法が発動したのかバチッと強い音をたて男の手が弾かれた。

これに驚いたのは勇者である。

心配すると同時に、触っただけで防御の効果魔法が発動したことが不思議でならなかった。


「あちゃ…すみません、ボク少し魔力があるから…それに反応したのかも。」

「ああ…」


男が予想を口にするが、勇者はどうにも腑に落ちなかった。しかし一般人を困惑させるわけにはいかず、会話はそこで途切れる。

その間に斥候に向かわせていた魔導士の影兵が戻ってきた。勇者は魔導士に呼ばれて男から離れ、他のメンバーも準備に戻るために子供たちに別れを告げた。


「どうだった?」

「朝焼けの森全体に高濃度の魔力が満ちているようです…!罠が仕掛けられていると考えて良いでしょう。森に入る前に私がみなさんに魔術阻害の効果魔法をかけておきます…!」

「じゃあ十中八九幹部が待ち構えてるってことでいいね。」「ああ。油断せず行こう。」


話がひと段落したところで、勇者は孤児院の引率の男を横目で見る。

子供たちと帰るために点呼をとっている後姿はやはりどう見ても一般人だ。防御効果魔法が発動する事態なんてあるわけがない。

じっくりとアーマーと男を見比べていると魔導士がおずおずと寄ってきた。

その声は配慮されたのかパーティ四人だけに聞こえるくらいの小さなものだ。


「勇者さん?…何かありましたか…?」

「いや…あー…。ひとつ聞きたいんだ。俺も魔法は使えるけど専門的なことには疎いから、勘違いかもしれない。それでも気になったことがあって…」

「?」

「防御の効果魔法は、少し魔力のある一般人が触っただけでも弾くことがあるか?孤児院の人が触ろうとしたら思い切り弾かれてな…」

「!!!」


勇者の言葉は魔導士を固まらせるのに十分だった。


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