セーブデータ1:夕焼け通り
勇者が手に入れた装備品を身につけて夕焼け通りの噴水広場に向かうと、仲間たちは既に噴水の前に集まっていた。
「ごめん、遅くなった。」
「や、時間通りだよ。アタシらもさっき順々に集まったのさ。」
「良い道具が買えました…!」
「見ろよこの盾!立派だろ!」
皆それぞれ買ったものを満足そうに装備している。…
それから全員で聞いてきた噂を共有してみると、魔王軍の概要がある程度分かった。
加えて、他に魔王軍の情報を持っている人がいないかと商店街を少し歩くと、情報屋と名乗るピエロが魔王軍の強さについて教えてくれた。
ハッキリとした序列。
強い魔力。
幹部と魔王の飛び抜けた強さ。
そして、__
「軍隊としての強固さ。」
ピエロの目が真剣なものになる。
勇者の目の前に人差し指が立てられた。
「あいつらはとにかく戦争がうまい。戦術がしっかりしてるし、軍隊は大勢での撃破に慣れてる。各幹部の個性にもよるが、アンタらを苦しめるのはその軍隊だろうな。」
「幹部じゃなく、軍隊に苦しめられるのか?」
「アタシらも影兵団率いてるよ。」
「そうじゃない。」
アンタら、軍隊でのホンモノの戦争を経験したことないだろう。それも、大将で。
ピエロの言葉は確かに図星だった。
パーティメンバーは全員個々として人より優れてはいるので幹部と一対一では勝てる可能性がある。しかし、軍隊を率いての戦いは訓練でしかしたことがなかった。
訓練の際には確かに自身で戦略を立て、指示を出し、兵団を率いて模擬戦をしたものの、やはり訓練と本番は違う。
それも信頼しあい分かりきっている仲間が敵になるのではなく、ほとんど情報のない魔王軍が相手。
ピエロの言うことは核心をついていて、4人は何も言えなくなった。
けれど。
「それでも、やるしかないんだ。この国の平和は俺たちにかかってるんだから。」
「…」
それでも。やらなくてはならない。
下手くそでも、格好悪くても、魔王軍を倒さなくてはならないのだ。
その理由が、その覚悟が、4人にはあった。
「…そうかい。」
「ああ。」
「……ちなみに、敵対理由は聞いてもいいか?」
「えっ」
勇者は「知らないのか。」と思わずピエロを凝視した。
まさかあの事件のことを知らないのか。
「事件だ?…何があって国は魔王軍と敵対してる。」
「国を守る結界があるだろう。8つのコアによって張られているものだ。それらのコアが、魔王軍によって盗まれた。8つ全て。」
「……それで?」
「コアがないと結界は意味をなさない。結界がないと、魔物たちや瘴気がこちらまで侵食してくる。浄化の力を持つ聖女様はいるが、国土全体を一気に守れるほどじゃない。国を守るにはそのコア結界が必要だ。」
「だから魔王軍を倒そうと。」
「ああ。…」
…本当に知らないのか?情報屋なのに。
シールダーがボソリと呟く。
魔導士が慌てて「しっ!」と口に指を立てたがピエロは聞こえていたらしく苦く笑った。
「悪いね。"自称"情報屋なもんで。」
「いや、……」
「…脱線しちまったが俺から教えられるのはこんくらいだ。それ以上の情報はない。代金は勇者様から教えていただいた敵対理由の情報でトントンだな。」
そして話を切り上げる。
先程までの真剣な雰囲気はどこへ行ったのか、ピエロはヘラリと笑い「アバヨ」と去っていった。
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