朝焼けの森
森は異様なほど静かだった。
森からそう離れていない街中はあんなに活気があって賑わっているのに、1歩踏み出せばそこは途端に危険地帯へと変わる。
朝焼けの森と市民に親しまれるほど美しい森であるはずなのに、どこか異世界のようだった。
耳をすませてみても、葉っぱの擦れる音と木の間を吹き抜ける風の音しかしない。
本当に敵などいるのかと疑問が湧いてくるほどだった。
「すごく…静かですね…」
「薄気味悪ぃなこりゃ…」
「できるだけ早足で行こう。森をぬけた先は開けていたはずだ。そこなら奇襲されることもないだろう。」
「ああ。さっさと歩くよ。」
幅を取らぬよう、4人は縦に並んで歩いた。先頭と殿には影兵を置き、何時でも敵に対応ができる陣形をとった。
数分歩いて、勇者が足を止めた。
「…方角がおかしくないか?」
「何言ってんだ。街からここまでずっと一本道だろうが。」
「曲がってもないだろう。どうしたのさ。」
「いや…」
勇者はおもむろに首を傾げる。
直感的なものであるためハッキリ何とは言えないが、何かが引っかかっている気がするのだ。
確かに街からここまでは一本道で、迷うこともないけもの道が続いている。
方角もさんざん確認したから、おかしくないはず、なのだが。
どうにも。
違和感が拭えない。
思考にもやがかかっている気分だ。
パーティ内で先頭を歩いている勇者はやっぱりなんだかなと思う。そして、今度はいつも穏やかな魔導士にも聞いてみようと思い、もう一度仲間に伝えるために後ろを振り向いた。
瞬間。
「【術中打破 : めざめ】!!!!」
ガン、と鋭い音。
額に脂汗をかきながら魔導士は大きく叫び地面に杖を突き立てた。
途端に勇者一行が見ていた森の景色が一変する。例えるなら今までくすんで見えていた森の風景が一気に彩度を取り戻した感じだ。
魔導士以外の3人は突然の環境の変化に目を白黒させて、どういう事だと周囲を警戒した。
魔導士がよろよろと木の上を指さす。
「あ?バレた。」
「な__」
「結構深くまで誘い込んだんだけど…」
あーあ。
マジもうちょいだったのに。
ボソッと呟かれた声は心底面倒くさそうで__そして勇者が先程まで聞いていた声だった。
「!?、孤児院、の…」
男がするりとパーティの目の前に降り立つ。
そのままパッと両手を広げて緊張感のあるこの場に似合わない笑みを浮かべた。
「はじめまして勇者御一行!おれはグロウ!君たちが倒さんと思う魔王様の部下だ。一応直属のね。」
「…ッ!」
ハツラツと明るい声が響く。
シーンに似合わない声のトーンはそのチグハグさからより一層グロウを不気味に思わせた。
「さて、君たちはおれの術中に綺麗にハマってくれてた。ほんとにあともうちょいだったんだ。だから気になる。なんで気づいたの?」
グロウの目は真っ直ぐと魔導士を見つめている。
魔導士はフッフッと腹で息をしながら影兵に支えられている。
術中を破るのに大幅に魔力と体力を削られたようで、顔はとんでもなく青白かった。
「、最初は、気づきませんでした…ッハァ、結界、の、魔力のゆらぎ、だと、思いました、から…」
「うん、で?」
「ハァッ、ハッ、勇者さん、が、」
「…俺か?」
「、ッ、、無意識、でしょうが、しきりに、首を傾げたり、肌を触っていて、私も、一瞬魔力を高めたんです、。もちろん、警戒のために元から高くはしてありましたが、」
「それでおれの魔力が満ちてることに気づいたわけね…え〜めっちゃ違和感ないように薄めて薄めて展開したのに…」
グロウはあ〜あ、と大きくため息をついた。
明らかにテンションが下がったらしい。
ナメられているのだろうが、パーティにとってはすぐに畳み掛けてこないことがありがたかった。
魔術に特化している魔導士がここまで消耗しているということはグロウも魔術特化の幹部なのだろう。
今はとにかく魔導士の回復を優先したかった。
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