孤児院の人


「すみません、勇者たちだ!って聞かなくて…」

「いえ…」

「よぉ!オレはシールダーだ~!」


シールダーの大きな声とパフォーマンスに子どもたちは一層はしゃぎ盛り上がっている。

勇者は最初に囲まれわらわらと触られた後、みんなからの頑張ってね!をもらった。

子供たちの後ろから慌てた様子で髪を括った男が走ってきたのは勇者がもみくちゃにされた後だった。


「ほんとすみません。今、院でもあなた方の真似っ子が流行っていて…」

「真似っ子が…」

「ええ…ひとりの子が勇者をして、ひとりの子がアーチャーをして、とみんな飽きずにぐるぐる回しているんです…」

「飽き…」

「あっ…すみません、失礼でしたね。申し訳ない…」


孤児院の引率役だと言った男はひょろ長い体躯を猫背にしてペコペコと全てに低姿勢の男だった。

勇者は男の頭を上げさせながら、元気いっぱいの子供たちを見て眩しく思った。

みんな、少し痩せてはいるが健康そうで、何より笑顔が幸せそうだ。

孤児院の状態が良くないと見れない光景であるので、孤児院と聞いての諸々の心配はとうに頭から無くなった。


「勇者さま方は、どうしてこちらに…冒険へ向かわれたはずでは…?」

「装備を揃えていまして…でももう、すぐに向かいます。今は森を探索中ですね。」

「ははぁ、なるほど。そちらの素敵なアーマーは揃えた結果でしたか…」

「あぁ、これですね。路地裏の装備屋で買って…」

「へぇ…触っても…?」

「どうぞ」


男がそろそろとアーマーを触ろうと手を伸ばす。


「ッ!いてて…」

「えっ大丈夫ですか!?」


しかし触ろうとした瞬間防御の効果魔法が発動したのかバチッと強い音をたて男の手が弾かれた。

これに驚いたのは勇者である。

たしかに防御の効果魔法は付いているが、一般市民の触れ合いさえも弾くほどだとは思わなかった。

あちゃ…と眉を下げた男に勇者は慌てて謝った。


「すみません、効果魔法が強いようで…」

「あぁ…いえ。こちらこそすみません。多分ボク少し魔力があるから、それに反応したのかも。」


2人してハハ…と苦笑う。

それからポツポツと話をしていると、魔導士の影兵が音もなく戻ってきた。


「勇者さん…!戻ってきたので、お話を…!」

「あ、ああ!…すみません、では…」

「ハイ。ありがとうございました。」


4人とも子供たちに手を振って、少し離れて作戦会議を再開する。

勇者たちがこれ以上遊べないと分かると4人との間に即座に引率の男が挟まって子供たちに帰りを促した。渋々といった様子でペアで手を握って孤児院に戻り始めた。

勇者は横目で子供たちの様子を確認して、顔を引きしめる。


「報告では、森の中に人の影はないそうです。魔力の残滓はありますが、あちらの住民は元から魔力が強いので漏れ出たものかと…」

「人影がない…?噂はただの噂…なのか?」

「しかし油断は出来ないね。きっとあいつらはアタシたちを虎視眈々と狙ってる。」

「そうだな。じゃあ、4人とも固まってひとりふたりの影兵を率いて行こう。こっそり行ってそれで森を抜けれたらよし、接敵したら囲んで撃破だ。」


勇者の言葉に全員が頷いた。

勇者一行は、街中の誰も彼もの視線や声援を受けながら冒険の始まりの森へと足を踏み入れた。

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