夕焼け通り


勇者が手に入れた装備品を身につけて夕焼け通りの噴水広場に向かうと、仲間たちは既に噴水の前に集まっていた。


「ごめん、遅くなった。」

「や、時間通りだよ。アタシらもさっき順々に集まったのさ。」

「良い道具が買えました…!」

「見ろよこの盾!立派だろ!」


皆それぞれ買ったものを満足そうに装備している。

かく言う勇者も納得のいく買い物となったので堂々と装備した佇まいで、ならばと辺りを見回した。

噂話の共有をしようと思ったからだ。

今から話すことは大勢の前だとまずい訳では無いが、魔王軍に関わる話なので民衆に聞こえて余計な不安を煽ってもそれは本意では無い。


見る限り辺りに特に人が集まっているわけでもないため、勇者たちはこのまま情報収集の成果の話し合いに移行した。


「俺が旦那衆から聞いたのは城下町の近くの森にも魔王軍の手下が出るようになった、っていうことだった。」

「それ、薬屋の店主も言っていました…。森の薬草を集めたいけど、魔物や軍隊が下手に彷徨いているせいで森に行けない、って…!」

「オレは魔族の瘴気がとうとう下の方まで侵食してきたって話を聞いたぜ。真相は分からねぇが、魔王直属の幹部らが各地に散らばって瘴気の範囲を広めて、その地を守っているんだとか。」

「魔王直属の……、8人の幹部らか。」


ぐっ、とアーチャーが眉間に皺を寄せた。


魔王直属の8人の幹部。

魔王軍には力による序列があるという。

頂点に魔王が君臨し、その直下に8人の幹部が、そしてその下に幹部の率いる手下が存在している。

幹部たちは一人ひとりバラバラに各地の魔王領を守っているらしい。

手下は並の兵士よりも凶悪で強く、その上の幹部らはもっと強固だ。一人ひとり癖が強く、こちらの予想など軽く超えてくるだろう。魔王なぞ言わずもがなである。

勇者たちはこれから順々に幹部らを倒して人間の領地を取り戻しながら魔王のいる最終地点魔王城まで辿り着かなければならない。


そのためには魔王領をどう攻略していくかが大事だ。

魔王領は年々領地拡大という名の侵略が酷くなっているため、このオレンジ通りを抜け森に入ればすぐである。

人間の領地の近くを守っている幹部がいるのは分かるが、どこにいるのかやどんな接触をしてくるかは見当もつかないため、勇者たちにはしっかりとした戦略が必要であった。


「うーん、やっぱり影(※影魔法兵団の略)の一部…小隊位かな、を斥候部隊にしよう。先に探らせて、ある程度の森の質感と敵の居場所の情報を手に入れよう。」

「それがいいだろうな。」

「じゃ、じゃあ私の部隊から出しますね…!」

「よろしく!」


魔導士が杖で自身の影を操ると1人の影兵が生成される。

影兵は魔導士をじっと見つめ命令を待っているようだ。


「影兵さん、斥候として森に入り、小隊規模に広がって調査をお願いします。」

「。」


コクリと影兵が頷くと即座に森へと足を進めて行った。

影兵が一体倒されるとコピー元の腕にある残数で分かるようになっているため、これで数が減ったら敵が潜んでいることが分かる。

影兵からの報告を待つために、勇者たちは噴水広場で待機となった。


「幹部は見つけられなくとも手下たちの居場所が分かればいいけどね。」

「そうだな、__ん?」


噴水のヘリに腰かけ話していると人々の中からワッ!と子供たちの声が聞こえた。

子供たちは一目散にこちらに向かっており、皆満面の笑顔だ。

あっという間に一行は囲まれ、きゃあきゃあとはしゃぐ子供たちに対面した。…


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