冒険の準備


勇者一行はこれから魔族とその長である魔王を倒す冒険へと出るために、まず何をすべきか話し合った。

流石に国から用意されたもののみの着の身着のままでは無謀であり格好もつかないため、まずは自身らが望む装備を手に入れようと、総員は『冒険の準備』へと照準を定めた。


幸いにしてパーティメンバーは信頼出来る仲間が最初から揃っているし、国からは各メンバーの直属につく影魔法兵団を与えられたため、仲間探しは今のところ必要ない。

(影魔法兵団:任意の対象の影を媒体として身体から身体能力までを魔法で複製しその人のコピーを作る影魔法、で量産された大隊。影魔法は難易度が高く倫理的に論争が尽きない魔法。)


全員で考えて、


「じゃあ、防具なんかをもう少し見たいし、魔王軍の噂も集めたいから城下に降りよう。」

「日持ちのする食べ物なんかも見ておきたいしね。」

「私は新しい魔導書が無いか見てみます…!」

「オレも、防御役としてもう少し防具を揃えたい。」


となったため、自身らが望む防具や加えたい武器等を見繕くことを優先しようと勇者一行は城下町へと下った。


「じゃあ、1時間後にオレンジ通り噴水広場に集合で。」

「りょーかいっ」

「承知しました…!」

「はいよ!」


それぞれの準備のために一度バラけ、各々の目的地へと向かう。

勇者は王に貰った剣の他にもう一本手に馴染む武器はないかと商店街の人々に訪ねながら歩いた。


酒屋で飲んでいた旦那衆の集まりに話を聞くと、商店街の外れの路地裏に質のいい装備屋があるらしい。

礼を言い背中に勇者としての応援を受けながら路地裏で店を探すと、ノックベルも付いていない状況寂れた扉が目に入った。


「…こんにちは。装備が欲しいんですけど…」

「……」

「…質のいい装備屋だと聞いて…」

「…らっしゃい。」


入ると無愛想な店主が店の隅で剣を打っており、床や壁には用途ごとに装備が分けられ並べられている。

店主の態度はあまり気にせず、職人気質だと思うことにし、勇者は一通り装備を見て回った。


幸運のバングルと、伸縮性のある防御のガントレットに目をつけ、店主に言って金を払う。


「…装備していくかい?」

「装備していく。」


装備は確かに質がよくすぐに馴染むように身体に収まった。

噂の通りだ、と口にすると店主はむっつりと口を閉じたまま黙った。


…照れているのだろうか。

その反応が少し面白く、もう一度小さく褒める。

すると店主は今度もむっつりと口を閉じたまま黙った。


センスがいい。

職人魂を感じる。

効果魔法の腕もいい。

腕っぷしが強そうだ。

装備屋として間違いない。

仲間にも教えたい。

エトセトラエトセトラ……


勇者はなんとも楽しくなってきて何度も何度も店主と店を小さく褒めた。

その度に店主はむっつりと黙る。

そしてやり取りの総回数が25回目となった時、店主が痺れを切らしたのか違う行動を取った。


「いい剣を置いてる。」

「…、……、これを。」

「、え?」

「この剣をアンタに託す。何かと曰く付きだが、『勇者』のアンタならきっと使いこなせる。そしてきっと冒険の役に立つだろう。」

「……ありがとう。」


勇者は意図せずもう一本の剣を手に入れた。

店主が言うには、名を『黒曜剣』と言い古い魔法がかかった頑丈な剣らしい。

持ってみてすんなりと手に馴染んだので勇者は有難くいただくことにした。


それ以降店主は勇者に構わず鍛冶の続きを始めだし、勇者も用が済んだので店を後にした。…

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