まだ届かない
水瀬彩乃
【読み切り】まだ届かない
「ねぇ、いつになったら私の想いに気づいてくれるんだろうね。」
喋れるはずのない愛犬を前に、私は本音をこぼす。
伝わらない恋に意味なんてあるのだろうか。
あったとしたら…この恋に終わりはあるのだろか。
ー4月、新学期。
私の名前は相田夏希、中高一貫の高校2年生。
(4組か…仲いい人いるかな、)
出席番号一番はもうお決まりみたいなこと。
一番最初に名前が書いてあるからこそのドキドキがそこにある。
「よぉ夏希!!一緒のクラスだな!!」
「あっ…海斗。」
快活な声。
たくましい腕が首元に絡む。
「同じクラスって…本当?5回連続じゃん!」
「奇跡だな、これは。」
「奇跡って…まぁそうかもね。」
無愛想に振る舞ってるけど、本当はちょっと照れくさい。
中学1年生からずっと同じクラスの立町海斗。
サッカー少年なところは未だに変わってなくて、幼さが残った可愛い?男子だ。
「ねぇ、海斗って彼女いるの?」
何言ってんだろ、私。
発した瞬間は何も思わなかったのに、胸がぶわっと熱くなる。
「まぁ、いるけど。」
「え…」
い いたんだ。
そりゃそうだ。
これだけ夢に向かって頑張ってる男子がいたら、普通は放っておけない。
「誰なの…?」
「向田晴夏。超かわいい俺の後輩。」
聞いたことがある。
中等部一の美少女と言われ、彼女が入学してくる際には大名行列ができたと言われる…
「…釣り合わないんじゃない?海斗とは。」
「そーかもな。晴夏は完璧すぎるよ。」
「…完璧。」
やっぱり、向田さんは完璧なんだな。
こんな些細なことで落ち込む、未完成な私とは違って。
「夏希は彼氏いんの?」
「いないけど…好きな人はいるよ。彼女持ち。」
うわぁ、言っちゃった。
頬が火照る。
「叶わない恋って面倒いよな!」
「わかるの?」
「そりゃあ分かるよ。あの人気アイドルと俺は…」
そういことね。
身近な人のことなんですが。
「でもお前可愛いから。その好きな人もお前のとこ行くんじゃね?」
「あっあはは…そうなのかなー」
そんなわけないじゃん。
気づいてよ、私の気もちに。
「海斗せんぱーい!」
後ろから、またもや元気な声が。
後ろを向くと、容姿端麗な美少女がいた。
「おっ、丁度いい。夏希、俺の彼女。」
美少女を抱き寄せる。
少し赤くなった顔でこちらを見てくる。
やめてよ、
「向田晴夏と申します!先輩のお名前は?」
本当に完璧だ。
取り繕う所なんて一つもないんだろうな。
「相田夏希です。海斗の彼女なんだね。」
作り笑いの常習犯。
口角を無理矢理あげて、目尻を下げて。
「はい!いつも先輩がお世話になっております!」
「俺は世話になってねーよー!」
「あはは…」
勝者の笑みを向けられた気がした。
私以外全員敵なんだろうな。
「…ばーか…」
私の想いが届くことはないだろう。
でも、もしかしたらって希望を考えちゃう。
まだ、届かない。
まだ届かない 水瀬彩乃 @hitorichan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます