第6話 祓戸四神について

 今日は最初にお礼をば。

 この創作論がジャンル週間三位に入ってました。いやはや有難い。好き勝手に書き殴ってるだけなのに。本作よりこのエッセイの方がウケるのなんでだろ。

 ともあれ読んでいただき、ありがとうございます。これを機に仄暗の本作PVが伸びてくれるといいですが。



 さて、祓戸四神については、仄暗Ⅱの登場人物紹介にも書いてますので、それとは違う話を書きたいんですが、触りは書いておきたいと思います。


 まず、彼らの役割というかお仕事については、仄暗Ⅱの「呪いの雨」という話の中で霧咲紗月が説明してくれています。

 

「今回は、惟神がたくさん来る予定だし、順当な祓いをやろう。直日神が聞食きこおして瀬織津姫神せおりつひめのかみが流し、速秋津姫神はやあきつひめのかみが受け止めて、気吹戸主神いぶきどぬしのかみが吹き降ろし、速佐須良姫神はやさすらひめのかみが根の国底の国で流離さすらう」


 大祓詞おおはらえのことばを簡単に、いや、乱暴に略すなら、こんな感じです。


 最初に「穢れ」とは、人が犯した罪、死、病、血などをさします。穢れの語源は「気枯れ」でもあり、元気がない状態を指したりもします。本作でも仄暗Ⅱの後半で主人公の直桜が命を吸う気枯れをやらかします。あれは神の御業の反転術・禁術です、一応。

 神社ではよく夏越の祓をやりますね。6月と12月に半年分の穢れを祓う神事です。

 その穢れを祓って失くしてくれるのが、祓戸の神様。西の方に多いと思いますが、大きな神社などは境内に入る前に祓戸社というのがあって、そこで手を合わせることで神域に入る前に身を清めたりします。


 直日神の聞食すというのは、穢れをかみ砕くみたいな意味です。異論は認めます。解釈は諸説ありますんで。聞食すって理解が難しい言葉なんですよね。まぁ、学問として勉強してるわけじゃないんで、感覚的に理解してもらえたらいいかなと思います。


 んで、直日神がかみ砕いた穢れを瀬織津姫神が清流で流します。清く流れの速い川に流して灌ぐようなイメージです。

 その後、速秋津姫神が受け止めて飲み込みます。速秋津姫神は記紀にも登場する水戸みなと(港)神です。

 速秋津姫神が受け止めた穢れは気吹戸主神が強い風で速佐須良姫神に送ります。気吹戸主神は風神で、やはり記紀に登場する神様です。

 速佐須良姫神は貰い受けた穢れを根の国底の国に堕として流離わせる。流離ううちに穢れは消えて失われます。

 これが祓戸の神の浄化です。

 この一連の流れが中臣大祓詞に書かれているわけです。


 よく話題に上がるのは、瀬織津姫神と速佐須良姫神、特に瀬織津姫神ですかねぇ。記紀に登場しない神様として謎扱いされたりしていますが、謎とかは特にないです。

 記紀の編纂とは別部署で、記紀の編纂に関わらなかった人間が作り出した神様だから、記紀にいないだけです。と、個人的には思っています。


 もっと詳しく言うなら、記紀(古事記と日本書紀)と祓詞(祝詞)って、そもそもジャンルが違うものなんですよね。今の時代の感覚から言うと、同じ歴史ある文書になるけど、当時の感覚としては「国の歴史書(外交対策)」と「神様の言葉(国内政用)」っていう違いがある。


 記紀は、中国大陸や朝鮮半島に負けないように「うちも歴史がある国ですよ」って示すための、いわば対外交対策のための国の歴史書です。

 個人的には記紀って、全国に散らばってた風土記をかき集めてきて適当に繋げた小説が国の公的歴史書になっちゃった、くらいにしか私は考えてないです。


 記紀が編纂された当時は似たような歴史書は結構作られていて、中央が指揮を取って作ったのがこの二冊です。公的な歴史書として認められたのはかなり後年です。

 古事記なんて誰か書いたかちゃんとわかってないし、日本書紀も時間かかってるけど、途中で諦めかけて気力でなんとか作ったよ、みたいな感じだし。正史として認められているのは日本書紀の方です。

 一応、どうやって天皇家が出来たかを軸に冒険譚風や物語風に書かれてるし、読んでて面白いですけどね。


 大祓詞は天皇(大王)を筆頭に神様の威厳や有難みを人々に分け与えるための言葉なので、国内政治向け、しかも庶民向けです。庶民にとっては神様の有難いお言葉です。

 中臣祭文とかになって人間向けから神様に向けた言葉とかになってくるとちょっと趣が違ってきますが、それでもこの頃の神事は政と大きく関わっていますので、仏教同様に神事もまた国を治めるための重要なファクターでした。

 だから多分、かなり真剣に金も時間も掛けて作ったのは大祓詞の方なんじゃないかと思う。この頃は外交より国内の政の方が重要視されていたので。

 

 中臣祓詞と呼ばれるのは、中臣一族が祝詞を読み上げていたからなんですが、神祇官の職を奪われそうになって、慌てて大祓詞を作ったなんて話もありますねぇ。以降、神祇官はずっと中臣が継いでいるから、やっかみなんかもあったんでしょうが。

 そうだとしたら、やっぱり必死になって作るよね、大祓詞。

 瀬織津姫神と速佐須良姫神は中臣氏のオリジナル創作神様ってことです。


 そんな背景の中で生まれた瀬織津姫神を始めとした祓戸の神々。

 起源は滋賀県大津市にある厄除けの祖神おやがみ佐久奈度さくなど神社です。中臣朝臣あそん金連かねのむらじはこの場所で祓戸の神々の着想を得て、社殿を作り神を奉りました。

 昔から、伊勢神宮をお参りする前に佐久奈度神社で穢れを祓うのがお作法なのだそうです。遠いなってちょっと思うけどね。

 本作の登場人物たちの故郷であり、この場所から名前も沢山いただいています。


 主人公の瀬田直桜の苗字は瀬田川からもらっています。

 惟神の里・桜谷集落は、この場所の地名の一つで佐久奈度とも繋がるんですが、「山岳裂けて低下の所を開くところがその名の由来」と神社にも残っているそうです。「裂けた谷」→「桜谷」。この辺りの入り口は「八張口」というそうです。

 だから桜谷集落のリーダーは桜谷家と八張家にしました。


 智颯と瑞悠の苗字「峪口さこぐち」は集落の入り口を護る家柄のつもりで名付けました。

 瀬織津姫神の惟神・水瀬みずのせりつは、清流のイメージから。

 瑞悠みゆうは水戸神・速秋津(開都)姫神なので、水のイメージで。

 智颯ちはやは気吹戸主神で風神なので以下同文。


 速佐須良姫神の惟神、榊黒さかぐろ流離るりは、名前の通りですね。

 根の国底の国は、真っ暗で音も光もない闇しかない場所なのだそうです。そんな場所に居たら、人間は気が狂うだろうなと思います。

 一応、「根の国底の国」は「幽世かくりよ」になるそうです。書いてある本にもよるので、一概には言えなそうですが。

 闇の中に自分を閉じ込めた少年流離が今後どうなるのか、御注目ください。


 佐久奈度神社は社殿のすぐ隣に流れる瀬田川の水量がすごくて、怖いくらいでした。めちゃくちゃ大きな川で流れも速いから、金連さんがあの川を見付けて、「穢れ祓えそう。禊できそう」って思うのも、わかるなと思いました。

 川のすぐ向こうには山がそびえたっていて、まさに山を裂いて谷を作った感じです。静かで空気が綺麗な落ち着く場所です。

 ご興味ありましたら、是非足を運んでみてください。社殿も美しく整備されていて、地元の氏子さんたちに愛されているお社なんだなと感じました。


 本作中で須能忍(役行者)が「通っていたから、良く知っている。渓谷の深く、瀬田川の中流にある美しき集落の誇り高き神々。中臣が延喜式の大祓詞に加えるまでは、祓戸大神も惟神も、片田舎の集落の国つ神に過ぎなかった。だが彼らの存在感と力は、天つ神の比ではなかった」と評していますが、本作では中臣氏に発見された時点で祓戸の神々は国津神から天津神に認定された感じになっています。


 ちなみに須能忍は警察庁公安部特殊係13課の班長、死ねない人間、昔の名前は賀茂役君小角(役行者)って設定です。

 死なないんじゃなくてね、死にたくても死ねないから今も生きてる役行者です。

 仄暗Ⅲで後鬼と前鬼も出てきます。

 忍は直日神と仲良し(設定)です。


 今回は本作の話を出し過ぎましたね。

 次はもう少しくだらない話をだらだらと書きたい。



 さて、次回は「草」について。



本作はこちら↓

『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで』

https://kakuyomu.jp/works/16818023212261037641


『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで・Ⅱ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093078564930840


『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで・Ⅲ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093081595698958


※現在Ⅳを執筆中(まだ非公開)。

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