第9話 冥府の番人 後編

「グギィィィ……ウガ、ウガァァ……!」

「まだ生きているの!?不死性を持っていても帝級攻撃魔法をまともに受けても死なないのは魔界においては皇族方だけなのに……」


 ユノアのぶつけた凰帝級広範囲攻撃魔法『煉滅ノ崩焔アポカリプス・フレア』による大ダメージを負っていた冥府の番人は片脚を失いながらもまだ闘志は消えていなかった。

 それ以上に溶けかけていた顔の形は元に戻り失った手脚の部位も再生しようとしている。

 アリサ曰く「帝級魔法は神族を除く全ての種族にとって使われたら最期、魔界大帝等の各世界の君主クラスで無ければ存在ごと消えてしまう代物」らしい。

 覚醒時のユノアの力は王級以上の力を持つ魔界72家門の当主に匹敵あるいはそれ以上だろう。


「アンリ様、覚醒状態が解けます。申し訳ございません……。」


 ユノアはそういうと覚醒状態の姿から元の姿に戻り倒れる。


「ユノア!大丈夫か!!」『アークヒール!』


 俺はユノアに駆け寄り覇級回復魔法『アークヒール』を使う。魔力と生命力を同時回復し瞬時に戦闘可能になれる万能魔法だ。しかし、ユノアはまだ起き上がらない。


「何故だ!アークヒールを使っているのに!」


 俺はただ叫ぶ。無力で非力な自分を責めるように。

 しかしリーネが俺の側に座り語る。


「アンリマン殿下、ユノア様は殿下と同じ魔龍人です。ひとたび覚醒魔法を使えば上級魔族が戦闘で消費する以上に魔力が消費されます。今は気を失っているだけです。ここは私がユノア様を回復させますので戦ってください」

「そうか、ありがとうリーネ。メリッサ!アリサ!カガリ!いけるか?」


 3人は各々「当然!」と言った顔で頷く。


「グギィィィアアアアア!」


 番人が不快な声で叫ぶ。ユノアが紡いだ道を俺が継ぐ。絶対にあの番人は倒してみせる。


「アリサ!俺とメリッサとカガリに強化魔法をしてくれ、メリッサは番人を引き付けつつ足止めを、カガリは俺と攻める!」


「御意!」


 さぁて、反撃開始だ。


 ***

『ガイア・グレイス!』

『グランドストーム・ミラージュ!』


 アリサが使ったの『ガイア・グレイス』は聖級上位強化魔法。物理・魔法攻撃全てを底上げし生命力と防御力も上げ戦闘時は体力・戦闘力を回復する加護をさずける。もう、強化じゃないなこれ。


『ストーム・ミラージュ』は強力な砂嵐の幻影を見せる特級魔法で大抵の魔族には効く。冥府の番人に効くかは知らないが効果があると信じたい。


「ウギャアアアアアガアァ!!!」


 どうやら、メリッサの幻影魔法は効いているようだ。


「次は私の番だな!」『紅翼焔天斬!!』

「グェァアアアア!!!」


 カガリが放った聖級の剣戟が冥府の番人の四肢に刻まれ冥府の番人は苦痛に満ちた響きを上げる。

 斬撃と共に火炎攻撃も付加され相手にとってはかなりのダメージとなる技だ。

 それにカガリのスキル《必中剣》でどのような加護や防御魔法をかけていても必ず相手にダメージが入るスキルだ。


「まだだ、まだ、終わらんぞ!!!!」

「俺も行くぞ!」

 カガリは剣技を叩き込みそれに追撃する形で俺も剣技と魔法を叩き込む。飛行しながらメリッサも弓で攻撃をする。冥府の番人に確実にダメージを与えているはずだ。

 冥府の番人も流石にきているのかよろめきはじめている。


「やつめ、帝等級魔法でもびくともしなかったのに私の剣技は効いているようだな、メリッサ殿、アンリマン殿下を後方に下げろ!いくぞ!」

「カガリ様、まさか奥義を使うのですか!?」

「メリッサ殿の負担も下げ奴にトドメを刺すにはこれが一番だ。我が不知火流奥義をととくと見よ!」

 カガリは叫ぶと大剣を太刀に変えて構える。カガリの構えはかつて見せてくれた不知火流の構えだ。

 相手の前に立ち目を瞑り刀を構える。


『不知火流不知火公級秘奥義 不知火双焔斬!!』


 一瞬の動きだった。カガリの姿が6人に見えたと思うと2人になり左右から火炎を纏った刃の剣戟が冥府の番人の両肩を切り裂く。


「ウグアアアアアアア!!!」


 冥府の番人の両腕は斬れ落ち傷口は火炎で焼かれている。番人も先程の比にならないぐらいの叫びを上げている。


「ハァハァハァハァ……」

「メリッサ!カガリを回収して回復を!」

 カガリは奥義を使ったせいか満身創痍のようなので俺はメリッサをカガリの元に使わせた。

 しかし、今にも倒れそうなカガリはメリッサの方を見て叫ぶ。


「メリッサ殿!来るな!!!」


 必死に手で来るなと払いのける仕草を出している。もしや、冥府の番人に動きがあるのか?

 俺は冥府の番人の方を見つめる。正確にはやつの口元を見た。口が微かに動いている、その動かし方はなにかの魔法を詠唱をする時のような動かし方だ。


「馬鹿な!巨人族は魔法の類は使えないはず!」


 メリッサは取り乱す。アリサから巨人族をはじめ各種族や魔獣、魔物の類の特徴を教えてもらった。

 巨人族は神族系統の血を引く種族でない以外は魔法は一切使えない。魔力は持つが魔法が使えない仕組みになっているのだ。例外を除き未来予知が出来る巨人族 《トロル族》がいるが攻撃魔法は使えず詠唱は出来ないのだ。この場合はスキルと言った方がいいだろう。

 なのに、冥府の番人は冥界に住む巨人族で魔法は使えない。いくら魔界大帝からどのような力を授けられても魔法は使えない仕様なのだ。


「~~~~~~」


 聞き取れないが確かに詠唱が始まるつつある。だか、俺の第六感か魔界皇子として身につけられたスキルなのか分からないが龍人族が使う詠唱の気がした。


「メリッサ!カガリに結界魔法を使ってくれ!1つの可能性にかけてみる!」

「殿下、何をおっしゃいますか!?殿下お待ちを!」

「いまならこの戦いを終わらせることをできるんだ!俺を信じろ!」


 我ながらクサイ発言をして少し恥ずかしい。前世の時もアラサーの癖して少々クサイことも言っていたが責任感をあまり持っていなかったようなクズ野郎だったと自分では思う。だけど、今は違う。

 知らない人達とはいえ俺の事を信じて仕えてくれる方々を助けたいという強い思いが込み上げる。


「真実を導き出しす光よ!汝の真の姿を表す光を放て!」

『オーラル・シャイン!』


 幻影魔法と変身魔法を強制解除する上級魔法だ。等級に関係なく魔法の変身を解くことが可能なのだ。

 魔族同士ではほぼ使わないが人間が魔族や魔物と戦う時に使う魔法で人族用の魔法なのだがアリサが「何かのために覚えましょう」と教えてくれたのだ。


「ッッッッッッ!!


 冥府の番人は顔を歪める身体を震わせ声にもならない叫びをあげる。


『龍神烈火・灼滅の咆哮!!』


 父であるリリューク大帝が特別授業と称して魔龍人の秘技を教えてくれた事がある。まだ試したことがないがその秘技を冥府の番人目掛けて唱えた。技的には相手を覇気でスタンさせて槍のようなブレスの集合体を相手にぶつける魔法だ。

 中級魔法の「ファイア・スピア」に似ている。


「ギャアアアアアアアア!」


 冥府の番人は叫びを上げて爆散した。いや、正確には真の姿を表したと言うべきか。


「アンリ様!大丈夫ですか!?」


 ユノアとリーネとアリサがやってきた。ユノアはリーネの回復魔法のおかげで元気になったようだ。これで安心だ。


「殿下、これで終わりましたな。」


 カガリは刀を鞘に戻して冥府の番人がたっていた場所に立ち込める煙を見て呟く。


「悪い、リーネ。カガリに回復をしてくれ」

「はい!分かりました!」

「リーネ殿、かたじけない。」

 床に腰をかけたカガリにリーネは回復魔法をかける。

 俺たち4人は冥府の番人がいた場所に近づく。そして、冥府の番人いやその正体に声をかける。

 今までの戦いはなにかおかしかった。説明があっても納得いかない事がわかったが全ての疑問に納得出来た。


「父上、いい加減正体を表してくださったらどうですか?」


 冥府の番人が立っていた影に向かって俺は言い放つ。


「さすがだなアンリ、朕の正体を見破るとは流石は帝国皇太子である」


 俺たちの前に姿を現したのはドラガルフォン朝魔界帝国魔界大帝リリューク・バエル=ドラグ・ドラガルフォンだった。

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不運な男の異世界転生〜転生したら魔界皇子になっていた 柳の下 @ooskask364

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