第8話 冥府の番人 前編
「光を司りし精霊よ 我らを覆う闇に導きの光を灯せ」『ルクス・ノクス!』
アリサがローブの懐から取り出したエメラルドの装飾が施された杖を空に掲げ詠唱する。
辺り一面、深淵の闇だったのが一気に晴れて部屋全体が真昼のような明るさに照らされる。
それと同時に禍々しい雰囲気が周囲から消えていく。
「アリサ、この魔法はなんだ?」
「はい姉さん!この魔法はダンジョンなどで灯りを照らす魔法ルクスとダンジョンに住まう魔獣や魔物を追い払う《ノクス》を融合させた融合魔術なんです!(ドヤァ)」
「融合魔法か、なるほど流石は冥級なだけはあるな」
それほどでも〜と満更ではない感じで喜ぶアリサ。よほど、姉にマウントが取れて嬉しいのだろうか上機嫌になっているがこういう時は絶対良くないとフラグを建てているのでやめて欲しい。
「アリサ、魔法は戦闘で温存しておきたいからあまり使わないほうがいいんじゃないのか?」
「いえ殿下、こんな時に魔力消費を抑える魔道具 『封魔結晶』を持ち歩いているので魔力消費は微々たるものですよ。冥級魔導士はそもそも上位師級魔法を連発しても全然消費されないんです」
つまりはアリサはド○○エシリーズで言うところの上級職だからMP消費量は少ないのかそれはそれはありがたい。
「さて、アリサだけにいい所は見せないとですね、ハルピュイア奥義 」『神鷹千里眼』
メリッサが使った特技は前世の世界で言うと1000キロ離れた先にいる敵の所在を突き止めることが出来る力だ。しかも魔力の痕跡や足跡、生活音、移動する時に出る音等を20時間前から現在に至るまで観測可能となる優れものだ
さらにこの能力は同等の力、またはそれ以上の力を持つ魔族に情報共有ができる。チートすぎんだろ。
「ユノア様、敵の位置が把握出来ました!そちらに送ります。」
「メリッサさんありがとうございました!敵はどうやら宝物庫最深部にいるようです。それでは敵のいる場所まで転移しましょう」
えっ、転移魔法まで使ってラスボスまでいけるのかよ。向こうもチート能力を与えられていると思っていたがチートしかいないじゃないか。
『《エーテル・シフト》魔空転移!』
「ちょ、ユノア待てって!!」
俺の言葉は虚しく紫色の光が6人を包み視界を遮る。
「さて、あれが冥府の番人ですか」
ユノアは興奮気味に右肩に下げているレイアを抜く。彼女はマントにプレートアーマーを装着しているがおへその部分は露出しスカートは膝上くらいだがガントレットの類はしていないため肌色面積が多いため少し不安だ。
「これから冥府の番人とカチコミに行く。だけどこのままいけば負ける可能性は高い。今から作戦を説明する」
指揮官モードの俺にみんなは耳を傾けてくれた。
これから行われるのは死闘だ。作戦がなければ勝てない。まずは役割を分担しみんなに作戦を伝えることにした。
・メリッサ (前衛・陽動)
① 自分に高速飛行魔法をかけた状態で上空から弓矢で攻撃して目をそらさせる。
② 相手の視線が前衛に行ったら風魔法で引きつける。
③ 飛行中に鎖を使って巨人の動きを封じる。可能であれば目に攻撃を集中させる。
・アリサ (中衛)
① 番人から離れた位置で氷結系の魔法を放って足止めしてそれと同時に融合上位戦闘魔法を放つ。
② 支援砲台として間断なく攻撃する。
③もし、全滅しそうなら究極奥義を使う。
・リーネ (後衛)
① 全体物理攻撃強化魔法を俺、ユノア、カガリ、メリッサにかける。
② 全体防御魔法全員にかける 。カガリ、メリッサ、アリサ姉妹に個人防御結界を貼る。
③ 前衛の体力消費状況に応じて回復を行う。
・カガリ (前衛)
① 前衛として番人に率先し番人と戦う。
② 目・脚・腕など急所を切りつけて敵の動きを止める。
③ 敵に致命傷となる技を与える。
・ユノア (前中衛)
①魔法攻撃と物理攻撃の波状攻撃を浴びせてダメージを与える。状況に応じてアリサの支援を行う。
② 番人の装備を破壊する。
③ 俺、カガリ、アリサ、メリッサで連携攻撃をする
・俺(前衛)
① カガリ、ユノア、メリッサと共に前衛を担当
② 終盤戦で最終奥義を発動する。
「戦術はこれで行こうと思う、みんなは大丈夫か?」
「はい!アンリ様の采配なら必ず倒せます!」
「悪くありません、戦術論を殿下に教えておいて良かったです」
ユノアは大きく頷き、メリッサは微笑んだ。メリッサは単に俺の侍女長ではなく礼儀作法と戦術理論の講師でもあるのだ。
「みな、身構えよ!話題の主の登場だ。」
カガリが叫び皆が構える。この覇気、魔族の中でも最上位種が放つものと同等だろう。
俺はこれでも魔界帝国皇太子、魔界ではNo.3の実力を持つ。やろうと思えば72家門門閥魔族当主でさえも従える覇気を放つことが出来るのだ。
そんな俺が恐怖で脚がすくみ戦う気力を失われ全身から力が抜けていく感じを覚える。
「あ、アンリ様、恐らくか、彼らは大帝陛下より大魔皇覇気を授けられています!
「ッッ!やはりか……!」
《大魔皇覇気》
魔界大帝のみが纏うことを許さ主神を除く1部神族を除き全ての種族を畏怖させることができ魔族と魔族と同盟関係にある全種族と魔界に住まう全ての種族を絶対服従させる覇気を喪失させる力で魔力、闘争心、生命力をも奪いさることができて、全能力値を6倍にまで上昇させることが出来る。
俺と母である皇后ドロテーアは《魔皇覇気》と呼ばれ覇気を持っている。
覇気の力も及ぶのは魔族と魔界に住まう全ての民限定で全能力値上昇も4倍までだ。
大魔皇覇気は1度父が俺の力を測るために部分的に解放した事があるがたっていられないほどだった。
「姉さん、だ、ダメです。ここは退く方がいいのでは?」
「ダメだアリサ、なんのために殿下は宝物庫まで来たと思う?このような状況が人界でも起こり得るかもしれないのだぞ?」
アリサは大魔皇覇気の影響で顔色が青白くなり戦うのを放り出してしまいたい感じだ。メリッサも気丈に振舞っているが顔色が良くない。マズイ。
「臆していても始まらないぞ皆の者!おい、聞こえるか冥府の番人!我が名は《カガリ・ヴァルキュリー=オルクロード・シラヌイ》!魔界帝国軍近衛中将にして七魔剣聖が次席ィ!推してぇ参る!ウォォォ!!」
カガリは高速移動魔法で冥府の番人の左脇下、ちょうど番人の死角となる場所に潜り込み背中に帯びた大剣を引き抜き抜いて切りつけた。
ザシュッ、ゴトッと大きな斬撃音と何かが落ちる音が宝物庫内に鳴り響く。
『ルクス・ノクス』で照らされているとはいえ俺たちがいる場所とカガリと冥府の番人がいる場所は700メートルは離れている。上手く見えないのだ。
「俺たちもカガリに続くぞ!」
俺たち5人はカガリと番人がいる場所へ急ぐ。
「あっあっ……大丈夫ですか!カガリさん!『ハイヒール』!」
治癒士リーネは震える声で上級回復魔法を唱える。
敵に痛手を与えたのなら回復魔法は必要ない、もしや!と当たりを見回した。
「クッ……」
うめき声をあげて床に倒れ込むカガリと必至に回復魔法をかけるリーネの姿があった。
魔剣聖を一撃で仕留めるなんてどれだけ強いんだよ全く。
「大魔神様よ、鳳凰龍神よ、我に宿る鳳魔龍族の血よ目覚めよ。偉大なる魔界大帝の御子を護りし力を我に授け給え。魔神と鳳凰龍神に背きし賊徒を滅するために覚醒せよ!」
『《ネフティス・ノヴァ》鳳龍鵬翼!』
ネフティス・ノヴァユノアは腰のサーベルを引き抜き天に掲げ詠唱した。
ユノアの周りを光で包まれ輝く、まるで太陽のような輝きで目を開けることが出来ない。一瞬だけ、目を瞑り開ける。
そこには4つの鳳凰の翼を生やし紅と白を貴重にしたオリエンタルな肩と臀部を出した服装、古代エジプトの女性が着てそうな服を纏ったユノアがいた。
「ユノア!その服装は一体!?」
「すみませんアンリ様、落ち着きましたらお話します少し状況が変わりましたが作戦をお続け下さい」
「分かった……。メリッサ、アリサ!プランAだ!」
「「はい!」」
ユノアが使ったのは魔法を使う時に唱える詠唱呪文ではなく上位魔族、特に上位魔物や竜種が人のカタチを保って生きている者のみに使える魔法 《覚醒魔法》だ。
「滅せよ!魔帝の覇気を纏いし忌々しい巨人がァ!」
『《アポカリプス・フレア》煉滅ノ崩焔』
「皆さん気をつけて!」『アーク・セイクリッド・シールド』
ユノアの絶叫と共に20メートルはあろうマグマの如き火球が出現し高速で冥府の番人に直撃すると同時にリーネが広域防御結界を貼る。
耳を劈く爆音と焼け焦げた匂いが室内に充満している。リーネが咄嗟に防御結界を貼らなければ俺達も巻き込まれていただろう。それにしても俺は自分が情けなく感じた。ユノアの詠唱の時に「逃げろ」と一言叫べば皆も注意し何らかの行動が取れたはずだ。
もっと多くの実戦経験を積まなくてはいけないということか。それよりも皆の安全を確かめないとな。
「みんな!大丈夫か!メリッサ!アリサ!ユノア!カガリ!リーネ!」
「はい、メリッサは無事です」
「アリサも無事でーす」
「殿下大丈夫だ、リーネ殿のおかげで傷も塞がった」
「私も無事です!」
「………」
ユノア以外は元気よく返事が帰ってきた。
同種固有スキル的なものでユノアの生命エネルギーは感じ取れるので大丈夫ではあるが単に覚醒状態のせいでの声が出ないのだろう。
「アリサ!ユノアが使ったあの魔法はなんだ?見たことないぞ!」
「殿下、あれは凰帝魔法です。帝等級の魔法なんて私も書物でしか見たことがありませんので詳しいことは分かりませんが。しかし、ユノア様は覚醒時とはいえ聖等級以上の魔法を使うと身体に負荷がかかりますので下がらせるべきです」
「わかった、おい!ユノア!聞こえるか!返事をしろ!ユノア!」
何度もユノアに呼びかけるが返事をしない。上を見上げると空中に浮遊し虚空を見つめるユノアの姿があった。ユノアは強大な覇気を纏い番人を睨みつけ対峙している。このままでは埒が明かない。
俺も魔皇覇気を使う時が来たようだ
「魔界を統べる魔界大帝リリューク・バアル=ドラグ・ドラガルフォンの皇太子 アンリマン・デモス=ドラグ・ドラガルフォンが命ずる。ユノア・イシス・ネフティリア=ドラグ・アガレシア!我の綸旨をしかと聞け!直ちに正気に戻り我と我の仲間たちと共に敵を滅せよ!」
パァンと何かがはじける音がした。刹那、目を見開き浮遊するユノアは地上におりたち俺たちの方に顔を向ける。その顔はどうやら正気に戻っていた。
そして魔法を放った方を向き愕然としてユノアは泣き崩れた。
「アンリ様ァァ!申し訳ございません!」
「大丈夫だユノア、心配するな。みんな無事だ。大丈夫だ。」
ユノアは後悔と強力な魔法で仲間たちを傷つけたかもしれないと思い激しく自分を責める意味で泣いたのだろう。
だが、俺や俺の仲間はそんな事で仲間を責めやしない。カガリとメリッサはユノアの頭を撫で、アリサも背中をさすりリーネも「ユノア様が無事でよかったです」と励ました。俺は泣き崩れるユノアを俺は抱きしめた。
「ユノア、君がいないと俺は辛い。だから一緒に戦って欲しい」
ユノアは涙を拭いこれまでの自責と後悔の念を払拭した表情を見せる。
「ありがとうございますアンリ様!これからからも末永くよろしくお願いします!」
「こちらこそだユノア」
これじゃまるで告白だなと思いつつみんなの無事も確認できたし冥府の番人のトドメでもさすか。
「みな、まだ終わってないようだ。伏せろ!」
『ドラグーン・ガーディアン・オーラ!』
カガリの叫びに呼応して俺は龍の魔力守護オーラをみんなに使う。個々に無敵特性並の防御力を授けれる魔皇龍種の固有スキルだ。
前世の世界なら150mm砲の攻撃やミサイル攻撃が直撃しても無傷でいられるチートスキルだ。
「嘘だろ……??」
俺は前方に立ち上がろうとする巨人の姿を見て改めて奴らがバケモノであることを再確認する。
冥府の番人は左腕と右脚も顔の3分の1を消し飛ばしながらも生きていた。更に消し飛ばされた顔は瞬時に蘇ったのだった。
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