第7話 ユベル宮の宝物庫
ユベル宮殿 地下宝物庫扉前。
ユノアに腕を引かれて連れてこられてしまった。
俺を呼んでいたメランシーナ憲兵大佐は「急な任務ができたのでメリッサ近衛准将に鍵を預けて起きました」と言ってさっさとどこかに行ってしまった。
そういえばメリッサは俺の親衛隊隊長のため近衛准将の階級と帝国軍の軍籍を持っている。
ユノアが「人界に行くのならお二人も」と俺の魔術の先生であるアリサと剣術指南役のカガリを連れてきていた。地下宝物庫までへと続く階段は長いのだが高速飛行魔法で30秒もかからず行けた。
宝物庫の扉の前にはメランシーナ大佐の言う通りメリッサが居た。
だが、その表情は強ばっているしどこか様子が落ち着かない、何か変だ。
「殿下、ユノア様、本当に地下宝物庫に行かれるのですね?」
「もちろんです、メリッサさん!人界に行くための装備を整えないと私やアンリ様が人界にいる魔族や人族にやられてしまうのよ!?」
「あぁ、ユノアの言う通りだし自分の目で装備を見ておきたいんだ」
メリッサはいつも以上の真剣な顔で聞いてきた。
ユノアは興奮気味に、俺は冷静にメリッサの問いに答える。
転生後、俺はユベル宮殿内部の部屋はほとんど入ったことがあるし広大な宮殿だが秘儀やメリッサ達のおかげで迷子にならないほどユベル宮殿の事は知り尽くしているが地下宝物庫に関しては秘儀で受けた知識にもないしメリッサをはじめ家臣達は教えてくれない。
両親もたまに宝物庫の話題は出すけ何が保管されている具体的には教えてくれないのだ。
「メリッサ、もしかして地下宝物庫に国璽とか国を滅ぼす危ない魔道具があったりするのか?」
「いえ、国璽の場所は皇帝皇后両陛下と宰相閣下しか知りえませんし、殿下もあと一年もすれば陛下から国璽保管庫の場所は教えてくれますよ。国璽と地下宝物庫は関係ないのですよ……それにそのような魔道具の類は魔界にはありません……」
「そうなのか。だけどメリッサ、なんでお前はそんなに歯切れが悪いんだ?」
「別に私は冷静ですよ!」
必死に冷静ですオーラを出しているがかなり動揺しているのを俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「メリッサさん、隠さなくてもいいです。地下宝物庫は『冥府の番人』が守っていると聞いています。アンリ様や私、それに魔剣聖であるカガリ様や冥級魔導士のアリサ様でさえも苦戦する相手が宝物庫を守っているのですよね」
「は、はい。」
メリッサは震える声で答えた。だから歯切れが悪く必死に宝物庫に行くなオーラを出していたのか。
それにしてもユノアが宝物庫の知識を持っているのは納得がいかない。それにしても『冥府の番人』なんてやばいワードでしかない。
「メリッサ殿、紅蓮の魔剣聖と呼ばれている私を見くびられては困りますな!」
「そうですよ姉さん!私だって等級は冥級魔導士!特級の姉さんなんかよりはるかにつよいです!昨日、ヴァルディナス大公殿下より究極奥義『エンド・オブ・アブソリューテ』を伝授してもらったんですよ!」
俺の裏に控えていたカガリとアリサがメリッサに抗議した。
カガリは魔界帝国軍最精鋭『七魔剣聖』次席だし剣術は俺なんかよりもずっと強いしなんて言ったって現役の帝国軍の将軍だ。
アリサは冥級魔導士で今でこそ歴史オタクだがかつては帝国軍魔導士師団に所属していた元軍人。魔術戦闘の実戦経験も相当積んでいるかなりの手練。ヴァルディナス流魔術の宗主である『グリモワール・オロバス=ゴーズ・ヴァルディナス』から究極奥義を授けてもらったのは初耳だぞ、そういうのはちゃんと報告して欲しいものだ。
「皆の覚悟のほど、しかと聞きました!」
「「!?!?」」
目の前のメリッサの声色が急に変わった。だが、聞き覚えのある声だ。
「「「皇后陛下!!」」」
声の主は魔界帝国皇后ドロテーアだ。 俺以外は声の主が分かるといなや皆、即座に地面に跪く。
皇后は皇帝に次ぐ帝国の実力者であり彼女達も皇帝皇后に謁見できる身分であるが本来であれば許しが無ければ面をあげることは許されない。
「みんな、私困らなくていいですよ。面を上げて!アンリちゃんはずっと私を見てなさい」
皇后陛下のお許しが出たのでみんな面をあげる。本当に大河ドラマか時代劇のような世界だなと実感すると同時に母の言葉を無視する。
「ユノアちゃんのもうした通り地下宝物庫は冥府の番人が護っています。アンリちゃんの申した通り国をも滅ぼしかねない魔道具や古代魔道具アーティファクトの類も多く眠っていますし魔神教の大神官や大司教でさえも解呪出来ない呪いの魔道具もあります」
「やっぱり宝物庫にはやばいアーティファクトが眠っているんだな」
コクリとドロテーアは頷く。予想は着いていた、皇帝夫妻であり国の最高機密を知りうる身分をしる両親が口を噤むということは息子でさえも触れて欲しくないものが眠っているものだと。
「母上、この際アーティファクトは置いておき冥府の番人のことを教えてくれませぬか?」
「仕方がありません。アンリちゃん、いえ、皇太子アンリマン心して聞きなさい」
「は、はい。母上」
母の声色が清楚で優しい聖母のような声から魔族を束ねる威厳ある皇后の声へと変わった。我が母ながら威厳に満ち溢れて身体中が強ばっていく。1種の魔術の類かもしれないな。それより、冥府の万人の話だ。
「冥府の番人は魔界より地下にある死者のみが住むことが許される冥界の王府である冥府を守っている者たちです。
冥府の王たる冥王神モトシルバ・ヴァルナプスの力により作りだした不死性を持つ巨人族たちです。」
冥界、この世界にも存在するんだな。魔族やエルフなどの龍族は長寿だし魔龍人種なんて万年以上は生きると言われるほどの長寿種だ。人族の寿命ことは詳しく魔族も人族も知らないが生きている以上、必ず死ぬだろう。
それに冥界に住む住人は全て死者で不死身。万国共通、いやこの場合は万界共通なのだろう。
「冥府を護る番人が何故、地下宝物庫にいるのですか?もしかして父上の勅令ですか?」
「いえ、陛下の御代より以前です。ドラガルフォン王朝成立以前の歴代魔界王朝の時代から宝物庫を守っています。」
ドラガルフォン朝魔界帝国は5000年の歴史がある。
死後の世界から派遣された巨人族だ。寿命の概念は無いのだろう。
「その巨人族は宝物庫を守る使命を帯びているのでしょう。皇帝陛下より宝物庫を護る特別な力を与えているのでしょう?」
皇后ドロテーアは頷く。
やはりそうか。じゃなきゃ危険な物置に冥王神の力を得ている巨人を借り受けたりしないだろう。
「母上、いや皇后陛下!どうか冥府の巨人の力を教えてください!」
「分かりましたアンリマン。彼の者は不死性以外にも魔族以上の物理・魔法攻撃両面に対しての耐性と超速という速さの自然回復力を持っています。物理攻撃しか出来ませんが力押しでは魔龍人種である貴方やカガリでさえも勝つことは不可能です。さらに陛下より本来は使えない魔法攻撃を使える加護を受けており彼らが持つ装備も破壊することは不能です。幻術の類も聞きません」
バケモン通り越してラスボスやないか!とツッコミたくなるがそれぐらいしないと宝物庫を守れないだろう。
だからメリッサに化けた母上は俺たちを止めようとしたのだろう。
皇后ドロテーアの話を聞いていた他のメンバーは皆
「やっとアンリ様に私の真の実力を見せる好機が来ました!」
「ふふふ、久しぶりに体を動かすのも悪くありませんね……クックッ……」
「冥府の番人がどれほどが知らぬが帝国最強と並ぶ紅蓮の剣聖の力見せてやろうぞ!」
あんなラスボスみたいなやつの話を聞いて女子たちは血湧き肉躍る闘いに目を輝かせている。
普通は逆なんだがなぁ……。
「アンリ、これは父上があなた達に託した試練であります。冥府の番人を見事倒した暁には魔界に伝わるあなた方に相応しい装備を下賜します。」
「御意!必ずや冥府の番人を打ち倒し父上と母上の御前にて冥府の番人の首を上げて差し上げましょう」
「流石は我が息子、魔界帝国皇太子です。秘儀を用いなくても心は成長していたのですね……」
ドロテーアの表情はどことなく安堵していた。
自分の息子が勝てないかもしれない、果たせないかもしれない試練を仲間と一緒と言えど自分の意思で果たそうとしているのを皇后としてではなく母として嬉しいのだろう。
前世で引きこもり生活を脱して復帰した時の母の顔が蘇る。
「アンリ様、冥府の番人戦はチーム戦となります。アンリ様はやがては帝国軍最高司令官たる大元帥になられる御身、指揮官として私たちを導いてください!」
「ユノアの言う通りだ、それとありがとう。ユノア、お前にはチームの参謀とサブリーダーを任せる。俺も指示を出し戦うがお前の力を俺に貸してくれ!」
俺の決意にユノアはとびきりの笑顔で宝物庫の前に進む。
「成長しましたね殿下!私が教えた魔法戦闘技能見せて下さいね!」
「殿下ァ!剣技の方も成長しているはずだ、頼みますぞ!」
「ああ、みんなよろしく頼む!」
俺の力は自分でも未知数だ。だが、みんながいれば冥府の番人相手でも戦えるだろう。
俺たちが宝物庫扉の前に行く前にユノアが言う。
「こういう時は円陣を組んで手を合わせて決意を表明すると教わりました」
「円陣か、みんなやるぞ!」
カガリとアリサは顔に??を浮かべている。魔族には無い文化であろう。ユノアがどこで知り得たか知らないがこの際どうでもいい。
「みんな円を組んで真ん中に手を置いてえいえいおー!ファイト!って叫ぶんだ!」
「ふぁいと?」
「なんだそれは」
「戦うぞって意味の人界の言葉らしいよ!」
アリサとカガリは理解したのか直ぐに円陣を組んだ。
「それでは行きますよ、アンリ様親衛隊ファイトー!ファイトー!えいえいおー!」
ユノアが音頭をとる。
「「おおおお!!!」」
俺たちを見たドロテーアは微笑みながら話す。
「皆様、準備は終わりましたね。4人だけは心もとないので助っ人をお呼びしました。
さぁ、おいでなさい」
「御意!」
助っ人として現れたのはメリッサと1人は魔神教の治癒士の装飾を纏っている人族に似ている魔族の少女だ。
メリッサを助っ人として呼んだのはやっぱり母上は心配してんだな。治癒士の方はよく分からないけど。
「メリッサの方は皆はわかると思いますがここにいる治癒士は魔神教の新たなる若き賢者にして治癒士 リーネ・ラピス・アヴァルシアです。そなたらには治癒士が足らぬであろうから治癒院より呼んだのじゃ」
「リ、リーネ・ラピス・アヴァルシアで、です。よろしくお願いします」
リーネの声は震えていた。彼女はかなり緊張している。突然、皇后に呼び出されて皇子のパーティにぶち込まれてラスボスと戦うから緊張するのは無理はない。
「リーネ、俺はアンリマン・デモス=ドラグ・ドラガルフォンだ。メリッサは一緒に来たから分かるよな。
この銀髪金銀妖眼ヘテクロミアのお姉さんがユノア、紫ウェーブロングのお姉さんはアリサ、紅いポニーテールで灼眼のお姉さんがカガリだ。みんな優しいから安心してくれ!」
一通りチームメンバーの紹介をリーネにすませた。
チームの女子達は
「ユノアです、よろしくお願いしますリーネさん!」
「リーネちゃんっていうんダネ‼️元気カナ⁉️今度オジサンと遊ばナイ❓ちな、どこ住み??ヌヘヘww」
「私はカガリだ。剣士をしている、戦いは任せてくれ」
「改めましてメリッサです。あそこの変態女の姉と殿下の守役を務めています。アリサあなたは前衛確定です」
そんなぁ!!!とアリサの嘆きの叫びが聞こえたが流石に魔界でオジサン構文は転生者の俺からしてもキモイし引く。てか、魔界にもオジサン構文があるんだな。転生者でも来て教えたのか?この闘いが終わったら調べるか。
「それでは助っ人も揃い準備が整ったようですので鍵を開けますね」
ドロテーアは宝物庫の鍵を開ける。鍵を入れると同時に扉が開かれた。扉の先は漆黒の闇、まさに深淵だ。
「アンリ、武運を祈ります」
「ありがとうございます、母上では行ってきます!」
俺たち6人のパーティは宝物庫の中へと進んで行った。
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