第6話 魔剣聖 カガリ

魔界帝国皇帝の居城 『ユベル宮殿』は5つのエリアに分けられている。

皇帝が座す玉座の間こと『ヴリトラーナの間』や皇帝の執務室など帝国の政治中枢を司る場所がある中央宮殿を軸に北園 東園 南園 西園が存在する。


これらのエリアの説明についてはいずれするが今日は東園エリアの説明をしよう。

東園エリアは皇族専用の狩場があり近衛軍・皇宮衛兵隊・皇帝親衛隊を統括する禁衛府、皇宮警察本部、宮廷騎士団本部と彼らの訓練施設がある。

訓練場は例えるなら東京ドーム6個分ぐらいあるであろう広大な野外演習場、剣術道場、武術道場、弓道場、魔道兵器射撃場、魔法戦闘訓練場、グラウンド、水上戦闘施設、戦闘用魔獣牧場と訓練場など様々な施設がある。

ここでは主に皇族、近衛軍将兵、宮廷騎士団などのユベル宮を守護する武人が使用するが許可さえあれば諸侯や貴族の子弟でも参加が可能だそうだ。


-東園 第1剣術道場


「ハァァァァ!!!」


「イ゛ェアアアア!!」


大きな叫び声とと共にキィン、バキンと剣と剣が交わる音が道場に響く。

「そこだ!!」

今日は魔界帝国皇太子アンリこと俺の剣術指南の日である。

俺が相対する全身紅色の鎧を纏った剣士が見せた一瞬の隙をつき剣士の死角となっていた側面から剣技を叩き込む。剣技を放つと同時に俺は自らに高速化と幻惑魔法をかけて相手の反応を上回る速度で剣技が打てるため避けられ無いはずだが……

「フン……甘いぞッ!」

「なにィ!うわぁぁ……!!」

ゴォォォンと5メートルは吹き飛ばされた。

「その程度で私の隙をつけたとでも?魔術を使えば魔力が発生する。魔力感知されないと思ったか?」

「いえ、高速無詠唱なので師匠でも察知できないと思いまして」

俺が使った『高速無詠唱魔法』は簡単に言うと脳内で使いたい呪文を再生して発動する魔法で普通の詠唱魔法や無詠唱魔法と違うのは技を使うと同時に場面に合わせて自動的に発動するものだ。

高速無詠唱魔法発動時の魔力量は魔族が発している魔力量と変わらないためかなりの魔力探知をしないと察知できない。

だが、俺の師匠である鎧剣士は俺が放った高速無詠唱魔法を交えた剣戟をかわした挙句、俺の脇腹に一撃を加えた。

「なんで師匠は私の高速無詠唱魔法がわかったのですか?」

「私はこう見えても灼眼の剣聖と呼ばれている。れっきとした剣聖、つまり聖級の剣士だ。高速無詠唱魔法のことも研究はしているし私の魔眼で捉えることが可能だ」

なるほど、だからか。師匠は剣聖なのか。灼眼と呼ばれているのも燃えるような瞳をしているからか。

顔は鎧のせいで目しか見えないけども。


高速無詠唱魔法自体、本来はかなりの魔法技能で聖級以上の実力がないとまともに使えないと俺の魔術の師匠 宮廷魔導師アリサが言ってたことを思い出した。


「師匠!もう一度剣術の稽古お願いします!」

「いや、今日はこれくらいにしよう。殿下も明後日はには人界に行かれるのであるから休息を取るように」

剣術訓練の時は違う優しい声で休むようにと言われたからには仕方なく今日は休むことにしよう。

俺は前世で剣道2段の段位を持っていた親父から剣道や剣術を習い居合の基礎も教えて貰ったからこの世界でも剣術指南の授業が好きだ。


俺に剣術を教えるのは帝国近衛軍第1禁衛剣士団所属『七魔剣聖』第2席 『カガリ・ヴァルキュリー=オルクロード・シラヌイ』中将。

甲冑のごとき鎧を身につけているがれっきとした女性で紅い髪のポニーテルと燃えるような灼眼と額に生える紅い2本の角が特徴のThe 女騎士もとい女武者と呼ぶに相応しい王鬼オルクロードだ。

彼女は350歳にして魔界帝国近衛軍最精鋭部隊である『七魔剣聖』の次席に上り詰めたまさしく『剣鬼』だ。

そんな彼女の二つ名は《紅蓮の魔剣聖》。

彼女をはじめ『七魔剣聖』は二つ名を持ち皇族の剣術指南役を務めており魔界帝国にある各流派を教えている。

魔界剣術の流派は人界で栄えている流派に魔族の戦闘様式を加えたものが多く言わば魔界発展型だ。

基本的なのは『魔剣流』で剣士を目指すものなら誰でも入らなくては行けない流派だ。

他の流派としては『剣聖流』『龍神流』『双神流』

『闘神流』『邪剣夜行流』『魔神流』『鳳凰流』『紅蓮流』『不知火流』があり『魔神流』と『龍神流』が今の魔界では台頭している。

それぞれの流派の説明はまたしよう。


皇族である俺はほとんどの流派の剣術と剣技をカガリに叩き込まれた。


「殿下は筋が良い、魔界に伝わる有名な流派を全て叩き込む甲斐が有る」

「全部なんて無理ですよカガリ……」

「無理と思うから無理なのだ!さぁ剣を取りなさい」


と言いながら稽古をするカガリの技は理論的に説明するより体で鳴らし実戦経験を積ませて教えるタイプだ。剣を振るうときのカガリは輝いて見える。


そんな彼女は不知火流の総師範である。

不知火流剣術は主に幻術系魔術を使い相手を攪乱したところ斬り付けたり、閃光系魔法で目をくらまして一突きで倒したり、自分を弱く見せて相手を誘い出し不意打ちを狙い確実に仕留める。場合によっては飛び道具や仕込み刀を使ういわゆる暗殺剣だ。


不知火流の剣技を教える時は「私は堂々とした剣を振るいたい……」とカガリはボヤいていた。


カガリが得意として教えるのは3つの流派だ。

まずひとつは『龍神流』。

素早く敵に斬りかかり間断なく攻撃を与えて相手をひるませ龍のブレスのような高火力の剣戟を敵に叩き込み倒す力押しの剣技だ。

もうひとつは『鳳凰流』。

防御が主体だが相手に攻撃を誘わせて相手の攻撃が来たら素早く交しつつ相手の動きを観測して次に相手が使う技を予測しながら逃げて逃げて相手が疲弊した所を一撃で仕留める。特徴として飛行魔術、高速移動魔術をよく使う剣技だ。


そして最後が『魔神流』

俺たちがいた世界で言う新陰流のような感じだがカウンター技や体捌きを重視して相手の技に流されず柔軟に技を繰り出しながらも隙なく強力な技を打つ剣技。



魔界では3つの流派の技を完璧に覚えれば後は他の流派と対等、それ以上に戦えるという考え方が占めている。

現に俺はほぼ全ての流派の基本的な技を教えてくれたが魔剣流上級の腕並みまで上達した俺は龍神流、魔神流、鳳凰流の技と理論を重点的に教えている。


「殿下、鳳凰流の長所である回避と予測、魔神流の如くカウンターを狙って龍神流のように高火力を叩きつければ良いのです」

「カガリ、言うのは簡単だけどまだ僕はどれも中級程度でそんなの無茶だよ」

「無理ではありません、殿下。殿下は知らずのうちに並の使い手を軽く超える身体強化魔法をかけて私と撃ち合っていますし反射神経や予測や回避も超人ですし戦えば戦うほど強くなっているのを感じます」

え、そうだったのか。どこぞの戦闘民族みたいな感じに今の俺はどうやらなっているみたいだ。

俺は誇り高き魔界帝国の皇子だからな!

行くぞ、カガリ!俺は剣を握り目線で再戦をカガリに挑む。カガリと立ち会いをするまさにその瞬間

「アンリ様〜ここにいらしたのですか!ユノア探しましたよ〜」

俺の許嫁(両親公認)のユノアがやってきた。

せっかくの稽古を邪魔しないで欲しい。


「どうしたんだユノア、僕は今から剣術の稽古をだな…」

「どうしたんではございません!旅支度するために近衛軍宝物庫警備司令官メランシーナ憲兵大佐がアンリ様を呼んでいたのでアンリ様を探していたのです!」

興奮気味に俺の手をいつものようにユノアは引っ張る。

手がいつかちぎれてしまうのではないかと心配だ。

だが、人界に行くための装備品を受け取る事は冒険に出発する前の通過儀礼だ。無視する訳にも行かない。


「悪いカガリ、人界から帰ってきたら宝剣をお土産に持っていくよ」

当分会えなくなる師匠に別れの言葉をかける。

だがカガリは寂しくもなさそうに悲しむ表情を見せななった。もしかして、俺との訓練は楽しくなかったのか?

それは俺にとってはとても悲しい。カガリにもっと技を教えてもらいたい。

だが、カガリは少し微笑みながら話す。


「安心してください殿下、私も旅に同行するように陛下より勅令を受けておりますから!」

「そうだったんだ……良かったよカガリ!カガリがいれば人界の敵なんて怖くない!」

「殿下はすぐに調子に乗るんですから!」

クスクスとカガリは笑う。こんなにも心強い護衛は他には居ないだろう。

「カガリ様と旅に出るなんて、ユノアとても嬉しいです!さぁアンリ様、カガリ様!装備部に参りませんと!」

「そうだった、よし、みんないくか!」

俺たち3人は旅の要となる装備を入手するため宝物庫へと向かった。

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