第5話 宮廷魔導士アリサ

魔界 ドラガルフォン朝魔界帝国帝都『アザルカント』ユベル宮殿。

こちら《私たちの世界》で言うところのロココ様式と近代宮殿建築を合わせたような荘厳かつ威厳のある宮殿であり帝国内で最大の宮殿である。

特徴は宮殿の各所に槍のごとく円塔がたち宮殿の色も黒一色という魔界の大魔王が住まう居城に相応しい出で立ちである事だ。


ユベル宮殿は皇帝をはじめとする皇族の居城であり魔界帝国の中枢部である。

ユベル宮殿の周辺はドラガルフォン家の血を引く一門皇族、皇族に準ずる準皇族の居城、皇帝一家を守護する近衛軍を統率する禁衛府施設、皇宮警察本部、皇宮騎士団本部、宮内省庁舎などの皇宮を管理・運用する部局が置かれている。全ての施設がユベル宮殿を囲むように整然と配置されユベル宮殿より高い建築物は存在しない。


「魔界大帝陛下が住まう宮殿より高い建築物を立てるは不敬である」

という帝国の伝統に基づいて周囲の建築物が設計されている。


帝都アザルカントは都市部を城壁で囲まれ6つのエリアに分けられている。市街地にも各エリアを分ける城壁と門が設けられているが現在は夜間と有事以外は開放されている。

旧市街は帝国各省庁と貴族の邸宅、諸侯の上屋敷などが建ち並びドラガルフォン朝以前の魔界帝国の建築物が居並ぶ歴史地区でもある。

また、魔界帝国の最高学府『アザルカント魔皇学院』や魔界帝国の国教『魔神教』の法王庁が存在する。


新市街は主にオフィス街、市場、下町、教会が建ち並び住んでいる層も平民が多数を占める。主な施設と言えばアザルカント市役所、魔神教アザルカント大司教座、魔界冒険者ギルド本部、商業ギルド本部、帝国劇場、音楽堂などがある。

彼らは商人であったり貴族などの召使いや労働者や宮廷に使える音楽家や芸人など多種多様だ。



旧市街の東は軍事エリアであり帝国軍司令本部と参謀本部が置かれ帝都防衛軍司令部、帝都警備軍司令部などの軍事施設がひしめきあっている。

帝都には皇帝直属の騎士軍も詰めており彼らの組屋敷や将兵の官舎、帝都防衛軍及び警備軍の訓練施設がある。訓練上、兵器や魔法を多用するので軍事エリアは全域が遮断結界が貼られ軍籍証を持つものと1部の身分の者しか入ることが出来ない仕組みになっている。


新市街と旧市街を挟む形でユベル宮殿がある中央エリアが存在し中央街の北は工業エリア、南は農業エリアがあり工業エリア、農業エリア、旧市街地、新市街地にはそれぞれ帝都以外への地域にいく街道へと続く大門があり24時間体制で警備されている。


アザルカントは広いため迷わないために術式が施され夜では自然発光する魔石が各地に配置さている。

ちなちに帝都アザルカントの由来はドラガルフォン朝以前の魔界帝国、最初に魔界を統一した大魔皇『アザルカント・バエル=カオス・エルボレアス』に因むとか。

「アザルカント陛下は唯一の魔族であるカオスの悪魔でしてこれまで存在した全ての魔族を超越する存在なのです!リリューク陛下やアンリ殿下と並ぶほどの美形の魔族なのですよ!」


俺に魔界帝国の歴史を教える宮廷魔導師兼歴史学者の女魔族『アリサ・ハルピュイア・ジン=キュメリオ』は興奮気味に説明する。

彼女はプロ歴史オタクを自称するほど魔界帝国の歴史が好きであり暇があれば歴史資料を読み漁ったり遺跡探検に行ってしまう程だ。

歴史学者以外では彼女は冥級魔導士の称号を持つ魔界最高クラスの魔導士だ。

この世界には剣術・武術・魔術などの分野に等級が付けられている。

等級は見習い→初級→下級→中級→上級→特級→師級→覇級→烈級→霊級→冥級→公→聖→王→帝→皇といった順になり公以降は級が付かず剣術であれば2つ名と併せて『閃光の剣王』と呼ばれ、魔法使いであれば『深淵の魔導王』と呼ばれるようになるらしい。

剣術、魔術それぞれ流派が存在して必ず等級があるのだとか。

俺的には厨二病ぽくて恥ずかしいと思うのは前世の感覚があるからだろう。

こんな感じだがアリサが持つ冥級の位階は各国では大 貴族相当、軍に置いては将軍クラスの待遇を受けることが許される。

事実、アリサの前職は上級大佐だ。

上級大佐は階級こそ佐官だが待遇は将官補で将官の准将と同じぐらいの権限を持つことが出来る。

魔力総量が人族より多い魔族でさえも冥級魔術師はかなり少なく実力社会の気風が残る魔界帝国でさえも上級貴族や軍人でも烈級までしかいかないのだとアリサが教えてくれた。

アリサの見た目は紫色のウェーブロングヘアと緑色の瞳で少し妖艶な感じのある美人だ。彼女は皇太子付侍女頭のメリッサ・ハルピュイア・ジン=キュメリオの実妹である。ちなみにメリッサは剣術・槍術・拳法などの武術等級は冥級、空戦技能は空聖、魔術は特級だそうだ。

メリッサは戦士技能に特化しているらしい。

ちなみにメリッサとアリサが得意とする魔術は魔界では王道を行く『ヴァルディナス流魔術』そうだ。

ここだけの話、メリッサの年齢だが860歳でアリサは820歳だ。

2人は翼人魔族『ハルピュイア』でありハルピュイアの中でも上級種であるため長命であり二人ともまだ若く「20.30年の開きは魔族によくあることですよ」とメリッサが微笑みながら言っていたことを思い出した。


「アザルカント全域には超高度魔力結界が貼られておりどんなに強力な魔法攻撃でも傷1つつけることはかないません。そしてユベル宮殿の主とアザルカントの防衛魔術結界が連動しているので当代最強の大帝リリューク陛下があられる限り難攻不落なのです!」

フンッ!と鼻息荒く早口で興奮気味に話すアリサを見て前世の自分をふいに思いだしてしまった。

前世の自分も歴史オタクで歴史の話をする時はオタク特有の早口で話す悪い癖が出てしまうものだった。

前世の記憶を引き継いで転生したので急成長した今でも思いだす。

いっその事、急成長の魔法で前世の黒歴史ほど吹き飛ばしてくれればよかったのにとつくづく思う


「アリサが良かったら帝国の歴史をもっと教えてくれないか?」

「は!殿下の要望とあれば魔界の全ての歴史をお話致します!」


俺の言葉に水を得た魚の如く目を輝かせて今にも本当の意味で空に飛びそうな勢いだったので抑えるのが一苦労だったのはまた別の話だ。


アリサの歴史授業も終わり一息ついた時ふいにアリサが一言。


「殿下は確か地上世界の人界に旅立つそうですね」

「そうだよ、この後に剣術の稽古があるしそれから準備をしないといけないから大変だよ……」

別れの挨拶も兼ねて皇太子として相応しい授業を受けることになっている。

魔界の時間は1日36時間と長く流れも緩いが朝・昼・夕方・夜はあるし長旅になるのだから時間は惜しいものだ。


「陛下より聞き及んでいるかもしれませんが殿下の人界巡幸にこの不肖アリサも同行させていただきます!」


いや、初耳ですよアンリさん!そんなこと聞いてないわよ!アリサとは急成長の儀式から今日の謁見の半年間、歴史と理論魔術を教えて貰ってそれなりに仲がいいけど急に言われてもびっくりしてしまう。

だが父、いやリリューク大帝陛下の勅令であろう。アリサも魔族だし逆らう訳にはいかないのだ。


「改めてよろしくアリサ!今回の旅は楽しみだよ!」


アリサは満面の笑みで頷いてくれた。

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