第48話 氷の花嫁
国中の宝玉を散りばめ、優れた職人が技巧を凝らした金冠に、中華の粋を幾重にも重ねた絢爛豪奢な婚礼衣装。
豪奢な黄金の玉座に鎮座して、何百杯もの祝杯を受ける。
位の順に、皇帝、皇后、それから師父となる曹承相。その後にも、親善国の王侯大使に、重臣重役の列がずらりと並ぶ。
急な婚礼であったにも関わらず、よくこれだけの準備をしたものだと、蒼龍は半ば呆れていた。
婚礼の儀は三日間続く。
漸く最終日を迎える今夜も、まだバカ騒ぎは続いている。
「ささ皇子、この私めに祝いの杯を受けて戴ける名誉を」
「ああ、これからも宜しく頼む」
「いやあ、目出度い、これで天子さまの御世も安泰というもの」
にこやかに杯を受け取ると、杯に顔が隠れる少しの合間で、蒼龍は小さくため息をつく。
蒼龍は、ちらりと横の花嫁を見やった。
蒼龍よりもさらに重たそうな重厚な衣装のなかに埋もれ、無表情のまま背筋をしゃんと伸ばして座る幼なじみの娘、
全く、よく疲れないものだ。これが小蘭であったなら、ひと時たりともじっとしてなどいないだろうに。
彼女のことを思い出すと、いつも自然と笑みが零れる。
つまらない。俺達はまるで人形だ。お行儀良く並べられた、豪華で立派で、空っぽの傀儡。
次々と訪れる大人達の祝杯を受けながら、彼はまた部屋の隅々に目を凝らす。
それが終わると再び同じ流れを繰り返し、蒼龍はただひたすら時間が流れるのを待った。
______
三日間の宴の後、ひと月の間は毎夜花嫁と閨を過ごすことが、後宮の決まりだ。
このひと月のためにわざわざ設えた豪華な閨は、後宮の北の離館の東向きにある。
以前から小バカにしていた大名行列をつくり、きっかり申の刻に入る。
これもまた、定められた慣習どおりの作法。
凛麗は今宵も天幕の中で、薄絹ひとつでぽつんと据えられ、俺を待っている。
虫の一匹も近づかぬようにと、温室の中でちやほやと大切に育てられた箱入り娘がくまなく身体を調べられ、男の前に薄絹ひとつで差し出される。
気位の高い凛麗には、さぞや屈辱的だろう。
俺とて同じだ。
皇族として、いかに
「何故……私に何かご不満でも?」
「すまない、そういう訳ではない」
初夜、彼女に触れなかった俺に、彼女が尋ねた。無表情が僅かに歪んだ。
憐れな女だとは思う。父親のいいなりに、己の意志とは無関係に世嗣を生むことを決められている。
凛麗は俺と同じだ。彼女もまた、歪みの中で育ってきた。
だからこそ、腹も立つ。
生まれ持っての素養も教養も兼ね備えたはずお前が、簡単な疑問すら抱かないのか。抗おうとしないのか。
その気の強さを、何故弱いものにばかりぶつけるのか。
お前とは違う、俺は抗う。俺は決して、お前のようにはならないと、そう思って生きてきたのに____
俺はかつて、弱かったばかりに愛したひとを守れなかった。
ある日突然、
そして、強くなったつもりの俺は、今度は意地を張ったばかりに、
今のままでは再び同じ事が起こると
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