第41話 陰謀

(ねえ小蘭。ちょっと後で話したいことがあるんだけど)


その日、おどおどと辺りを伺いながら、尚真が小蘭に耳打ちしてきた。


「いいよ、何?」

大きな声で返事を小蘭に、彼女は慌てて手を振った。

「あ、ううん、ちょっと違くて。

今じゃなくてその……

あの、ちょっと長い話になるから、昼食のあとで待ち合わせして、いい?」

「別にいいけど。あ、碧衣も一緒でもいい?食後に約束があるんだ」


「だ、だめ!碧衣には言わないで」

「え?」

いつになく強い口調に驚く小蘭に、彼女は慌てて取り繕った。


「あ、ううん。とても言いにくい相談だから、小蘭だけに聞いてほしいの、二人っきりで、ね?」

「うん、分かった」

約束よ、絶対よ?

何度も約束させた尚真が、少し後ろめたそうに去っていくのを、小蘭は複雑な気持ちで見送った。


何だろう。

碧衣を避けて、私だけに相談なんて。

もしかすると、私と距離を置きたいとか、そういう話なんだろうか。


だとしても、仕方がないと小蘭は思った。


何故なら、あれからひと月を過ぎても、小蘭達に対する凛麗達の嫌がらせが止むことはなかったからだ。


どころか、小蘭が反撃すればするほど、それはますます酷くなっていった。

 近頃では小蘭の友人達、特にあの時言い争った碧衣や尚真に対して、直接攻撃がいくようになっていた。

姉御肌で気も強く、近頃は皇帝のお気に入りとなっていた碧衣と違い、拠り所のない尚真は、相当参っているようだった。


 本人はハッキリ言わないけれど、自分達の見ていないところで相当ヒドイ目にあっていると、仲のいい女官から聞いたこともある。


 尚真は、小蘭や碧衣と違って気が弱いところがある。特に、性格キツ目の碧衣にそれを言うと、怒られそうで怖いのだろう。


 寂しいな。

 昼食の後、碧衣との約束を断った小蘭は、鬱々として尚真との待ち合せ場所に向かっていた。

 にしても、そこまでして聞かれたくないのだろうか。

 尚真が指定したのは、後宮をくまなく探検したことのある小蘭でも知らない、使われていない宝物蔵だった。


 散々探してようやく、小蘭は東宮の隅っこにあるそれを見つけた。


 尚真はというと、

 ……いた!

 蔵の入り口の前に後ろを向き、頼りなさそうに立っている。


「尚真」

 小蘭は、彼女のもとへ駆け寄った。


「ゴメン待った?

 私が出た時はまだ食堂にいたから、私が先かと思ってたけど。

 随分と早かったんだね」

「…………」


 しかし彼女は後ろを向いて、黙ったままだ。


「尚真?」


 変なの。

 トントンと肩を叩くと、ようやく反応する。

 ゆっくりと振り返ったその姿を見、小蘭は"あっ"と驚いた。


 彼女の顔が____

 

「お、まえ」


 あの、雲流だったからだ。


 尚真のヒラヒラの衣装を纏った雲流は、驚く小蘭を見て、醜くくニタァと笑った。

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