第40話 予兆
「あまり意地を張るのもどうかと思いますよ?
きちんと聞いてみなければ、他人の本心など分かりませんから。
少なくとも私は、貴女が犂妃様の身代わりだなどとは思いませんね。髪と瞳、背格好くらいは似ているかもしれませんが」
「どうせ私は、あんなにキレイじゃないもの」
「いえ、美しさは人それぞれですよ。
もっとも、犂貴妃は仮にスープにカエルなど見つけたら卒倒してしまうお方、投げつけたりはしないでしょうね。
小蘭とは全然違う」
「わ、私だって別に、そんなことしないわ。…たまにしか」
小さく付け加えた最後の言葉に、先生はくっと笑いを堪えた。
「私は、黎貴妃と貴女を比べて、どちらかが優れている、と言っているのではないのです。
蒼太子は間違いなく、あなた自身に惹かれていると思いますよ?
ただしそれは、黎貴妃のように庇護欲をそそるのとは違って、寧ろ、意地悪な相手にカエルを投げつける強さや、皇太子である自分に遠慮なく悪態をつく思い切りのよさに。
そんな女性は、あの方の周りには他にいませんから。
ただ、それだけに不安なのでしょう。
自由で闊達。反面、幼くて無垢なあなたを怖がらせてしまわないか、居心地のよい今の関係が崩れてしまわないかと。
無論、諦めきれない黎貴妃への気持ちもあるのでしょうが……
蒼太子は、時を待っているだけだと思いますよ。きっと相当なやせ我慢をして、ね」
「時?」
柔らかに目を細めながら、先生は口を閉じた。
「少し喋りすぎました。
さあもうお行き。君が毒カエルをなげた姫が、もうすぐここへやってくるから」
春明の部屋を追い出された小蘭は、部屋への帰り道に先生の言葉の意味を考えていた。
時を待つ? やせ我慢?
一体どういうことだろう。
先生の仰ることはいつも半分くらい分からない。でもきっと、自分のことを励ましてくれたのだろう。
にしたって、悔しいや。
私ってば本当に、蒼龍のことが好きになっちゃったんだ。
先生は宦官だけれど、誰かを好きになったことが、あるのかなぁ……
凜麗の力は予想以上に大きくて、小蘭への嫌がらせは日に日に激しさを増している。
もちろん、小蘭にだって、心強い味方はいるから、負けるつもりもさらさらないが。
蒼龍に告げ口なんて絶対しない。自分の流儀にあわないから。
けれどやはり、意地は張りすぎるものではなかった。
『時にはかわすことも必要』
『節理を曲げれば、それはいずれ凶事を呼ぶ』
先生の戒めや皇后様の懸念は正しかった。
後日、小蘭はそれを思い知らされることになる_____
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