【第十話(2)】 Live fight!!(後編)


【登場人物一覧】

瀬川 怜輝せがわ れいき

配信名:勇者セイレイ

本作主人公。純真無垢な性格であり、他人の為に全力を尽くす。

センセーの方針によりデッサン技術を磨いており、その経験から優れた観察眼を持つ。

前園 穂澄まえぞの ほずみ

配信名:ホズミ

本作ヒロイン。大人しめで引っ込み思案気味な性格。

機械操作が得意。主に配信ではドローン操作・情報支援を行う。

一ノ瀬 有紀いちのせ ゆき

配信名:noise

役職:盗賊

セイレイの配信に突如現れた、戦闘技術に長けた女性。

勉強熱心であり、日々魔物やダンジョンに関した研究を独自で行っていた。洗練された回避技術を持ち、戦闘ではその能力を惜しみなく発揮する。

千戸 誠司せんど せいじ

通称:センセー

元高校教師。

瀬川と前園の育ての親。また、一ノ瀬の元担任でもある。

彼等の将来を案じており、どうすれば彼等が真っ当に生き抜くことが出来るのか日々苦悩している。

須藤 來夢すとう らいむ

配信名:ストー

役職:武闘家

海の家集落のリーダー。しかし、方針を決める者は別に存在し、彼自身は余所から来た者の対応などの役割を担っている。

格闘家の家系に育ち、幼い頃は格闘技術を叩き込まれたそうだ。


----


彼等の姿を覆っていた土煙が晴れ上がる。セイレイは服に付着した埃を払いながら、剣を鞘に納めた。

「……これで、全部、だな……」

どこか感慨深い様子で虚空こくうを仰ぐ。そのような彼の元へとストーとnoiseは各々に驚きの表情を貼り付けながら駆け寄った。

「すごいじゃないか、セイレイ君。大活躍だったよ」

「正直、ここまで戦えるようになっているとは思わなかった。成長したな、セイレイ」

二人から真っ直ぐに褒められたセイレイは、まるで太陽のように満足げに笑った。

「ううん、兄ちゃんと姉ちゃんがしっかりと指導してくれたからだもん!本当にありがとうっ!!」

調子に乗らず、謙虚にそう話すセイレイ。思わず二人の表情も破顔し、ダンジョン内と言うことも忘れ彼等の間にはどこか温かい空気が流れる。


[いや、本当にすごいなセイレイ。前と大違いじゃん]

[人って成長するんだな]

[なんだか、今の彼は安心して見れる]

[頼りにしてるよ、勇者様]


コメント欄も、セイレイの実力を認めたように評価する。彼はドローンに向けて深々と頭を下げた。

「ありがとう、視聴者の皆。そしてホズミ。皆がいなかったらここまで戦えなかったよ」

ドローンのスピーカーからくすりとホズミが微笑む声が漏れる。

『うん、どういたしまして。皆で乗り越えようね』

[任せとけ]

[皆で戦ってる感じがいいね]

[なあ、初見で聞けなかったんだけどさ、その色つきカードって何?]

応援するコメントに混じり、アクションカードについての質問がコメントログに流れる。セイレイは上手く説明が出来ない様子で、「noise姉ちゃん、ごめん」と床に落ちた魔石を回収していた彼女を呼び寄せた。

「どうした、セイレイ?」

彼女はセイレイの声に振り向き、ドローンの元へと近づく。

「アクションカードについての説明が知りたいって見てる人が」

[アクションカード?]

「あー……」

noiseは顎に手を当て、どこか思考する様子を見せる。どのように伝えれば理解できるかを考えているようだ。

しばらくしてから、彼女は言葉を続けた。

「要は、”安全地帯”を拡大させる考え方だ。質問をくれた人はゲームを……特にマッピングを行うたぐいのゲームをしたことがあるか?」

[マッピング?]

「”不思議のダンジョン”のようなゲームにある、歩いたところから地図が広がっていくシステムだ」

[あー、ある]

「なにそれ?」

ゲームをほとんどプレイできる環境にいなかったセイレイは、noiseの説明にピンときていない様子で首を傾げる。

だが、彼への説明は現在は最優先事項では無いと判断したnoiseは、セイレイを放置して説明を進めた。

「私が考えた”アクションカード”はそれを応用したもの。安全に進める範囲を徐々に拡大していく、ということが主な考え方だ」

[それと、色に何の関係が?]

「色は、今居る場所の警戒度を示している」

noiseはそこで言葉を切った。そして、ドローン……というよりは、ホズミに向けて声を掛けた。

「ホズミ。各色の役割についてコメントに入力できるか?」

『はい。わかりました。アクションカードについての役割は以上になります』

そして、パソコンのキーボードを叩く音と共に、しばらくしてからコメント欄が更新される。

[緑:魔物は周囲に居ない。進行可能。

黄:魔物発見。慎重に進め。

赤:魔物最接近。身を潜めて待機。

黒:臨戦態勢。あるいは敵に見つかった状態]

「……これで分かるだろうか。今は区間内の魔物を殲滅したから、緑のエリアが広がったことになる……私は“トリアージエリア”と命名したがな」

[なるほど、ありがとう。サクサク進む、と言うわけには行かないもんな]

表示されたコメント欄にnoiseはこくりと頷いた。そして、どこか遠い目をして呟く。

「サクサク進むくらいのダンジョンなら、十年もこうやって放置されるはずがないからな……」

[それもそうか。noiseはダンジョン攻略経験がある、って話だったか?確か考察動画で見たんだが]

「そうだ。私は今まで単騎でダンジョン攻略を行ってきた。これほど大規模なダンジョンというのは初めてだが……」

noiseはそこで話を終え、再び瓦礫の奥へと視線を向ける。そして、ゆっくりとダンジョン奥へと歩みを進め始めた。

「とりあえず説明できるのはこれくらいだ。後の話は、潜入を終えてからしよう。二人とも、行くぞ」

「あ、うん!」

「わかった」

セイレイとストーも、彼女に続くようにして歩みを進める。再び、安全地帯を広げるために。


☆☆☆☆


[勇者:黄]

[盗賊:赤]

[武闘家:黄]

noiseは静かに身を潜め、魔物が通り過ぎるのを待つ。彼女の頭上直ぐ近くを、どこか警戒するようにゴブリンがうろついているのが窺える。

ちらりと瓦礫奥に視線を送り、そして考え込むように顎に手を当てた。

(……ついに警戒し始めたか?)

彼女の今潜んでいる場所からは、セイレイとストーが隠れている場所は見えない。その為、魔物に見つからないようにしつつドローンを動かす必要があった。

ホズミはドローンのホログラムを非表示設定に変更し、静かに彼等の間を移動させる。

noiseの元へと辿り着いたドローンは、彼女の元でホログラムを再起動させて情報を伝達する。

[セイレイ:宝箱発見]

(宝箱、か)

その文面を確認するや否や、彼女は魔物に見つかるリスクを承知の上で、素早く瓦礫の間を移動。セイレイへと合流した。

(っ、ね、姉ちゃん?)

セイレイは”赤”の状況に居たnoiseが近くにやって来るとは思わなかったのだろう。目をまん丸にして彼女の方を見る。しかし、noiseは瓦礫の隙間から状況を探り、そしてメモ帳にペンを走らせる。

[宝箱がダンジョン内に存在するという話はしたな]

こくりとセイレイは頷いた。noiseはそれ以上筆談は続けず、瓦礫奥にいるゴブリンの動向を探る。

[推定標的数:15]

[弓2、赤1]

コメントログの情報と、実際の様子を照合しながら、noiseはリスクを取るかリターンを取るか考え始めた。

そして、意を決したようにセイレイに筆談を行う。

[宝箱の開け方を知りたいか?]

セイレイはこくりと頷いた。その返事を見たnoiseは、更にペンを走らせる。

[分かった。リスクは覚悟しろ。私が飛び出したタイミングで戦闘開始]

そこで話を切るようにメモ帳をパタリと閉じたnoise。再び周辺の様子を警戒する。ただ、セイレイの脳裏には疑問が消えず、noiseに耳打ちする。

(……宝箱を開けるだけ、なんだよね?)

だが、彼女は首を横に強く振った。彼の方へと振り向き、小声で返す。

(あの宝箱の所有者は誰だと思う?)

(え?)

元よりセイレイの質問に答えるつもりは無かったのだろう。そこで話を切り、彼女はドローンカメラに向けて“黒”のカードを見せる。

[盗賊:黒]

そのコメントログを確認すると共に、素早く瓦礫の奥から飛び出した。

瓦礫に潜んでいたストーの目が驚愕の色を帯びる。

「noise!?」

「ストー!!”黒”!!予定変更だ!!」

彼女の合図に素早く臨戦態勢に入ったストーも同様に瓦礫の奥から飛び出す。ホズミもどこか慌てた様子ながらも、スピーカーを介して叫んだ。

『っ、推定標的数15!弓2、赤1!!戦闘開始!!』

noiseはまだ臨戦態勢に適応していないゴブリンの背後から短剣を突き立て、素早くその命を奪う。

何が起こったのか理解できていない様子で呆けた表情のまま、そのゴブリンは灰燼と化した。

[撃破数:1]

コメントログを確認したnoiseは更に奥へと切り込み、ゴブリンが体勢を整える前に大きく戦況を荒らし始めた。

ストーとセイレイがnoiseのフォローに入るべく、素早く瓦礫を乗り越えて彼女の元へと駆け寄る。

しかし、視界の片隅に映った光景にセイレイは思わず足を止めた。

赤色の宝箱に動転した様子で駆け寄るゴブリンが居ることに。そして、錠前を持っていた鍵を急いで開けたゴブリンは、宝箱の中から一振りの片手剣を取りだした。

それは、肉厚の、どこかファルシオンを彷彿とさせる片手剣だ。

宝箱を開けたゴブリンはそれと短剣を持ち替え、戦線に参加する。

[なるほど、開けさせるのか]

[確かに言われてみれば、宝箱は俺達のためのものじゃないもんな]

[そう言えばその視点は無かったな]

[撃破数:2]

noiseとストーが戦況を掻き乱す中、セイレイはそのファルシオンを装備したゴブリンと対峙した。

正面に剣を構えたセイレイ。

ゴブリンと剣先のシルエットを重ね、アタリを付ける。正面に佇む緑色のゴブリンの動きをじっと観察する為だ。

やがて意を決したように深呼吸し、セイレイは加速度的に駆け出し徐々にゴブリンとの距離を縮めていく。

「ギッ!!」

間合いがセイレイと重なった時、ゴブリンは剣を大振りに薙ぐ。だが、セイレイはそれを予期しており、大きく足を開き、地面に張り付くような姿勢になりそれを回避。

その姿勢から地面を蹴り上げ、ゴブリンの剣を持つ手に向けて、斬撃を放つ。

「隙だらけ、なんだよっ!!」

「ッギィッ……!」

瞬く間にゴブリンの腕を切り飛ばしたセイレイ。返す刃でゴブリンの喉元に刃を突き立て、あっと言う間にゴブリンを灰燼に変えた。

灰燼の中に残ったファルシオンを拾い上げ、セイレイは自らが持つ片手剣と持ち変える。

そして、すかさず二人の元へと合流するべく駆け出した。


----


[撃破数:5]

「っう……!」

ストーは度重なるゴブリンの剣戟を捌ききれず、肩に斬撃を喰らう。

苦悶の表情を浮かべながらも、目の前に立ちはだかるゴブリンの脚を掴み、ジャイアントスイングの要領で投げ飛ばす。

弓持ちのゴブリンの元へと投げ飛ばしたそれを追いかけるようにnoiseは取り囲むゴブリン達を無視して駆け出した。

「まずは、お前らからだ」

瓦礫を乗り越え、急降下したnoise。すかさず投げ飛ばされたゴブリンと、それに直撃した弓持ちのゴブリンの二匹の喉元に短剣を突き立てる。

彼女を覆うように灰燼かいじんが舞い上がる。

[撃破数:6……いや7か]

「ストー!戦えるか!」

noiseはストーの身を案じるように声を掛けた。だが、ストーは彼女の言葉が聞こえていないようで、目の前のゴブリンの攻撃を難なく受け止めていた。

「……大丈夫そうだな」

『武闘家、体力一割減。継戦けいせん可能です』

ホズミは配信画面に映る体力ゲージの情報を全体に共有した。ダメージが軽微であることを伝え、全体の意欲が低下することを避ける。

その報告内容に安堵したnoiseはストーに合流。そこにセイレイも魔物を切り飛ばしながら同じく合流する。

[撃破数:8]

三人は背を向け合いながら、彼等を取り囲むゴブリンをそれぞれ睨む。

「赤いやつは最後まで動かないと見て良いよね?」

「ああ、その認識で大丈夫だろう。弓持ちは、ホズミのスキル頼りだな」

『任せてください。邪魔はさせません』

「頼りにしてるよ、ホズミちゃん。俺達は短剣持ちに警戒だ」

じりじりと、警戒しながらも距離を縮めていくゴブリン達。より一層、セイレイ達の得物を持つ手に力が入る。

そして、その間合いがお互いに腕を伸ばせば当たるところまで近づいた時。

「行くよ!!」

「ああ!!」

「任せろ!!」

勇者一行はそれぞれ眼前の標的に向けて駆け出した。


----


ドローンはぐるりと瓦礫の合間を縫いつつ、彼等の姿をカメラで捉える。

流星のように煌めく剣戟が、徐々にゴブリンを灰燼に変えていく。

相手を翻弄する素早い動きから叩き込まれる、洗練された一撃が的確にゴブリンの急所を射貫く。

豪快に叩き込まれた一撃が、ゴブリンをコンクリートの壁に叩き付ける。

『させないっ!!サポートスキル ”支援射撃”!!』

ホズミは彼等に目がけて弓を構えるゴブリンに対し、的確に銃撃を浴びせる。喉元に風穴を開けられたゴブリンは、あっと言う間にその姿を灰燼に変えた。

連携が描くその配信は、やがてその動画を見る者を希望に誘う。


「くらえぇぇっ!!」

セイレイは赤色ゴブリンの頭上から、叩き潰すように剣を振り下ろした。しかし、完全に絶命させることは出来ず赤色ゴブリンは灰燼をまき散らしながらもよろよろとセイレイを睨む。

だが、その影に潜むようにnoiseが近づき、その喉元を掻き切った。

「これで最後だな」

切り払う刃と共に、赤色ゴブリンの姿は灰燼と化した。


[撃破数:15]

[なんか、本当にすごい]

[こんなことってあるんだ……]

[うおおおおおおおお]

もはや、偶然で済ませられない希望がそこにはあった。

だからこそ、彼等はうぬぼれてしまったのかも知れない。自分達なら何でも出来る、戦えるんだと。


これから先待ち起こる絶望を、一体誰が予想できたのだろうか。


To Be Continued……

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