【第十話(1)】 Live fight!!(前編)

【登場人物一覧】

瀬川 怜輝せがわ れいき

配信名:勇者セイレイ

本作主人公。純真無垢な性格であり、他人の為に全力を尽くす。

センセーの方針によりデッサン技術を磨いており、その経験から優れた観察眼を持つ。

前園 穂澄まえぞの ほずみ

配信名:ホズミ

本作ヒロイン。大人しめで引っ込み思案気味な性格。

機械操作が得意。主に配信ではドローン操作・情報支援を行う。

一ノ瀬 有紀いちのせ ゆき

配信名:noise

役職:盗賊

セイレイの配信に突如現れた、戦闘技術に長けた女性。

勉強熱心であり、日々魔物やダンジョンに関した研究を独自で行っていた。洗練された回避技術を持ち、戦闘ではその能力を惜しみなく発揮する。

千戸 誠司せんど せいじ

通称:センセー

元高校教師。

瀬川と前園の育ての親。また、一ノ瀬の元担任でもある。

彼等の将来を案じており、どうすれば彼等が真っ当に生き抜くことが出来るのか日々苦悩している。

須藤 來夢すとう らいむ

配信名:ストー

役職:武闘家

海の家集落のリーダー。しかし、方針を決める者は別に存在し、彼自身は余所から来た者の対応などの役割を担っている。

格闘家の家系に育ち、幼い頃は格闘技術を叩き込まれたそうだ。


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かつての日常が失われた世界。

かつての思い出がぐちゃぐちゃに魔の手によって塗りつぶされた世界。

真っ白なキャンバスと化したこの世界で、彼らは言葉ペンを、そして剣を振るう。

生きる為に、戦う。


-第十話 Live fight!!-


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noiseは商品棚に陳列された展示品の家電機器の後ろを縫うように駆け抜ける。弓を持ったゴブリンの射線を切るためだ。

不規則なリズムでステップを刻みながら、確実にゴブリンとの距離を縮めていく。


[止まれ]

[弓引きぼってる]

[危ない!]


『盗賊、そこで待機!』

ホズミの指示に合わせてnoiseはブレーキを掛けるように立ち止まった。

結果から言えば、彼女の指示は的確だった。noiseの前方を掠めるようにゴブリンが放った矢が空気を穿つ。もし、ホズミの指示が無ければnoiseは矢に貫かれていた可能性がある。

noiseはちらりとドローンの方を見て、親指を立てた。

「助かった」

『どういたしまして』

空を切った矢がコンクリートの柱に跳ね返り、地面を叩く音がすると同時に彼女の目の前に短剣を持ったゴブリンが襲いかかる。

無論、戦闘経験豊富なnoiseにとっては予想済みのことだった。

瞬時に斜め後ろにバックステップしゴブリンの斬撃を回避。彼女と入れ替わるようにストーが前線に躍り出る。

「っらあっ!」

ストーは小手を巻いた腕を前方に構え、短剣を受け切る。

「ギィッ!?」

攻撃を受け止められたゴブリンは慌てて身をひこうとしたがストーはそれを許さない。ゴブリンの腕を素早く捻るように鷲掴みし、行動を抑制する。

後方から更に援軍として駆けつけていたゴブリン目がけて、ストーは思いっきりその鷲掴みしたゴブリンを放り投げた。

その光景はまるでドミノ倒しのようだった。ゴブリン共は投げられた味方によって体勢を崩す。


[豪快だなあ]

[やるな、ストー]

[連携がすごい]


コメント欄が彼の活躍に感心する中、セイレイは二人の姿を追い抜くようにして駆け出していた。

姿勢を低くし、空気抵抗を避ける姿勢を取る。彼は大気が収束するように、力強く左足を踏み込む。

収束した大気は、激しく爆発する。

土煙を舞い上げ、セイレイは右手に携えた剣を後ろ手に構えつつ駆け抜けた。セイレイの後方で既に灰燼かいじんと化したゴブリンが崩れ落ちている姿をカメラの端で捉える。


[もう倒したのか!?]

[残り9(仮)]

[撃破数:1]

[さっきゴブリンと対峙してたとこだよな?]


「お前らなんかに、負けるものかああああっ!!!!」

セイレイは高らかに叫びながら、ドミノ倒しのようになり、立ち上がることの出来ない魔物へと剣を突き立てた。

次から次に、抵抗する間も与えずにゴブリンの息の根を止めていく。

彼が剣を振るう度、灰燼が巻き上がる。ゴブリンが咄嗟に繰り出した突きをひらりと踊るように躱し、反撃を叩き込む。

――その姿には、以前魔物に為す術も無く屈するだけだったセイレイの姿は何処にも無かった。

その鬼気迫る姿に、誰もが目を奪われる。


[え?前の配信と同一人物、だよな]

[一体どんな教育ほどこしたのnoiseさん]

[すげえ、マジですげえ]

[成長が著しい]

[撃破数:3

いや4]


「なあ、noise。セイレイ君、ここまで強くなる想定はしていたか?」

「……いや」

コメント欄は元より、セイレイに対し戦闘技術の指導を施したnoiseやストーでさえも困惑を隠せなかった。

『……戦闘中です、二人も支援をお願いします』

しかし、ホズミだけは至って冷静だった。優先順位を違えることなく、二人に戦闘に戻るように指示を出す。

その言葉にハッとしたのか、目を見合わせた二人は頷き合い、セイレイの支援の為に物陰から躍り出る。


[左側 1体遠 盗賊]

[右側 2体近 勇者]

[右側 1体近 盗賊]

[視聴者が訓練されすぎてる]

『勇者、左へ回避。盗賊、左より弓警戒!後方へ回避を』

ホズミは流れるコメントから戦況を判断し、その状況に応じた指示を繰り広げる。

日々配信に向けた準備を行ってきた成果が、確実にその戦闘の中で花開いていた。

視聴者は、彼等の連携、戦闘技術に感嘆かんたんとしながらも適宜戦況支援のコメントを送る。

[撃破数:6]

[右奥側 1体遠:武闘家]

[すげえ、なんだこれ]

[これ真似できる?]

[いや無理。同じ配信方法とっても真似できないだろ]

[撃破数:7]

「ふん、この程度か?」

noiseがゴブリンの正面に立ち、陽動の役割を持つ。ゴブリンの小柄な体躯による素早い動きから繰り広げられる攻撃も、彼女には一切届かない。

バックステップすると同時に、流れるような動きでゴブリンに向けて投石を繰り広げる。それはゴブリンの顔面に直撃し、「ギッ」と小さな悲鳴を上げた。

「任せとけっ!」

彼女に入れ替わるように躍り出たストー。身体を捻り、ゴブリンの腕を掴んで攻撃を受け止める。その勢いのままに首根っこを掴み、地面へと勢いよく叩き付けた。

「ギギャッ……!」

空気が漏れる音が混じった悲鳴を上げるゴブリンに向けて、ストーは拳を振り下ろす。地面にめり込むようにして胸を貫かれたゴブリンの身体は徐々に灰燼と化していく。

[撃破数:8]

その彼の後方を抜けるようにして、セイレイが前線に躍り出た。素早い動きで商品棚を飛び越えるようにして、一気に弓を持ったゴブリンの元へと駆け抜ける。

しかし、既にゴブリンは弓を引いて構えていた。

[無茶だろ!]

[回避して]

[危ない]

[ひっ]

だが、それでもセイレイは距離を縮めることを止めない。代わりにドローンの方へと横目で視線を送り、呟く。

「――信じてるぜ、ホズミ」

彼の声に応えるように、ドローンからタイピングする音が響く。

ホズミがパソコンを操作すると共に、突如として配信画面に”レティクル”が表示された。その理解不能な状況に視聴者は混乱を隠せない。

[レティクル!?]

[FPSとかでよく見る奴だよな?]

[照準みたいなやつか]

[そうそれ]

コメント欄が困惑している間にも、ホズミがキーボードを叩く音が鳴り響く。そして、大声でドローンのスピーカーを介して宣告コールした。

ッターーーーーーン!!!!

彼女が激しくエンターキーを叩く音と共に、ドローンから伸びる腕。そこから火花を散らしながら銃弾がゴブリン目がけて襲いかかる。

「ギギャ!?!?」

腕を銃弾に貫かれ、困惑した様子でゴブリンは悲鳴を上げて弓を落とす。

体勢を崩すゴブリンの喉元目がけて、セイレイは剣を突き出した。

「ぜりゃああああっ!!」

喉元を貫かれたゴブリンは、もはや悲鳴を上げることも出来ず驚愕に目を見開いたままその姿を灰燼に変える。


[撃破数:9]

[残り:1]

[赤いゴブリンが残っているな]

[あとでそのスキルについて説明してくれ]


「信じていたよ。――後はお前だけだ」

灰燼と化したゴブリンから剣を引き抜いたセイレイ。彼は土煙舞い上がる中、悠然と座っていた最後の一体であるゴブリンを見据える。

他のゴブリンが緑色の皮膚をしていたのに対し、そのゴブリンの皮膚は赤色のそれが覆っていた。

どれほど仲間が倒されようとも悠然とした様子で、瓦礫に腰掛けていた赤色ゴブリン。

その様子からも、他の個体とは明らかに強さが異なるのはどことなく勇者一行は理解していた。彼等は一同に並び、赤色ゴブリンを見据えながら話す。

「ストー兄ちゃん、noise姉ちゃん。いける?」

「任せろ。私が気を引く――戦い方は変えずにいくぞ」

「頼んだぞnoise」

「はっ、誰に向かって言ってると思ってるんだ」

ストーの言葉を鼻で笑いながら、noiseは赤色ゴブリンに向かって駆け出した。あっと言う間にその二つのシルエットの距離は縮まる。

「ギィァァッ!!」

ゆっくりと立ち上がった赤色ゴブリンは、noiseに対しその短剣を振るう。彼女は素早く身を捻り、その剣戟を回避する。避けた姿勢から彼女自身も鋭い突きを繰り出すが、その魔物は返す刃でnoiseが放った突きを弾いた。

「チッ」

noiseは忌々しげに舌打ちしながらバックステップし、赤色ゴブリンから距離を取る。悠然ゆうぜんとした様子で、そのゴブリンは短剣を握り直した。

その立ち姿に、どこにも隙は見当たらない。

[こいつやべえ]

[noiseと張り合うのかよ]

[もう真似できないの確定してしまった]

[それな……]

体勢を立て直したnoiseは、ストーの方に視線を送る。

「ストー、私の合図で交代するぞ」

「分かった」

ストーの返事とほぼ同時に、彼女は”ふくろ”の中からダガーを取りだし、素早くそれを投擲とうてきを繰り出す。

赤色ゴブリンは次から次へと襲いかかるそれを難なく弾く。しかし、彼女にとって、それは予定調和だった。

「ストー!!」

「了解!」

最後の一本のダガーを投擲するタイミングでnoiseはそう叫ぶ。そして、そのタイミングでストーに前線を譲り、代わりに彼が躍り出る。

赤色ゴブリンが眼前に迫るダガーを弾くと同時に、ストーはその魔物の脇をくぐるようにして後ろから羽交い締めにした。動きを拘束された赤色ゴブリンが苦しそうに悲鳴を漏らす。

「ギッ……!」

「今だっ!!セイレイ君!!」

ストーが叫ぶ前に、既にセイレイは大地を蹴り上げ駆け抜けていた。カメラを捉える彼の姿がモーションブラーを引き起こす。

残像と共に、徐々に赤色ゴブリンの元へと距離を縮めていく。土煙が勢いよく舞い上がり、カメラを捉える彼の姿が不鮮明となる。

「これが……俺達の、Live配信だあああああああっ!!!!」

「ギィァァァァアァァアッ……!!」

セイレイの激声と共に、赤色ゴブリンの断末魔が響く。より一層土煙は激しく舞い上がり、配信画面が彼等を捉える姿を瞬く間にかき消した。

[どうなった?]

[見えない]

[鳥肌立ったわ、なんだこいつら]

[すげえ、マジで勇者じゃん]

「セイレイ君……』

配信画面を見守るホズミも、視聴者も、どこか固唾かたずを飲み込んでその土煙が収まるのを待つ。

――やがて、セイレイは剣を切り払った。その勢いで土煙は瞬く間に舞い上がり、曇っていた画面が鮮明になる。


その場には、赤色ゴブリンだった灰燼だけが残されており、勇者一行はただ静かに佇んでいた。


To Be Continued……

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