【第九話】 勇者パーティによるダンジョン配信の開幕

【登場人物一覧】

瀬川 怜輝せがわ れいき

配信名:勇者セイレイ

本作主人公。純真無垢な性格であり、他人の為に全力を尽くす。

センセーの方針によりデッサン技術を磨いており、その経験から優れた観察眼を持つ。

前園 穂澄まえぞの ほずみ

配信名:ホズミ

本作ヒロイン。大人しめで引っ込み思案気味な性格。

機械操作が得意。主に配信ではドローン操作・情報支援を行う。

一ノ瀬 有紀いちのせ ゆき

配信名:noise

役職:盗賊

セイレイの配信に突如現れた、戦闘技術に長けた女性。

勉強熱心であり、日々魔物やダンジョンに関した研究を独自で行っていた。洗練された回避技術を持ち、戦闘ではその能力を惜しみなく発揮する。

千戸 誠司せんど せいじ

通称:センセー

元高校教師。

瀬川と前園の育ての親。また、一ノ瀬の元担任でもある。

彼等の将来を案じており、どうすれば彼等が真っ当に生き抜くことが出来るのか日々苦悩している。

須藤 來夢すとう らいむ

配信名:ストー

役職:武闘家

海の家集落のリーダー。しかし、方針を決める者は別に存在し、彼自身は余所から来た者の対応などの役割を担っている。

格闘家の家系に育ち、幼い頃は格闘技術を叩き込まれたそうだ。


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[皆様、お待たせ致しました。本日午前より、勇者パーティによるダンジョン配信を開始します]

[マジ?]

[期待してる、コミュニティで話した方法でコメントしたら良いんだよね?]

[はい。皆様の力を是非ともお貸しください]

[了解、支援させて貰うよ]

[頑張ろう]

[これでダンジョン攻略できたらモデルケースになるかもな]

[いやnoise規格外すぎて参考にならんでしょ]

[ここの人達なんかやたら訓練されてるな]

[さて、私は配信の打ち合わせがありますので、一先ず失礼致します。では、後ほど]

[頑張って]

[乙]

[待ってる]

[セイレイがどれだけ強くなってるか楽しみだね]


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「お待たせしました!!」

Sympassを終了させた前園。パソコンを抱え、皆の元へと駆け寄る。

既に全員、家電量販店入口付近の駐車場敷地内で待機していた。一ノ瀬は彼女に向かって大きく手を振る。

「あ、来た来た!穂澄ちゃん。準備は出来た?」

「はい、皆……特に、セイレイ君。大丈夫?」

心配そうな表情を浮かべ、前園は上目遣いで瀬川の顔を覗き見る。彼女の視線に気付いた瀬川は、安心させるように柔らかな笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ穂澄。前と違って、ストー兄ちゃんも有紀姉ちゃんもいる。それに」

瀬川はそこで言葉を切り、彼女が持つパソコンへと視線を送る。

「今回はインターネットを介して皆が協力してくれる。そうだろ?」

彼の言葉に、前園は改めて自身の持つ役割に責任を実感したようだ。覚悟を決めたように口をつぐみ、力強く頷いた。

短い期間の内に、配信者として成長した彼等の姿に千戸は感慨深そうに腕を組む。

一ノ瀬は、千戸の方へと近づいた。そして、千戸と同じ方向を向きながら話し掛ける。

「千戸先生。セイレイも、穂澄ちゃんも、すごく成長していると思いません?」

「……ああ、責任を背負ったことで二人とも強くなったんだろうな」

その言葉に同意した一ノ瀬は深く頷いた。

「そうだと思います。今の彼等なら私も安心して背中を任せられます」

「頼んだぞ、皆のことを」

「任せてください。ダンジョン攻略の先輩として、彼等を導きます」

だが、彼女も他人の命を背負う経験は初めてなのだろう。緊張を隠すことが出来ず、大きく深呼吸を繰り返す。

彼女らしくない、どこか強ばった様子で歩く一ノ瀬に、千戸は声を掛けた。

「一ノ瀬」

「な、なんですか?千戸先生」

「お前は確かに、守る側かも知れない。けど、困った時にはセイレイは助けになってくれる……だから安心しろ」

彼の言葉に、一ノ瀬の脳裏を過るのは自身の過去を打ち明けた時の瀬川。いとも容易く一ノ瀬を縛り付けていた呪縛を取り去ってしまったことを思い出し、相好そうごうを崩す。

「ふふ、ですね。彼は間違いなく勇者……勇者セイレイです」

そう言って、瀬川と一ノ瀬はガラスドアをじっと睨んでいた須藤の元へと歩み寄る。

「ストー兄ちゃん、お待たせ!」

「待たせたな、須藤。トイレは済ませてきたか?」

「そんな遠足の待ち合わせみたいに言うなよ……正直さ、今は心躍ってるんだ」

場違いな彼の言葉に、二人はきょとんとした顔でお互いに見合わせる。その様子がおかしく思えて、須藤は小さく吹き出した。

「や、だってさ。このダンジョンを解放すれば、集落に電子機器が供給できるようになる。インターネットを使って外部との連携が取れるようになるんだ」

「あっ」

瀬川は「そう言えばそうだった」と言わんばかりに声を上げた。そして、己の失言に気付いたのか慌てて自分の手に口を当てる。

彼の様子がおかしく映ったのか、須藤は苦笑しながら彼の頭をぽんと叩いた。

「瀬川君がそこまで気にすることじゃないさ。君は過去の後悔を取り戻したいんだろ?」

「う、うん。ごめんね兄ちゃん?」

「あははっ、謝ることじゃないよ。一ノ瀬もダンジョンを攻略し、追憶のホログラムを回収するという目的でここに居るんだ。皆違う理由だけど、目的は同じさ」

須藤はそう言いながら、ガラスドアに手を掛ける。その腕には、甲冑の小手が巻かれていた。

彼の後ろに並ぶように、瀬川と一ノ瀬は立つ。

瀬川は腰に差した片手剣を確かめるように触れた。一ノ瀬は腰に携えた短剣の鞘の位置を直した。


そんな三人の後ろに、空を泳ぐドローンが付いていく。

「準備は良いですね?……それでは、”勇者パーティによるダンジョン配信”開始します」

前園がコールすると同時に、須藤はガラスドアを思いっきり開き、ダンジョンへと歩みを進めた。


☆☆☆☆


家電量販店の入口は、相変わらず崩れ落ちて二度と機能することのないエレベーターや、もはや階段としての役割さえ果たすことの出来ないエスカレーターがそこには佇んでいた。

ストーはどこか懐かしむように、しかし悲しげな表情を浮かべる。

「昔、家族でよく来たんだけどな……俺さ、ゲームとか結構好きで」

「ストー兄ちゃん……」

昔を懐かしむ彼を余所に、noiseは先行するようにコンクリートが剥き出しとなった階段の前に立つ。

「昼頃になれば日差しがダンジョン内に差し込まなくなる。視界を奪われたらタイムオーバー……あまり時間は無い。懐かしむのは後だ」

彼女の言うことは最もだった。ストーはスイッチが入ったように真剣な表情を作り頷く。

彼等についていくドローンから、前回の配信同様にホログラムが表示される。そこから、配信を見ている視聴者からのコメントが打ち込まれていく。


[あれ、見ない顔が居る]

[こうやって配信に参加する人のリストが左下に出るのね]

[ストー……変わったネームだなあ]

[本名がおおよそ予想着いてしまう]


コメント欄に打ち込まれているように、確かにホログラムの左下には[セイレイ][ストー][noise]と三人の名前が縦に並んでいた。

瀬川はその表示された名前に疑問を示す。

「あれ?”勇者セイレイ”じゃないよ?」

『それは私が勝手に変更しました』

彼の疑問に答えたのは、ドローンのスピーカーから響くホズミの声だ。彼女は淡々とした波長の声で告げる。

『今回から“勇者セイレイ”ではなく、”勇者パーティ”として活動して頂きます。それに伴って、私からストーさん、noiseさんにも役職を振っておきます』

「役職?」

noiseはその言葉の意味が分からず首を傾げた。

ところが、その疑問は織り込み済みだったのだろう。彼女は予め用意していたように淡々と説明を行う。

『はい。セイレイ君が勇者を名乗っているので、それに合わせて考えてきました』


[用意周到すぎる]

[ノリノリじゃん]

[そこ必要……??]


コメント欄に総ツッコミされたホズミ。ドローンから彼女の咳払いする音が聞こえた後、再び彼女は話し始める。

『ストーさんは武闘家、noiseさんは盗賊……と役職を与えておきます。二人とも、よろしいですか』

「俺は良いけどさ……」

ストーはどこか困惑した様子で首をさする。彼の視線の先にいるのは、不満げに彼女はドローンをじっと睨み付ける彼女だった。

「武闘家はともかく、盗賊は失礼じゃないか、誰が盗人ぬすっとだ」

『あ、えっとゲームになぞらえたので……』

しどろもどろしながらもホズミは言い訳するように説明する。しかし、議論するだけ時間の無駄だと判断したのかnoiseは小さく息を吐いて、階段の先を見据えた。

「帰ったら説教だ。……それじゃあ、始めようか。勇者パーティのダンジョン配信を」

「あ、それ俺が言おうと思ってたんだけどなあ……」

決めゼリフを取られ、残念そうに項垂れるセイレイ。彼に対し、noiseはにこりと柔らかな笑みを浮かべた。

「また次があるでしょ、ほらシャキッとする!勇者様っ」

「分かったよ、姉ちゃん」

こくりとセイレイは頷き、真剣な表情を作って階段を上り始めた。


[姉ちゃん?]

[あれ、この二人姉弟だったっけ]

[おい説明しろ]

[何かnoiseさんセイレイにだけ態度違くない?]

困惑するコメント欄の人々を放置して、勇者達はダンジョン内へ歩みを進める。


----


階段を上った先――家電売り場へと辿り着いた一行は、瓦礫の陰から半身を覗かせるようにしてダンジョン内の様子を探る。

noiseは懐から取り出した”アクションカード”をそれぞれに配った。赤・黄・緑・黒の四色のカードを二人は受け取る。


[ここから先はしばらく喋ることは出来ません。私もコメント欄に情報を打ち込んでいきます]

[了解]

[打ち合わせ通り、俺達は皆の色を入力すれば良いんだな]

[はい。お願いします]

[何だこのコメント欄。訓練されすぎだろw]

[皆で攻略している感は強いけどさ]


配信を初めて見た人達から、困惑した様子の文面がうかがえる。ホズミとしても、その状況は織り込み済みだった。

[初見の方々には困惑させてしまい申し訳ないです]

[いや、大丈夫]

[さっきコミュニティのログ追ってきた。何となく把握した]

[有り難うございます]


ホズミがコメント欄への返信を終えたのを確認したnoise。彼女が先行するようにして、素早く瓦礫の合間を移動する。

しばらくして彼女は緑のカードを掲げた。

[盗賊:緑]

それを確認したセイレイ、ストーはそれぞれ分散するようにして、noiseの左右に位置する場所に潜む。

二人は瓦礫の隙間から状況を探り、それぞれ、状況に応じたカードを掲げる。

[勇者:黄]

[武闘家:緑]

そのコメントを確認したホズミは、ドローンをセイレイの下へと移動させる。コメント欄を確認したセイレイは、素早く瓦礫間を移動しnoiseへと合流。

(姉ちゃん、俺の方にゴブリンいた)

(わかった。索敵だな)

小声で情報を共有した二人は頷き合い、物陰に潜みながら状況を窺う。

続いてnoiseは人差し指を上に向け、ドローンに浮上を促した。

彼女の指示に従うようにして、ホズミはドローンを上昇させる。高所から俯瞰ふかんするようにダンジョン内の様子を探った。


[ゴブリン共はセイレイ側の方に居たんだな。おおよそ10?]

[弓3]

[区間ごとにゴブリンが固まっている印象を受けるな]

[何か一匹赤くない?]

[群れて行動するのがセオリーなんだろう。個では厳しいと自覚しているようだ]

[ただこの区間、瓦礫の位置的に避けて通るのが厳しそう]


コメント欄から情報を得たホズミは再びドローンを下降させ、そのコメントログをnoiseへと見せて情報共有を行う。

(弓3か……)

ボソリと呟き、続いてストーの方へと視線を送る。彼を手招きし、自身へと合流させた。

noiseはポケットに入れていたメモ帳にペンを走らせ、その文面を彼らに見せる。

[瓦礫の位置的にも、戦闘は避けられない]

目を通した二人は覚悟を決したように頷く。そして一同は慎重に行動し、ゴブリンの群れが居る区間の前まで移動する。

noiseはドローンのカメラに写るように、黒のカードを取り出す。

[勇者パーティ:黒]

そのコメントログが流れるのとほぼ同時に、noiseは駆け出していた。それに重なるようにドローンのスピーカーから穂澄の声が響く。

『ゴブリン目視――推定標的数、10。戦闘開始!!』

ホズミの声と共に、セイレイとストーも駆け出した。

大地を強く蹴り上げ疾走する二人、カメラが捉える姿はモーションブラーを引き起こす。

瓦礫の合間を縫いながら駆け抜ける三人。彼等は迷うこと無く、各自得物を構え、ゴブリンの元へと距離を縮める。

「せああああああっ!!!!」

セイレイは目を丸くして驚いているゴブリンへ向けて、鞘から剣を一気に振り抜いた。


真っ白なキャンバスと化した世界。その世界の中で勇者パーティは”黒”を始まりとして、新たな物語を描き始める。


To Be Continued……


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