異世界探索記-日常-

異世界転移

 何だ?今度はどこに飛ばされた?


 目線を上げてみれば、そこは赤い煉瓦の屋根に白い壁、石畳が綺麗に敷かれた、有り体に言えば中世ヨーロッパっぽい外観をした建物が立ち並ぶ場所。


 の、道のど真ん中だった。流石に邪魔やろ。通行人誰も気にしてねーけど。


 辺りを見渡してみれば、後ろには一際縦にも横にもでかい建物。同じく煉瓦造りで、壁の高い位置には時計盤がついている。


 浮上する可能性としては、過去の世界か異世界の二択か。あーでも一応夢の中とかもあるか。とりあえず、どう考えても元の世界じゃねーんだろうな。


 ガンケースからバレット・モデル82を取り出して構える。リーサルウェポンは足って自覚はある。けど、近遠両刀ってのは戦闘において大事だ。仮にライフルがぶっ壊れても距離詰めて戦う事も出来るし、最悪武器でダメージを受け流す事も出来る。

 逆に、足が使えなくても手があればぶっぱなせるし、遠距離から不意打ちで相手を狙う事も出来る。

 まーつまりあれだ、武器は何個か持っといた方がいいぜ、って話。経験則だ。


 武器を持たなかった頃、モロに食らったのヤバかったな……と過去回想に浸ってたら、違和感を感じた。


 ライフルとマシンガンを持ってるんやから、いくら人より力が強いとは言え重さはそれなりに感じる。銃器二つ、その重さを感じられないほど私は人間やめてねーから分かる。


 明らかに軽い。軽すぎる。片手で持っても苦じゃない。なんなら指2本あれば十分じゃねーか?これなら両手持ちの乱射なんかも出来そうやな。


 とりあえず、この世界に関する情報が欲しい。


 そう思って、でかい建物に向かって軽く1歩足を踏み出した。

 8軒先の建物の前に瞬間移動した。目的地は、一瞬で近くなった。


 ……いや、こんなに速くなかったぞ。


 考えられるのはいよいよ1つ。


 ここ、異世界じゃね?しかもなんか変な補正かけられてね?

 変な事になってんだけど。なんで?

 え、シンプルになんで?

 わかんねーことはむしろ増えたけど、一旦黒乃達に連絡……


「ねえ、そこの赤茶髪の君」


 急に背後から声が飛んできた。

 赤茶?私の髪は赤茶色やけど…あ私か。ほぼ名指しって訳か。

 警戒しながら振り返ると、そこには笑みを浮かべた紫髪の女がいた。右手にはロケランを携えて、だ。殺気や敵意は感じない。

 ……けど、武器を持ち歩いている奴が穏やかな訳ねーんだよな。私もやけど。

 そして、通行人が全員、左右の壁際に寄って静かになった。王に道開けてんのかよ、って位に。


 ……こいつヤベー奴確定だろ。


「ここに何しに来たの?」

「…誰だお前」


 そっとライフルの銃口を相手に向ける。嫌な予感をひしひしと感じる。


「人に名前を聞く時は自分から、でしょ?」


 無邪気な笑みを深めるが、目は笑ってない。

 ……まずい、かも、な。


「そんなテンプレ求めてねーから答えろよ」


 心拍数が速い。嫌な予感は更に強まる。第六感が告げる。


 ──何か、来る。


 咄嗟に私は銃を下げて右側に跳んだ。背後から誰かの拳が、左手に持っていたバッグを粉砕する。衝撃でスマホもゲーム機も、ただの細かい破片となって地面に降り注いだ。バッグも既に持ち手しかなく、風に煽られて革がゆっくりと舞う。


 今の一撃にも、殺意と敵意は感じなかった。そして気配も。

 本当にギリギリで、対応しきれた。後少し対応が遅れてたら?

 ……考えんのはやめだ。


「へえ、凄いんだね、君」


 凄いなんて言う割には、そんな感情がミリも込められてない言葉を向けられる。

 紫髪の横に、そいつより頭2つ分背の高い、黒い人型がいつの間にか立っている。


「……褒められても嬉しくねーな」


 右目を前髪で隠した黒髪の男は、無言で私を見下ろしている。バッグを壊したのはこいつだろ。紫髪の方、動いてねーもんな。

 マシンガンを取り出す余裕は無い。ダメージレースは恐らく負ける。体力勝負も人数差で不利。身体能力は見てねーから逃げ切れるか不明。


 さて……どーするか。

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