間・引っ越し

私はあるトタン式の一軒家のインターホンを押した。


「はいはい…」

引き戸が開き、中からおばあちゃんが出てくる。


「あら、アンタかい…もう引越しの準備は終わったのかい?」


「えぇ、元々雷宝町でしたからね。業者を頼むまでもありませんでした」


私はこのおばあちゃん…私がこれから住むことになるとある取引をした。


稲炭 多郎が写っていたあの。それを渡す条件に、彼女の所有するアパートに住んで欲しいと頼まれたのだ。



   ◆ ◆ ◆


「ほぉ、ここのアパートに引っ越せと。ちなみに家賃はどのくらいですか?」


「家賃は月三万、今は人が誰もいないからね…駐車場も自由に使って良い」


えぐやすぅ…今住んでるアパートに比べて二、三万はは浮く…

「音の問題と交通網は?」


「アンタ一人だからねぇ…この辺は変なのも少ないし、商店街は夜になると店が閉まるから夜は快適に寝れる。バス停も近くにあるし、自転車を使うんだったら駐車場を使えば問題ない…どうだい、契約する気になったか?」


私はニヤリと笑い、彼女の方を見てこう言った。

「ぜひお願いします」




   ◆ ◆ ◆


そんなわけで、私は引っ越しをする事になったのだ。

幸い…も無く、元のアパートからそこまで距離も離れていなかったため、引越しはスムーズに行われた。


「ふぅ…こんなもんでいいかな」

私は家具が置かれた部屋をぐるりと見渡す。1LDK の部屋にはタンスとダイニングテーブル、その他諸々…キッチン用品も忘れず完備。

そして、ダイニングのを開けると、年季の入った小さな畳が敷かれていた。私はここに、小さな仏壇を置く。大きな仏壇では無いが、私にとっては大切なものだ。


引っ越してきてから初めて線香に火をつけた。鐘を三回鳴らし、手を合わせる。


「母さん、父さん…俺、頑張ってやってるよ」






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